父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

文字の大きさ
90 / 204
南部辺境遠征編

090 カナタ、板挟みになる

しおりを挟む
「待て待て、危ない所だった。あやうく騙されるところだったぞ。
そんな魔導具があるわけがない。
この領にも冷蔵の魔導具があるが、高価で性能もあまり良くないものだ。
しかも、お前が開発したなど、嘘をつくにしても大概にしろ!」

 カンザス男爵は、一度はカナタの話に乗りかけたのだが、その話が非現実的すぎて、口車に乗せられたのだろうと疑っていた。
カナタは嘘をついたわけではないのだが、それが嘘ではないと証明する現物がここにはなくて困ってしまっていた。

「魔道具の方の冷蔵庫しか今は持ってないんだ。
これを見れば魔導具の冷蔵庫の能力も解るかと思う」

 カナタが【ロッカー】から属性石の冷蔵庫を出す。

「これがそうか、この領にもある冷蔵の魔導具と同じような大きさだな」

 オレンジ男爵は冷蔵庫のドアを開け閉めしたり、冷気の強さを内容物――スイーツだった――をマジマジと観察し性能を確認した。
それは今までの冷蔵の魔導具よりも遥かに高性能なものだった。
この魔道具の技術を魔導具に流用すれば、もっと高性能なものとなるとカンザス男爵も確信した。

「この魔道具の属性石を魔宝石と燃料石にした魔導具があるんだな?」

「その実物はオレンジ男爵のところにあるんだけど「待て」」

「今、なんと言った?」

 カナタは単純に事実の説明をしていただけなのに、急にカンザス男爵の顔が厳しいものに変わった。

「実物はオレンジ「あいつに先に売ったのか!」」

 カナタの説明にカンザス男爵は食い気味に叫んだ。
カナタは何がカンザス男爵の怒りに触れたのか理解出来ずに首を傾げた。
その様子を見たカンザス男爵がしまったという顔をして怒りを抑えて言う。

「すまない。あいつと俺は隣の領だというのに所謂犬猿の仲というやつでな」

 カンザス男爵が自嘲気味に笑うが、カナタは笑えなかった。

「(そんな個人的な感情を僕に向けられても困るし)
僕は冒険者兼商人なので、欲しいというところには分け隔てなく売ります」

「そうだな。すまなかった。君には関係のないことだった。
奴が畜産業に手を出したことがどうしても許せなくてな」

 カンザス男爵は、オレンジ男爵がカンザス領の特産である畜産業に手を出していることが気にくわないのだと言う。
しかし、オレンジ男爵としてはスイーツの重要な材料である新鮮な牛乳を手に入れるためには仕方のないことだったのだ。
これは、鮮度を保ったまま領を超えて牛乳を輸送する手立てがないからであり、致し方のないことだった。

「オレンジ男爵のところも、スイーツに使う新鮮な牛乳が欲しかっただけだと思いますけど?
どこの領でも鮮度問題で困っているんですよ。
例えば、現状のままでカンザス領は新鮮な牛乳をオレンジ領に輸出出来ますか?
オレンジ男爵も、カンザス領の邪魔をしたくて畜産に手を出したんじゃないはずだよ」

 カナタの指摘にカンザス男爵は状況を一瞬で理解してしまった。
カンザス領の特産品であるカンザスミノタウロス肉だって、鮮度を保って輸出出来ていないというのに、牛乳を腐らせずにオレンジ領まで運ぶなど出来はしなかったのだ。
確かに高額な冷蔵の魔導具やマジックバッグを使えば出来ないことはない。
しかし、その莫大なコストが乗ったスイーツなど領地の特産品には成り得ないだろう。

「そうか。オレンジ野郎も俺と同じ苦労をしていたのか……」

 カンザス男爵は、自己中心的に考えていたことに気付かされ反省した。
そこへカナタが畳み掛ける。

「でも、僕の冷蔵庫なら、その鮮度を保っての輸送が出来るはずだよ?」

 カナタは冷蔵庫を使って牛乳を輸出しろと暗に示す。
カナタの冷蔵庫は価格が安く高性能で大容量、しかも冷凍機能があった。
まさに冷蔵庫はカンザス領もオレンジ領も豊かに出来る商品と成り得たのだ。

「つまり、冷蔵庫を使って牛乳を輸送出来れば、お互いの得になるということだな?」

 カンザス男爵もカナタの思いを正確に理解した。

「問題は、魔宝石の在庫が無くて、製造出来ないということなんだ」

 カナタはこの先の旅で、魔宝石を手に入れ次第、魔導具を作るつもりだった。
魔宝石が出るガチャオーブが手に入る街に辿り着いたら、携帯ガチャ機の能力で上位の魔宝石が手に入ると思っていたのだ。
ただし、いま手元に魔宝石があるなら話は別だった。

「この領には、古いタイプの冷蔵の魔導具がある。
その魔宝石で冷蔵庫は造れるか?」

 それなら問題はなかった。

「できるよ。それで冷蔵庫の性能を証明してみせるよ」

 カナタは二つ返事で冷蔵庫の製造を請け負った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...