父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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南部辺境遠征編

078 カナタ、商人と交渉する

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「助かりました。私はザイード商会のザイードです」

 カナタが盗賊の死体を【ロッカー】に仕舞っていると、助けた商人の男が近づいてきて名乗り礼を言った。
ザイードは、中堅商会の跡取り息子だったため、商会に身代金を要求するために生かされていたのだそうだ。
まあ、今は修行中でただの個人商会の経営者だそうだが、親に要求すれば金が出ると盗賊は見込んだらしい。
彼はオレンジタウンから馬車2台でウッドランドに向かっていたところ、この街道沿いで襲われた。
護衛として雇っていた冒険者が盗賊の一味だったそうで、御者は馬車を止めるためにその冒険者に殺されたそうだ。
ザイードがオレンジタウンで何を仕入れたのかも筒抜けだったそうだ。
馬車にはザイード商会のエンブレムが描かれており、そこで判別が可能であり彼のものであることは間違いなかった。

「さて、ここからは商売の話だ。
この王国の法により馬車も荷も盗賊団を討伐した君たちのものだ。
私も助けられたので、後でしっかり謝礼金を渡すつもりだ。
しかし、私も商人なので、馬車と馬車に残った荷は引き取りたい」

 これは、討伐戦利品の優先譲渡権というものだった。
討伐戦利品が所有権を主張した本人の物と判明すれば、ある程度の引き取り金を渡すことで優先的に返してもらえるという権利だった。
これは主に遺族による遺品の回収を目的とした制度だったが、襲われた直後で荷が無事な場合に商人が交渉で荷を取り戻すことも多々あった。
カナタは、ララが居れば交渉事に強かったのにと思いながら、ザイードとの交渉に入った。
双子のルルも知識はあるようなのだが、人と言い合うという行動自体が苦手だった。
それに、ルルは1人だけ街道に残して来てしまっていた。

「私からの提案は荷の販売益・・・の半分を渡すというものだ。
馬車は出来れば価値の3割で勘弁して欲しい」

 馬車は持っていても経費がかかるばかりなので、価値の3割払ってもらえるなら申し分ないだろう。
カナタが馬車屋に売り払ってもせいぜい3割、それを商人が買い戻すのに馬車屋に6割払わなければならないという感じだ。
つまり商人はカナタに3割、馬車屋に3割の合計6割払うことになり、カナタに直接3割払った方が得だということになる。
そして、カナタは馬車屋との面倒な交渉や、それまでの維持経費を省いて、直接3割の利益を得られる。
もう少し色をつけてもらうことも可能なのかもしれないが、盗賊に襲われたばかりの商人にはそうするだけの財力が無いので仕方ないとカナタは割り切ることにした。
断って馬車屋に売ってもどうせ3割なのだから。

 そして、もう一つの問題、販売益の半分なのだが、これにはあまり宜しくないカラクリがあった。
カナタが荷を売れば荷物の販売額・・・が手に入る。
そう、販売益と販売額は似て非なるものなのだ。
販売益は仕入れ値や人件費などの経費を抜いた金額だ。
しかし販売額ならば、その荷が売れた金額そのものになる。
ここには大きな差があった。

 販売益であれば、人件費を大きくしたり、売値を仕入れ値に近くすれば圧縮出来てしまう。
これはザイードの商店に関係のある商店と示し合わせて荷を売ることで可能となる。
単純に利益ゼロで売ればいいのだ。ゼロの半分はゼロ。ザイードはカナタに荷の引き取り料を支払わなくて済む。
いや、そこに人件費を乗せると赤字となる。
赤字の半分を渡すということは、この条件を飲んでしまうと、カナタはザイードに金を払わなければならないというケースも有り得るのだ。
しかも、自らの関係のある商店であれば、後に商品を同じ額で買い戻すことも出来る。
その後、正規料金で売りさばけば、カナタに引き取り料を支払わずに荷を取り戻せるのだ。
さすがにそこまではしないだろうが……。
このカラクリにカナタは気付けるのか?

「ご主人さま……」

 サキがそれに気付きカナタに助言しようとした。
しかし、カナタは手でサキの発言を制した。

「馬車は3割でかまいません。
荷も販売益の半分でいいでしょう」

 カナタが条件を呑んだことに、ザイードが一瞬ニヤリと笑みを浮かべる。
バカな子供だと蔑んでいるのだろう。
助けてもらってその態度、あまり素性の良くない商人なのだろう。
だが、カナタの台詞はそこまでではなかった。

「しかし、販売益といっても、こちらには荷の価値がわからない。
そうだ。商業ギルドで査定してもらった標準販売価格で決めましょう。
仕入れ値の内訳はわかるのでしょう?
それで販売益を先に決めてしまいましょう。
ほら、全ての荷が売れるまで僕たちも待つというわけにもいきませんからね」

 カナタは不当な廉価販売で販売益が無くなることのない策を提示した。
ザイードも自ら販売益の半分を出すと言ったために引っ込みがつかなくなっていた。

「わかりました。それで手を打ちましょう」

 余裕の笑みを浮かべていたザイードがぐぬぬとするところを目撃して、サキは笑いを堪えるのだった。


 御者の居ない2台の馬車は、ザイードとサキで動かすことになった。
商品を積んでいる方がザイードで空の方をサキが操った。
問題は残る獣車。それは鳥型の騎獣が引く獣車だった。
スピードは出るがあまり重い物は運べない。
そのため、鳥型騎獣が引く獣車は人が4人乗るのがやっとという大きさだった。
そこにはカナタとニクが乗ったのだが、カナタもニクも御者経験が全く無かった。
幸い鳥型騎獣が賢く、今はザイードとサキの馬車の後を付いて行ってくれているのだが、これもオレンジタウンまでだろう。
どうにかしないととカナタは思った。

 ザイードとの交渉内容は商業ギルドにて魔法契約となる予定だ。
もし、そこでザイードが交渉内容を翻して来たらどうするのか?
それには簡単な対処方法がある。それは荷を返さなければ良いのだ。
あくまでも優先譲渡権であり、交渉が決裂したなら無視すれば良い。
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