父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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南部辺境遠征編

101 混成軍、魔物を討伐する

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 カナタたちが構築した枡形の数は120箇所だった。
枡形は左翼が33箇所、中央が54箇所、右翼が33箇所造られたのだ。
数日前になるが、斥候部隊の偵察により、魔物の数は5000と見られていたので、各枡形で40匹強の魔物を倒せばこの戦いは終了だった。
数体目撃されているAランクの魔物は冒険者パーティー『紅龍の牙』が所謂別動隊として受け持つことになっていた。
カナタたちは、ニクの魔法が期待されていて、他の魔術師とともに飛行型魔物の迎撃を任されていた。

 第1軍500、第2軍500、第3軍500、冒険者500の約2000人が、この混成軍の戦力だった。
第3軍には他に総数500の兵站部隊と衛生部隊が待機していた。
この後、第1軍と第2軍の站部隊と衛生部隊も遅れて到着するはずだった。
予備兵力が200程度なのが気になるところだが、枡形毎に40匹強の魔物を倒せば良いので、平地にバラけて戦うという旧戦法よりも遥かに楽な戦いになるはずだった。
負傷者を後送するのは衛生部隊に任せられるので、著しく戦力の低下した枡形にのみ増援を送れば良いのだ。

 まず足の速いハンターウルフが突っ込ん出来て、陣地へのスロープを駆け下りていく。
スロープの先は徐々に狭まり、横に広がっていたハンターウルフは狭い入り口へと集合させられた。
お互いぶつかってしまったハンターウルフはスピードを緩め、横に2匹並ぶ列となって奥へと向かった。
その先は迷路となっていて、分岐しては行き止まり、行き止まっては分岐してで列は崩れ分散していく。
そしてやっと正しい順路で辿り着いた先は、周囲を壁に囲まれた広場――枡形だった。
枡形の壁の上から弓矢と魔法がハンターウルフに撃ち込まれる。
倒れるハンターウルフが瘴気に変わり消える。
後続のハンターウルフが弓矢と魔法を掻い潜った先には、複数の冒険者が待ち構えており、3方向から攻撃を仕掛けて来る。
群で惑わし1対多で戦うハンターウルフが逆に多対1の状況を作られ簡単に殲滅されていった。

「いけるぞ! 次の魔物を狩るぞ!」

 順調な討伐に冒険者の士気も上がるのだった。


 魔物の種類もゴブリン、オークと変わり、手間はかかるが多対1の状況が作られているため、難なく魔物を討伐出来ていた。

「56番、苦戦しています! アーマーアントです!」

 枡形は左翼の端から番号付けしてあった。
左翼が33中央が54右翼が33箇所なので、56番は中央54箇所の23番目、中央に配置した枡形の真ん中に近い場所だった。

「別動隊出撃! 壁の上から槍を落とせ! 槌やハンマーの鈍器で攻撃しろ!」

 別動隊の対アーマーアント部隊が足止めされているアーマーアントに群がって倒す。
アーマーアントは数が増えればやっかいだが、幸いにも単体で行動しているようだった。

「おまえの策のおかげで順調のようだな」

 そうカナタに声をかけて来たのは、Aランクの魔物が出て来ないので、ずっと待機状態のディーンだった。
カナタは城塞上のバルコニーに設置された司令部で休まされていた。
ここは全体が見えるので、状況把握に最適だった。
ここの対魔物陣地はカナタにより構築された仕組みだった。
これにより安全かつ効率的な魔物の討伐が実現し、辺境伯軍も冒険者も楽に討伐が出来ていた。
そのため、カナタはゆっくり休むように言われ、ここにいたのだ。

「後方上空に飛行型視認!」

 【遠目】スキルを持った見張り員が叫ぶ。
カナタたちパーティーの出番がやっと来たのだ。
尤も、戦うのはニクだけなのだが……。

「ニク! 武器使用許可。飛行型魔物を排除!」

 やっと出番の来た――といってもニクのだが――カナタはニクに攻撃を命じた。

「武器使用許可確認。飛行型魔物を排除します」

 ニクが右腕を水平に上げると腕が眩く光り、遠方を飛んでいたバトルホーク、デスイーグルに光の線が次々に飛んでいった。
パパパと連続で光が瞬いた後、空を飛んでいた魔物は全て倒され墜落して行った。
何か大きな個体グリフォンも落ちたようだが気のせいだろう。

