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南部辺境遠征編
091 カナタ、見限る
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カンザス男爵の横暴に振り回されたものの、冷蔵庫の存在によって罪に問われることは無くなり、カナタはなんとか危機を乗り越えることが出来た。
だがカナの腹の底には、何か釈然としないものが溜まっていた。
この日はとうとうカンザスの街を出立することが出来ず、明日改めてカンザス男爵の用意した水の魔宝石を使って冷蔵庫を実際に製作するという約束をさせられていた。
カナタは宿をとると、サキを残してニクとともに部屋からオレンジタウンの郊外へと転移した。
「やっと来た。そろそろオレンジタウンに戻って宿を探そうかと思ってたところよ?」
ヨーコがぷんぷん怒りながら、カナタに詰め寄った。
予定時刻に大遅刻したのだから、カナタはその罵声を甘んじて受けるしかなかった。
カナタはカンザスでの顛末をヨーコたちに話して平謝りする。
「というわけで、僕も出立出来ずに困っていたんだよ」
「理由はわかったわ。でも、こういう時に連絡が出来ないのは困りものね」
この世界、情報伝達で一番使われているのは伝書クックルだった。
これはクックルという半魔の鳥の帰巣本能を利用して2点間を飛ばして手紙を運ばせるという、地球でいう伝書鳩と同様の仕組みだ。
他にも王家や上級貴族、商業ギルド及び冒険者ギルドが使用している魔法便というものがあるのだが、こちらは莫大な魔力を必要とするため、金持ちか大組織しか使用していない。
余談だがカナタが父親に連絡を取れなかったのも、金銭的余裕がなかったことと、この連絡手段の脆弱さ故だった。
尤も、必死でお金を手に入れた時には、すっかり連絡するのを忘れていたのだが……。
ヨーコが言う個人での即時情報伝達は、そのようにまさに夢のまた夢のおとぎ話だった。
「確かに。文章を魔法に変換して飛ばして、遠くで受信してまた文章に戻すような魔導具を作ればいいのかもね」
カナタはまた知らないはずの知識からFAXを思いついていた。
電話にならなかったのは、カナタの頭に情報伝達は手紙のやりとりという強い固定概念があったせいだった。
さすがに声を届けるという発想は、この世界の人間には無理だったのだ。
もしカナタが大きな声を遠くまで伝えようなどという発想をしていれば、魔法で声を飛ばすという電話を思いついていたかもしれない。
「暇を見て検討してみるよ」
カナタは魔法FAXのアイデアを頭の隅に追いやった。
「それにしても、そのカンザス男爵という奴、ちょっと……いいえかなり嫌な感じね。
次も嫌な貴族的――傲慢なやり口だったら、カンザス領は切っちゃって良いわよ」
ヨーコがかなり過激なことを言い出した。
たしかに、カンザス領のメリットはカンザスミノタウロス肉という、ちょっと美味しい肉が手に入るだけだ。
だが、美味しい肉なら他にも肉はあるのだ。拘る必要はなかった。
カナタの携帯ガチャ機なら、さらにもう一段上の高級ミノタウロス肉でも手に入れることが可能というのも、カンザスミノタウロス肉の価値を下げている遠因だった。
「まあ、次の冷蔵庫の取引次第だろうね。
オレンジ男爵は良い人だったけど、その人と犬猿の仲だというカンザス男爵となら、どちらを取るかとなったら僕もカンザス男爵の方を切るかもね。
まあ、そんなことにならないように期待するよ。
オレンジ男爵の窮状も理解してくれたと思うから、仲直りしてくれれば丸く収まってくれるはずなんだ」
カナタは本心からそう思っていた。
カンザス男爵の騙し討ちみたいな手口に一抹の不安を拭い去れなかったけれども……。
「さあ、ルルを屋敷に送って来るよ」
カナタの【転移】は同行人数2人のため、ララを連れて1回、カナタが戻って1回、ヨーコとルナを連れて1回、都合3回転移をしなければならなかった。
ニクが人数に含まれないのはお約束だ、彼女は常にカナタの護衛として同行する。
