父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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ガチャ屋開業編

058 アラタ、慌てる

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 その頃、王都ではカナタが行方不明になって20日になるため、カナタの死亡手続きが粛々と進められていた。
アラタが再度王都に上って正式な死亡手続きを行ったのだ。
貴族家は、その跡取り問題で揉めることが多いため、その生死は1か月以内に報告する義務が当主に課せられている。
カナタの場合は正式には行方不明なのだが、行方不明になった経緯が時空間事故のため、2週間が経った時点でもう生存の望みが無いと判断された。
同時にジェフリーの廃嫡――というか嫡子登録抹消――の手続きも行ったため、アラタの子供はナユタたったひとりとなってしまっていた。

「そんなに気を落とすな。
俺が側室を見つくろってやるから、また子をつくれば良い」

 そこは王城にある特別な一室だった。
無責任な台詞を吐いているのは、この国の王ヒカル=セイン=ラル=メルティーユ、勇者ヒカルその人だった。
年齢はアラタより2歳下の38歳、勇者として魔王討伐を成功させて13年の月日が経っていた。
その功績で王女と結婚、王女の父である前王から王位を継いでからもう10年になる。
ちなみにアラタも魔王討伐に同行した功績で実家が辺境伯と同格の中央伯に陞爵、後に家を継いで中央伯――通常は略して伯爵となっている。

「そうだな」

 アラタは心此処に在らずという様子で返事をした。
この世界、正室以外にも側室や妾を持つのは当たり前だった。
いつ子供が亡くなるかわからない世では、爵位を継ぐ跡取り候補が何人いても良いという考えだった。
アラタも3人の男児がいたため敢えて側室を増やしていなかったが、ここに来て2人も子を失ってしまったことで、側室を娶るのも良いだろうと勧められているのだ。
尤も跡取り候補が多くなりすぎると世継ぎ争いというものも発生し面倒なのだが……。

「まあ、また何かあったら相談に来い。
呪いを解いてやれない不甲斐ない俺だが、酒の相手ぐらいは出来る」

 アラタが呪いを受けたのは、勇者ヒカルを庇ってのことだった。
魔王が倒れるとき、油断した勇者ヒカルに魔王が放った呪いを、アラタが身を以て盾となり受けたのだ。
アラタの呪いが本来は勇者が受けるべき呪いだったことで、勇者ヒカルもアラタに負い目を感じていた。

「それは言うな。俺が自ら進んで行ったことだ」

「いや、そのために亡くなった息子カナタにも呪いの影響があったそうではないか。
こちらでも呪いを解く手段は探している。
次の子供には影響が出ないように魔法結界等の援助もするつもりだ」

 今になれば、生まれながらの障害を軽減する手段が見つかっていた。
カナタの時にはそれが間に合わなかった。

「カナタ、呪いの影響を受け続けた一生だったな……。すまん」

 国王とアラタは、この日深酒をするのだった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌日。

「よかった。こちらにいらっしゃったのですね?」

 アラタが王城からお暇しようと控えていた大広間へ、王都冒険者ギルドの副ギルドマスターが慌ててやって来た。
副ギルドマスターは部屋の隅に居るアラタを見つけると慌てて走り寄って来た。

「緊急の用件があって来ました。
ファーランド領に問い合わせたところ、こちらとの事でしたので、慌てて伺った次第です」

 アラタは副ギルドマスターの慌てた様子を不思議そうに見ながら、次の言葉を目で促した。
ファーランド領へ問い合わせたということは、早馬の往復で6日、情報の鮮度が6日は落ちているのだ。

「グリーンバレーのギルドから、御子息であるカナタ様を名乗る貴族証明書を持った7歳児が現れたと問い合わせがありました」

 グリーンバレーの受付嬢さんが気を回した問い合わせが、やっとアラタまで伝わった瞬間だった。
この問い合わせは、一度グリーンバレーの冒険者ギルドの中で保留にされ、ギルドマスターが見つけたことで魔導便が使われることとなり、やっと王都まで伝わったのだ。
冒険者ギルドでは内部処理の書類を定期的に纏めて魔導便でやり取りしていた。
魔導便とは、高価な転移魔導具を使った郵便手段だ。
高価な上級燃料石を使い捨てるので、よほどの緊急時か大金を積まなければ使用できないものだった。
それに便乗出来るのは稀であり特別なことだった。

「カナタ様は11歳、しかし現れた少年は7歳に見える。
偽者にも見えるが、貴族証明書は本物だったとのことで問い合わせに至ったようです」

 その副ギルドマスターの言葉にアラタは身震いをした。
7歳児に見えるという特徴こそカナタ本人だからだ。
貴族証明書を持たせたのも万が一があった場合に備えてのこと。

「カナタだ。間違いない。
11歳という貴族証明書を手に入れたなら、11歳児に見える偽者を用意するだろう。
だが、カナタは成長不良で7歳児に見える体格をしている。
それを知り得ない限り、わざわざ7歳児の体格で偽者を用意するような奴はいないだろう。
カナタはファーランド領を、いやファーランド領の屋敷を出たことがない。
誰がカナタの特徴を知っているのだ?
そんな偽者など有り得ないはずだ!」

 アラタはカナタが生きていると判明し歓喜した。
どうやって生き延びたかなどどうでも良かった。
生きていたという事実だけが有難かった。

「ファーランド伯爵、こちらにいらしたのですね」

 今度は王都の財政官がアラタの元にやって来た。

「ウッドランド子爵より魔導便の緊急連絡が来ました」

 ウッドランド子爵は、その財力に物を言わせて魔導便で一瞬のうちに王都へと手紙を運んだのだ。
そこからファーランド領まで手紙が移動するはずだったのだが、たまたまファーランド伯爵アラタが王都にいるということで、財政官が直接手紙を持って来たのだ。
ちなみになぜ財政官が来たかというと、王城には魔導便の魔導具が王家以外には財務大臣と軍務大臣のところにしかないからだ。
ウッドランド子爵は、財務畑なのでそちらを利用したというだけのことだ。

 財務官から手紙を受け取ったアラタは、ウッドランド子爵からの手紙を読むと目を見開いた。

「カナタとウッドランド子爵の二女を婚約させたいだと!?」

 これでカナタが生きていることは確定だった。
しかも、貴族家の姫との婚約話が舞い込んで来ている。

「ウッドランド領とは何処だ?」

「ファーランド領から南に5つ目の領地ですね」

 ウッドランド領まではおそらく1か月はかかる旅程だろう。
貧乏なファーランド伯爵家では魔導便など使えないので、直接出向かなければ話も出来ない状況だった。

「しまった。カナタの死亡届が受理されたばっかりだぞ!」

 カナタが生きていたことは嬉しかったが、カナタの貴族籍を回復するのは至難の業で、アラタは頭を抱えることになった。
まず、生きていたカナタが正真正銘の本人であることを確認しなければならない。
そのためにはカナタをこっちに呼ぶか、誰か権威のある人物がカナタに会って本人と証明するしかない。
カナタを呼んで王都まで来させるのに1か月、誰かを行かせてカナタを確認し戻って来るまで2か月。
カナタが戻って来ないのは戻れない理由があるのだろう。
となると誰かを派遣するしかない。

「とりあえず、仮の貴族籍復帰届を出しておくか……。
しかし、カナタが婚約とか、どうなってるんだ?」

 この世界の通信事情に翻弄されるアラタだった。
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