父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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南部辺境遠征編

111 カナタ、父に家出の許可をもらう

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「終わったぞー。アラタが待っている。直ぐに行ってやれ」

 ライジン辺境伯が急かしたのは、カナタのためが半分、私用で魔導通信機を使う後ろめたさが半分だった。
魔導通信機は今も燃料石に蓄積された魔力をガシガシ食っているのだ。

 燃料石への魔力充填は魔力保有量がありながら、魔法行使に難のある者たちが行っている。
過去にはそういった魔法を使えない者たちへの差別があり、魔力充填業は蔑まれた職業と化していた。
ある時、その境遇に不満を持った者たちが所謂ストライキを行った。
その結果、魔導具に依存した世界は、重要な魔導具が停止して上手く回らなくなってしまった。

 そんなおり、代わりに燃料石に魔力を注入したのは、その彼らを蔑んでいた魔導士たちだった。
その結果魔導士たちは本来の仕事が滞り、彼らの存在の有難さが骨身に染みたのだ。
それ以来燃料石に魔力を注入する魔力充填業への差別は無くなり、高額報酬を得られるようになった。
つまり、燃料石はバカ高いのだ。
その高価な燃料石を湯水のように使う魔導通信機を使用できるのは、本当に特別なことだった。

 カナタはライジン辺境伯に急かされて撮影装置の前に立った。
家出状態であったこと、連絡が遅れたことで気まずい気持ちがあったが、そんな気持ちが吹っ飛ぶほどにカナタは父アラタとの再会が嬉しかった。
ライジン辺境伯は、そんなカナタ親子を残し、その部屋を後にした。
相談だというからには内緒の話をするだろうからだ。

「父様、ごめんなさい。
連絡が遅くなってしまって……」

 そう謝るカナタに、父アラタは首を横に振ると優しく言葉を返した。

「そんなことはない。良くぞ最悪の危機を無事に切り抜けた。
こちらこそ死亡届を出してしまってすまなかった」

 そしてわだかまりが解けた二人は真剣な表情になり、本題に入ることにした。
だが、カナタはどう言いだしたら良いのか考えあぐねてしまっていた。

「何か相談があったのだろう?」 

 アラタが誘い水を向けたのは、あまりこの魔導通信機を長く使っていられないという危惧と、カナタに発言の突破口を与えるためだった。
その誘いに乗りカナタは意を決して話しはじめた。

「僕のスキルをライジン辺境伯に教えて良いものか悩んでます」

「なぜスキルを教える必要があるのだ?」

 父アラタは、カナタがなぜスキルを教えたいのかを問うた。
それによりカナタが先を話しやすくなるように誘導するためだった。

「僕のスキルに携帯ガチャ機というGRゴッドレアスキルがあります。
この携帯ガチャ機にガチャオーブを装填すると、全てのオーブに1UPの特典が付きます。
これを使えば今回の魔物討伐の収益が軽く10倍に増える可能性があるのです」

 父アラタは顎に手をあてて考え込んだ。

「(収益が10倍になるならそれはライジンのやつもありがたいだろう。
しかし、その結果カナタがその有用なスキルの価値によって狙われる危険がある。
GRスキルなど、そもそも父に対しても他言するべきものではないだろ)」

 いくら三英雄が後ろ盾になっていても、謀反を起こしてでも奪う価値があるスキルならば、カナタを護ることが出来ないかもしれなかった。
GRスキルとはそういったレベルのスキルだった。

「カナタ、良く聞け。
GRスキルの存在は身内であっても他言するべきではない。
もし1UPの特典が勿体ないと思っているなら、ガチャオーブを褒賞としてもらいなさい。
それを1UPした後、誰のために使おうがそれはカナタの自由だ」

 父アラタはGRスキルを隠してライジン辺境伯領に貢献すればいいとカナタを諭した。
それは強要ではなく、カナタに良く考えて行動するようにという気持ちが伝わるものだった。

「わかりました。父様の言うとおりです。
それと言いにくいのですが……」

「何だ?」

「父様の呪いのことです」

「呪いか……」

 呪いには父アラタ本人もカナタも煩わされて来ていた。
アラタ本人は、スキルとステータスに一部制限を受け、新たなスキルの取得が出来なくなっていた。
だが、呪いを受ける前に充分な成長をしていたため、呪いを受けても王国最強の一角を維持出来ていたのだ。
だが、カナタは生まれてからずっと呪いの影響を受けていた。
それを申し訳ないと父アラタはずっと心に後悔の念があった。

「呪いは父様との距離により弱まります」

「!」

 父アラタが気付いていなかった新情報だった。

「申し訳ありませんが、僕が父様の呪いを解く方法をみつけるまで、家出させてください!」

 カナタの独り立ち宣言だった。
良く見るとカナタはファーランド領に居た時よりも健康に見えた。

「そうだったのか……。許してくれカナタ。
喜んで家出を認めよう」

 呪いで苦しむカナタに寄り添おうとしていた父アラタだが、自分が離れた方がカナタのためになると発覚してしまった。
離れることでカナタが健康でいられるなら、その方が良いと父アラタは結論付けた。

「ありがとうございます。
あ、それとこんなものを手に入れたのですが、どうやって送ったら良いでしょうか?」

 カナタが【ロッカー】から取り出したのは、URアイテムであるエリクサーだった。
エリクサーなら父アラタの呪いを解いてくれるかもしれなかったのだ。

「エリクサーか!
なるほど、それを他人に委ねるわけにはいかないな……」

 父アラタは呪いを解く可能性を目にして、どのように運ぼうかと思案した。
しかし、結論は出なかった。あまりにも危険だったからだ。
だが、その思索は中断されることとなった。
さすがに魔導通信機が燃料切れで使用限界が訪れたのだ。

「もう時間がなさそうだ。
それはカナタが持っておけ。
何か輸送手段が見つかったら魔法便で連絡する」

 父アラタがそう言うと、魔導通信機の表示装置から映像が消えた。
カナタと父アラタの再会は唐突に終了した。
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