後にヨーコとルナの2人を残すのは、2人でお互いを護ってもらうためであり、1人では危険だとカナタが思っていたからだ。
カナタがニクとルルを連れて【転移】ドアを開けてくぐるとドアが消えた。
一瞬置いて、再び【転移】ドアが出現して開くと、カナタが向こう側からヨーコとルナを呼んでいた。
2人が【転移】ドアをくぐると後ろのドアが消えて、目の前には屋敷の玄関が見えていた。
「こうやって僕が移動しなくても【転移】は使えるみたいだね」
これは応用が利く方法をみつけたとカナタは喜んだ。
カナタはこの方法によりオレンジタウンに戻る【転移】を1回分節約できたのだ。
「聞いてよ、ヨーコ! 今日酷い冒険者が来てさぁ」
ヨーコは早速ララに捕まっていた。
ララの愚痴にヨーコも頷き、カナタに向き直って言う。
「ご主人さま、ユキノだけじゃ抑止力にならないわ。
お店に護衛役を増やさないと危ないわよ」
カナタもララの愚痴は聞こえていたので、また奴隷を雇うべきか検討することにした。
戦闘職不足は、カナタがニクとサキを連れて遠征に出ているせいであり、本来なら最初から考慮すべきことだった。
「どこかに良い人材がいたら雇うことにするよ。
しばらくはヨーコ、ルナ、ユキノの3人で護衛できるから我慢しててくれ」
「次に危ないのは、ハズレオーブを仕入れに行くときね」
「その時は僕たちが帰って来てサキとニクに護衛させるよ」
人が多くなりすぎていたかと思っていたカナタだが、意外と人手不足になっていたことをカナタは再認識することになった。
「それじゃ、カンザスの宿屋に戻るよ」
カナタとニクは【転移】でカンザスへと戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、カナタはカンザス男爵邸に呼びつけられていた。
カナタは屋敷の裏の倉庫に連れていかれ、冷蔵の魔導具を渡された。
「これがあれば大型冷蔵庫が出来るのだろう?
造って見せてくれ」
どうやらカンザス男爵は、冷蔵庫の製造方法を手に入れるつもりのようだった。
「そこは普通、企業秘密なんですけど?」
カナタが嫌味を込めて言うと、カンザス男爵は笑いながら答えた。
「ケチケチするなよ。良いじゃないか」
ぜんぜん良いわけがなかった。
カナタはカンザス男爵の評価を1つ下げた。
「しょうがないなぁ……」
カナタは、どうせ見ても真似出来ないだろうと目の前で造ることにした。
例え目の前で造らなくても、後で分解されればある程度は解ってしまうからだ。
だが、カナタ以外には作れない部分というものがある。
それをどうするつもりなのか、せいぜい見ていれば良いとカナタは思っていた。
カナタは錬金術でステンレス板を錬成し、グラスウール系の断熱材も錬成した。
断熱材をステンレス板で挟み、形を整えてさっさと筐体を完成させた。
パッキングに魔物素材を使っていることは気付いているだろうか?
次に水の魔宝石に陣魔法で魔法陣を刻み込み、冷気の魔法とコントロール回路を付与する。
最後に、中央右のドアの裏に魔宝石と燃料石をセットし、ミスリルの魔法経路を各冷蔵室の魔法陣に繋げて6ドア大型冷蔵庫の完成だ。
カナタが冷蔵庫を作る様子を、カンザス男爵のお抱え技術者だろう人物が食い入るように見ていたがカナタは気にしなかった。
カナタにしかわからない素材を使っているし、魔宝石に刻んだ魔法陣も果たして彼にコピー出来るだろうか?
「完成したか。では帰っていいぞ」
カンザス男爵がおかしなことを言い出した。
冷蔵庫の代金はどうするつもりなのか?
「この冷蔵庫には高価な魔宝石と燃料石を使っているな?
その魔宝石と燃料石は誰のものだ? 俺のものだ。
この冷蔵庫の価格のほとんどはそれだよな?」
カナタは昨日、カンザス男爵がオレンジ男爵の都合も理解してくれて少しは良い人なのかと思っていた。
なのに今日のカンザス男爵は自分勝手な言い分をまき散らしていた。
元々肉の総量規制など、勝手な条例でカナタたちを拘束するなど、良い印象は持っていなかったが、まさかここまでとはカナタも思っていなかった。
ピン!
