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南部辺境遠征編

107 カナタ、悩む

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 その日はそのまま休息日となり、夜には冒険者や兵に酒と豪華な食事が振舞われた。
武功賞をもらったカナタとディーンのパーティーと副ギルド長、辺境伯軍の幹部は、城塞内の大広間でガーディアの街の有力者と共に祝勝パーティーを行っていた。
そこでもカナタは、ライジン辺境伯の隣に座らされていた。
街の有力者も、その様子にカナタが重要人物であると認識していた。
どこからか辺境伯の隠し子という噂も広まっていた。

「カナタ、褒賞は何が良い?
従者の手柄は主人の手柄も同然だ。
第一、第二、第三武功賞の褒章はお前が決めて構わないぞ」

 辺境伯が無茶を行って来た。
それは褒賞を受けるべきニクとサキが構わないと言うところでしょとカナタは思ったのだが、ニクもサキも頷いていたので、カナタは溜め息と共にそれを受け入れることにした。
辺境伯はそんなカナタの様子にはお構いなしに話を続ける。

「魔物素材なら、欲しいものを優遇出来るぞ。
ドラゴン素材なんてどうだ?
鱗、牙、爪なんて高級武器防具が作れるぞ。
そうだ、武器防具そのものが出るかもしれない。あれはいいぞ」

 ドラゴンはニクが狩ったのだが、こういった集団討伐任務では、全てのドロップ品はDGもガチャオーブも混成軍を組織した貴族が一旦預かることになっていた。
誰がどの魔物を狩ったのか、どのガチャオーブが出たのかなど、この集団戦の中では判断がつかないことの方が多かった。
例えばAさんがほとんど瀕死まで持って行った魔物を、Bさんが横から止めを刺してしまったといった場合、ギルドカードの記録的にはBさんが討伐者となってしまう。
これをわざとやっていたならば、Bさんは冒険者の仁義に反したと叩かれることになる。
だが魔物の氾濫といった集団戦の中では、意図せずにそのような状況が発生してしまうことがあり、それは仕方のないことだった。
そのため混成軍を組織した貴族は、一定の金額を予め支払う約束で冒険者を雇い、後に討伐数やその魔物のランクにより褒賞として金一封を出すというのが定番だった。

 そのお金は魔物の氾濫を抑えるため国から交付される特別功労金と魔物がドロップしたDG、魔物素材の販売益から充当される。
それらを高く買ってもらうために、この街の有力者である商人や、他の領地から来ている貴族が戦勝パーティーに呼ばれているのだ。
彼らはガチャオーブの中身を予想し、ある意味自分の目を信じて博打を打つ。
魔物によっては、同じ赤色HNのアイテムオーブだとしても、ハズレから当たりまで違うものが出る可能性があるのだ。
例えば魔物の中で肉が出やすいと言われるオークが居る。
だがその肉は部位によって金額が大きく違う。
さらに稀にだがオークが装備していたあまり高価ではない武具が出てしまうこともある。
ある程度レアリティが高くなると、あの秘薬の素材として有名なオークの睾丸なども出るが、それはガチャオーブのレアリティ色で推測がつく。

 辺境伯はカナタにガチャオーブを開けた後のドラゴンの素材を要求することが出来るぞと言っているのだ。
まあ、ドラゴンはニクが倒したので、もらえて当たり前だったのだが……。
ドラゴンは20個ものSRオーブをドロップしていた。
それを開いて素材が確定した後、どれか選んで持って行けという話だった。

「金でもいいんだが、これだけ大量のガチャオーブがドロップしていると、値崩れがな……」

 今回の魔物氾濫は、魔物の数が異常だった。
その分、ドロップしたガチャオーブも多かったので、買い叩かれることになりそうだったのだ。
なので辺境伯は、素材のままで手に入れた方が良いと言いたいのだ。

「それならガチャオーブのままの方が良いです」

 カナタには携帯ガチャ機があった。
この携帯ガチャ機にガチャオーブを再装填すると1UPの恩恵があるのだ。
つまり、SRの上、URが確実となる。

「あっ!」

 とここでカナタは気付いた。
今回回収された全てのガチャオーブを携帯ガチャ機に通したら、とんでもない儲けになると。
万の単位の魔物がドロップしたガチャオーブが全て1UPする。
さらに連ガチャによる上位レア確率UPの恩恵が乗れば……。
10連で1つ、100連で2つ、1000連で3つ、10000連で4つ上のレアリティを狙える可能性が高まる。
4つ上とはつまり、Nオーブが1UP恩恵後HNオーブになり、そこから→SR→UR→LR→GRとGRの出現確率UPが発生する。
ドラゴンのドロップしたガチャオーブはSRだ。
その数20なので10連ガチャが2回となる。
つまりここでも2つ上のLRが高確率で狙える。
こんなチャンスは今後無いかもしれなかった。

 しかし、それをするには自分のGRスキルである携帯ガチャ機の存在を、最低でも辺境伯本人には知らせる必要があった。
ライジン辺境伯が父アラタの盟友だとしても、そこまで気を許して良いものなのか?

「(ここは父様に連絡するべきだろうか?)」

 カナタは悩むのだった。

「おいおい、そんなに悩むな。
他にも領地なんかはどうだ? ここらへんの土地を割譲して、おまえに爵位をやってもいいぞ?」

 辺境伯には王より授けられた爵位の任命権があった。
子爵が3つ、男爵が7つ、騎士爵なら制限なしで与える権限を持っていた。
現在、子爵を2人と男爵を5人任命しているので、子爵か男爵位をカナタに与えることが可能だった。
辺境伯としては、その方がお金がかからずに有難かった。
辺境なので土地はいくらでもあるし、爵位も枠内なので懐は痛まなかった。

「そうだ、お前の従者も騎士爵位を与えてやろう。
うん、それがいい。
それ以外でドラゴンのオーブを渡しても良いんだからな」

 ライジン辺境伯はさりげなくカナタを取り込もうとしていた。
そこには全く悪気がなかったのが救いなのだが……。

「一度、父様と相談させてください。
出来れば魔法便を使わせて欲しいです」

 既にカナタの判断能力を超える事態となっていた。

「(そうだ。ララやヨーコたちにも相談しないと……)」

 カナタは目立つどころではない事態に混乱するだけだった。
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