「飛行型魔物の排除を確認。待機状態に入ります」

 ニクのロングレンジ攻撃で一瞬にして飛行型魔物が倒された。
ほとんどがポイズンバットだったが、Bランク以上も多数含まれていた。
だが遠すぎて小さく見えたため誰も詳細には気付かなかった。

「あいかわらずとんでもない魔法だな。
それでDランクとは、ギルドのランク査定も信用ならないな」

 ディーンは同じ司令部にいる副ギルド長をチラチラ見ながら嫌味を言った。
ディーン本人がSランクの恩恵に与っているくせにそれを棚に上げる言いようだった。

「この討伐任務終了後に当然ランクがあがるはずです」

「パーティーランクもだよな?」

「当然です。討伐数の無い他メンバー個人は駄目ですよ?」

 ディーンがランクアップの言質をとってくれた。
尤も、何もしていないカナタまで一緒にランクアップすることはない。
カナタの貢献は冒険者としてよりも軍師としての貢献なので、辺境伯からの褒美が期待できるという程度の事なのだ。

「俺の出番はまだか?」

 ディーンの担当のAランクの魔物がなかなか来なかった。
それもそのはず、さっき空を飛んでいた中にAランク数体いたので、足の速い個体はとっくに討伐済みだったのだ。

「おかしい。
もう魔物の数が5000を超えているだろ……」

 参謀が魔物の数が斥候の偵察結果と違うことに気付いた。
簡単に討伐できているので気付かなかったが、本来ならそろそろ終わりが見えているはずだった。
斥候のミス? いや、偵察後にも数が増えたということだろう。
これは、前例のないことだった。
魔物の氾濫でまとまった数を発見すれば、それが本隊であって後続はない。
これが今までの氾濫のお約束だったのだ。

「まさか、あの規模で本隊ではない?」

 それは悪夢以外の何ものでもなかった。
まだ後続があるなら、このままでは疲労で兵が戦えなくなる。

「予備兵力を投入、兵を休ませろ!
持久戦になるぞ!」

 辺境伯軍は、予備兵力の投入を決定した。
だが、冒険者は既に総力戦で出払っていて予備兵力など存在しなかった。

「拙いな。冒険者には予備兵力など……」

 冒険者指揮官であるディーンの目がカナタと合った。

「おまえ、戦えるだろ?」

「なんのことかな?」

 カナタは目を逸らしてしらばっくれる。
これ以上働いて身を危険に晒したくなかったのだ。
カナタは陣地を構築してもう充分に働いたのだ。

「ちょっとディーン、カナタくんはもう充分働いたでしょ?
カナタくんの働きは千人の兵に匹敵したはずよ」

 セレーンが庇ってくれたが、ディーンはそれ以上に強硬だった。

「俺たちもAランク魔物が来ない限り援護に出る。
サキさんもミク・・さんのように戦えると見た。
協力して欲しい」

 カナタが突っ込みを入れたくなったのは、依頼内容よりもニクをミクとディーンが言い間違えていることだった。 
まあ、ディーンが肉便器の別称であるニクを名前にしていると思っていないからなのだが、ニクの由来を知らないカナタには、どうして間違っているのかが不思議に思えた。
そのせいで依頼内容を精査しないうちに、カナタはディーンの勢いに飲まれてうっかり頷いてしまっていた。

「うん」

「え?」

 カナタが簡単に納得したので、セレーンも驚くほどだったのだが、もう手遅れだった。

「そうか、やってくれるか!」

 ディーンはカナタに前言を撤回されないようにと既成事実を重ねていく。

「よし、早速援軍として7番に入ってもらおう。
2パーティーの前衛が負傷で後退しているらしい。
俺たち紅龍の牙は30番だ。行くぞ!」

 ディーンは有無を言わせずカナタを戦場に引っ張り出した。
カナタはまだ「どうしてディーンはニクをミクって言ったんだろう?」と考えていた。
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