硬質な金属音を立ててカンザス男爵の指から金貨が弾き飛ばされた。
「それが材料費と製造代金だ。儲けたなカナタ」
カナタはもうこの人は駄目だと判断し見限ることにした。
彼と直接会っていなかったヨーコの方が遥かに見る目があったようだ。
カナタは金貨を拾うと無言で屋敷を出て行き、獣車でさっさとカンザスの街から出て行った。
カナタがこの領に冷蔵庫を売ることはもう二度とないだろう。
この領が冷蔵庫を手に入れられなければ、今後の食肉販売は頭打ちとなることだろう。
この領だけ冷蔵コストが高いままとなり、冷蔵馬車という流通革命に乗ることもなくなった。
それはカンザス男爵自身が招いたことであり、自業自得と諦めてもらうしかなかった。
カナタは嫌な気持ちを振り切ると、【魔法探知】で赤い点を探ると【転移】で先へと急いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「行ったな?
もう門を出て行ったところだろうな」
カンザス男爵はほくそ笑んでいた。
バカなガキを上手くあしらってやったのだ。
「バカなやつだ。新商品だろうが、1つ俺のものになれば俺が量産して儲けることができる。
オレンジ野郎にも俺が売ってやるとしよう。
どうだ。お前ならこれを簡単に複製できるだろう?
あんなガキが出来るんだ。お前の技術なら出来ないはずがない」
満面の笑みを浮かべたカンザス男爵が、お抱え技術者に問う。
だが、カンザス男爵の表情とは裏腹に技術者は青い顔になっていた。
「この鉄板、見たことも無い合金です。
さらに間に挟んだ綿も何なのかわかりません。
この冷機を漏らさないための素材も何なのでしょうか……。
そしてこの魔宝石の魔法陣、私には高度過ぎて複製できません!」
冷蔵庫を分解していた技術者の吐露に、カンザス男爵は何を言っているのかわからないという表情をしていた。
「これは奇跡の魔導具です。これを造れるのは先ほどの少年だけでしょう」
ようやく事態が飲み込めた時、カンザス男爵はやらかしてしまったことに気付いた。
「拙い、ガキを、いやカナタ君を今すぐ連れ戻すのだ!」
もう時既に遅かった。
カナタは隣の領まで既に転移していた。カンザス男爵を見限ると決意して。
カンザス男爵は、このような男だからこそ、誠実なオレンジ男爵と犬猿の仲だったのだ。
だがカナの腹の底には、何か釈然としないものが溜まっていた。
この日はとうとうカンザスの街を出立することが出来ず、明日改めてカンザス男爵の用意した水の魔宝石を使って冷蔵庫を実際に製作するという約束をさせられていた。
カナタは宿をとると、サキを残してニクとともに部屋からオレンジタウンの郊外へと転移した。
「やっと来た。そろそろオレンジタウンに戻って宿を探そうかと思ってたところよ?」
ヨーコがぷんぷん怒りながら、カナタに詰め寄った。
予定時刻に大遅刻したのだから、カナタはその罵声を甘んじて受けるしかなかった。
カナタはカンザスでの顛末をヨーコたちに話して平謝りする。
「というわけで、僕も出立出来ずに困っていたんだよ」
「理由はわかったわ。でも、こういう時に連絡が出来ないのは困りものね」
この世界、情報伝達で一番使われているのは伝書クックルだった。
これはクックルという半魔の鳥の帰巣本能を利用して2点間を飛ばして手紙を運ばせるという、地球でいう伝書鳩と同様の仕組みだ。
他にも王家や上級貴族、商業ギルド及び冒険者ギルドが使用している魔法便というものがあるのだが、こちらは莫大な魔力を必要とするため、金持ちか大組織しか使用していない。
余談だがカナタが父親に連絡を取れなかったのも、金銭的余裕がなかったことと、この連絡手段の脆弱さ故だった。
尤も、必死でお金を手に入れた時には、すっかり連絡するのを忘れていたのだが……。
ヨーコが言う個人での即時情報伝達は、そのようにまさに夢のまた夢のおとぎ話だった。
「確かに。文章を魔法に変換して飛ばして、遠くで受信してまた文章に戻すような魔導具を作ればいいのかもね」
カナタはまた知らないはずの知識からFAXを思いついていた。
電話にならなかったのは、カナタの頭に情報伝達は手紙のやりとりという強い固定概念があったせいだった。
さすがに声を届けるという発想は、この世界の人間には無理だったのだ。
もしカナタが大きな声を遠くまで伝えようなどという発想をしていれば、魔法で声を飛ばすという電話を思いついていたかもしれない。
「暇を見て検討してみるよ」
カナタは魔法FAXのアイデアを頭の隅に追いやった。
「それにしても、そのカンザス男爵という奴、ちょっと……いいえかなり嫌な感じね。
次も嫌な貴族的――傲慢なやり口だったら、カンザス領は切っちゃって良いわよ」
ヨーコがかなり過激なことを言い出した。
たしかに、カンザス領のメリットはカンザスミノタウロス肉という、ちょっと美味しい肉が手に入るだけだ。
だが、美味しい肉なら他にも肉はあるのだ。拘る必要はなかった。
カナタの携帯ガチャ機なら、さらにもう一段上の高級ミノタウロス肉でも手に入れることが可能というのも、カンザスミノタウロス肉の価値を下げている遠因だった。
「まあ、次の冷蔵庫の取引次第だろうね。
オレンジ男爵は良い人だったけど、その人と犬猿の仲だというカンザス男爵となら、どちらを取るかとなったら僕もカンザス男爵の方を切るかもね。
まあ、そんなことにならないように期待するよ。
オレンジ男爵の窮状も理解してくれたと思うから、仲直りしてくれれば丸く収まってくれるはずなんだ」
カナタは本心からそう思っていた。
カンザス男爵の騙し討ちみたいな手口に一抹の不安を拭い去れなかったけれども……。
「さあ、ルルを屋敷に送って来るよ」
カナタの【転移】は同行人数2人のため、ララを連れて1回、カナタが戻って1回、ヨーコとルナを連れて1回、都合3回転移をしなければならなかった。
ニクが人数に含まれないのはお約束だ、彼女は常にカナタの護衛として同行する。
後にヨーコとルナの2人を残すのは、2人でお互いを護ってもらうためであり、1人では危険だとカナタが思っていたからだ。
カナタがニクとルルを連れて【転移】ドアを開けてくぐるとドアが消えた。
一瞬置いて、再び【転移】ドアが出現して開くと、カナタが向こう側からヨーコとルナを呼んでいた。
2人が【転移】ドアをくぐると後ろのドアが消えて、目の前には屋敷の玄関が見えていた。
「こうやって僕が移動しなくても【転移】は使えるみたいだね」
これは応用が利く方法をみつけたとカナタは喜んだ。
カナタはこの方法によりオレンジタウンに戻る【転移】を1回分節約できたのだ。
「聞いてよ、ヨーコ! 今日酷い冒険者が来てさぁ」
ヨーコは早速ララに捕まっていた。
ララの愚痴にヨーコも頷き、カナタに向き直って言う。
「ご主人さま、ユキノだけじゃ抑止力にならないわ。
お店に護衛役を増やさないと危ないわよ」
カナタもララの愚痴は聞こえていたので、また奴隷を雇うべきか検討することにした。
戦闘職不足は、カナタがニクとサキを連れて遠征に出ているせいであり、本来なら最初から考慮すべきことだった。
「どこかに良い人材がいたら雇うことにするよ。
しばらくはヨーコ、ルナ、ユキノの3人で護衛できるから我慢しててくれ」
「次に危ないのは、ハズレオーブを仕入れに行くときね」
「その時は僕たちが帰って来てサキとニクに護衛させるよ」
人が多くなりすぎていたかと思っていたカナタだが、意外と人手不足になっていたことをカナタは再認識することになった。
「それじゃ、カンザスの宿屋に戻るよ」
カナタとニクは【転移】でカンザスへと戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、カナタはカンザス男爵邸に呼びつけられていた。
カナタは屋敷の裏の倉庫に連れていかれ、冷蔵の魔導具を渡された。
「これがあれば大型冷蔵庫が出来るのだろう?
造って見せてくれ」
どうやらカンザス男爵は、冷蔵庫の製造方法を手に入れるつもりのようだった。
「そこは普通、企業秘密なんですけど?」
カナタが嫌味を込めて言うと、カンザス男爵は笑いながら答えた。
「ケチケチするなよ。良いじゃないか」
ぜんぜん良いわけがなかった。
カナタはカンザス男爵の評価を1つ下げた。
「しょうがないなぁ……」
カナタは、どうせ見ても真似出来ないだろうと目の前で造ることにした。
例え目の前で造らなくても、後で分解されればある程度は解ってしまうからだ。
だが、カナタ以外には作れない部分というものがある。
それをどうするつもりなのか、せいぜい見ていれば良いとカナタは思っていた。
カナタは錬金術でステンレス板を錬成し、グラスウール系の断熱材も錬成した。
断熱材をステンレス板で挟み、形を整えてさっさと筐体を完成させた。
パッキングに魔物素材を使っていることは気付いているだろうか?
次に水の魔宝石に陣魔法で魔法陣を刻み込み、冷気の魔法とコントロール回路を付与する。
最後に、中央右のドアの裏に魔宝石と燃料石をセットし、ミスリルの魔法経路を各冷蔵室の魔法陣に繋げて6ドア大型冷蔵庫の完成だ。
カナタが冷蔵庫を作る様子を、カンザス男爵のお抱え技術者だろう人物が食い入るように見ていたがカナタは気にしなかった。
カナタにしかわからない素材を使っているし、魔宝石に刻んだ魔法陣も果たして彼にコピー出来るだろうか?
「完成したか。では帰っていいぞ」
カンザス男爵がおかしなことを言い出した。
冷蔵庫の代金はどうするつもりなのか?
「この冷蔵庫には高価な魔宝石と燃料石を使っているな?
その魔宝石と燃料石は誰のものだ? 俺のものだ。
この冷蔵庫の価格のほとんどはそれだよな?」
カナタは昨日、カンザス男爵がオレンジ男爵の都合も理解してくれて少しは良い人なのかと思っていた。
なのに今日のカンザス男爵は自分勝手な言い分をまき散らしていた。
元々肉の総量規制など、勝手な条例でカナタたちを拘束するなど、良い印象は持っていなかったが、まさかここまでとはカナタも思っていなかった。
ピン!
硬質な金属音を立ててカンザス男爵の指から金貨が弾き飛ばされた。
「それが材料費と製造代金だ。儲けたなカナタ」
カナタはもうこの人は駄目だと判断し見限ることにした。
彼と直接会っていなかったヨーコの方が遥かに見る目があったようだ。
カナタは金貨を拾うと無言で屋敷を出て行き、獣車でさっさとカンザスの街から出て行った。
カナタがこの領に冷蔵庫を売ることはもう二度とないだろう。
この領が冷蔵庫を手に入れられなければ、今後の食肉販売は頭打ちとなることだろう。
この領だけ冷蔵コストが高いままとなり、冷蔵馬車という流通革命に乗ることもなくなった。
それはカンザス男爵自身が招いたことであり、自業自得と諦めてもらうしかなかった。
カナタは嫌な気持ちを振り切ると、【魔法探知】で赤い点を探ると【転移】で先へと急いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「行ったな?
もう門を出て行ったところだろうな」
カンザス男爵はほくそ笑んでいた。
バカなガキを上手くあしらってやったのだ。
「バカなやつだ。新商品だろうが、1つ俺のものになれば俺が量産して儲けることができる。
オレンジ野郎にも俺が売ってやるとしよう。
どうだ。お前ならこれを簡単に複製できるだろう?
あんなガキが出来るんだ。お前の技術なら出来ないはずがない」
満面の笑みを浮かべたカンザス男爵が、お抱え技術者に問う。
だが、カンザス男爵の表情とは裏腹に技術者は青い顔になっていた。
「この鉄板、見たことも無い合金です。
さらに間に挟んだ綿も何なのかわかりません。
この冷機を漏らさないための素材も何なのでしょうか……。
そしてこの魔宝石の魔法陣、私には高度過ぎて複製できません!」
冷蔵庫を分解していた技術者の吐露に、カンザス男爵は何を言っているのかわからないという表情をしていた。
「これは奇跡の魔導具です。これを造れるのは先ほどの少年だけでしょう」
ようやく事態が飲み込めた時、カンザス男爵はやらかしてしまったことに気付いた。
「拙い、ガキを、いやカナタ君を今すぐ連れ戻すのだ!」
もう時既に遅かった。
カナタは隣の領まで既に転移していた。カンザス男爵を見限ると決意して。
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