父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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南部辺境遠征編

133 カナタ、セレモニーに付き合わされる

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 音声通信機の納入数が1日10台と安定したのは、各部門のリーダーを決めて独立した権限を与えたことによるものだった。
工房のリーダーとして指名されたゴンゾは早速自ら奴隷を雇いに行き、職人の数を増やしていた。
その雇った奴隷は木工や家具のスキル持ちではなかったが、真面目で働き者の女性・・という基準で選ばれていた。
これはスキルオーブにより、後付けで【木工】【家具】スキルを手に入れられるため、スキル持ちに限定する必要が無かったためだ。
ちなみに女性ばかりなのは、ゴンゾが何かを忖度したためだった。

 この職人増員のため、カナタは宿舎を増築し、スキル限定1000連ガチャを追加で引くこととなった。
尤も、余ったスキルは【ガチャオーブ化】によりスキルオーブとなり、ルルのガチャ屋2号店で売られるので無駄にはならなかった。

 スキルオーブの販売は評判となり、かなりの儲けを出すこととなった。
その儲けが新たなスキル限定1000連ガチャの費用となり、更なる儲けを産むという無限〇〇状態となっていた。

 その弊害として、奴隷市場が高騰したのはカナタも予想外だった。
スキルの無い奴隷を安く買い、スキルを与えて有効に使う。
まさにゴンゾが行ったことに他の人達が気付くのも時間の問題だったのだ。
今までもスキルオーブを買ってそのようなことを行うことはままあったのだが、ここまで大量にスキルオーブが市場に出回るのはカナタのスキルガチャあってのことだった。

 カナタはさすがにやり過ぎたと思ったのだが、一部スキルの販売を制限するに止め、ハズレスキルなどは逆に積極的に販売を推奨することとした。
ハズレスキルの所持は博打みたいなものだが、レベルを上げたり組み合わせると何か良いことがあるかもしれないという話は、ハズレスキルしか持っていなかった人たちに希望を与えることとなった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 そんなある日、カナタはライジン辺境伯と冒険者ギルドから呼び出しを受けていた。
カナタは指名されたニクとサキ――グラスヒルの屋敷から急遽連れて来た――を伴い冒険者ギルドへとやって来た。
ライジン辺境伯の呼び出しも冒険者ギルドでということだったので、丁度良いところだった。

「やっと来たか!」

 領都ライジニア冒険者ギルドの副ギルドマスターがカナタを見つけて走るように近寄って来た。
そういえば、魔物の氾濫でライジニアから同行して以来顔を合わせていなかったなとカナタは気付いた。
ここガーディアの冒険者ギルドは支部であり、常駐している上位の責任者が居なかった。
そのためこの有事にあたり領都のライジニアから副ギルドマスターがやって来ていたのだ。

「?」

 カナタは頭に疑問符を浮かべながら副ギルドマスターの台詞に耳を傾けた。

「ギルドの緊急依頼の報酬受け渡しと、冒険者ランクの更新を行わねばならんというのに、いつになっても来ないとは何をしていたのだ!?」

 副ギルドマスターはカナタが男爵に叙爵されたことを忘れたのか声を荒げていた。
まあ、魔物の氾濫に向かう途中でカナタとはそれなりに仲が良くなっていたからこそであり、カナタも不敬だなどとは全く思っていなかった。

「ごめんなさい。すっかり忘れてました」

 呑気なものである。

「はぁ。もうとっくに手続きは終わっておる。
直ぐに受付で報酬と新しいギルドカードを受け取って来い」

 副ギルドマスターは溜め息をつくと、今までの怒りはなんだったのかという好々爺然とした表情でカナタを促した。
受付に行くとカナタ、ニク、サキ三人のギルドカードが用意されていた。
カナタたちは古いDランクのギルドカードを渡して新しいギルドカードを受け取った。
そのカードは金色に輝いておりAランクという記述があった。
カナタたちの活躍を鑑みればSランク相当であったのだが、さすがにDランクからの4階級特進は前例がなく、一旦Aランクに留めることとなったのだ。
それでも問題がなかったわけではなく、副ギルドマスターがどれだけ苦労したのかは、カナタの知るところではなかった。

 カナタたちは新しい冒険者ギルドカードと報酬をもらい、ライジン辺境伯を待つことになった。
ライジン辺境伯とは城塞で会う方が簡単だったのだが、なぜかここ冒険者ギルドが面会場所に指定されていた。

「よう、カナタたちも呼ばれたのか」

 そこに居たのは『紅龍の牙』の面々だった。
カナタはまたディーンのおしゃべりに付き合わされることとなった。

 暫く待っていると騎馬に先導された馬車が走って来ると冒険者ギルド前に横付けされた。
騎士は下馬すると物々しい態度で周囲を警戒しだした。
そして、騎士による壁が築かれ、その真ん中をライジン辺境伯が馬車から降りて歩いて来た。

 カナタはその物々しい様子にポカンと開いた口が塞がらずにいた。
それを気にすることもなくライジン辺境伯がカナタに近づくと大仰にハグをした。
巨体を折り曲げ跪いているかのように見える体制だったが、本人はまるで気にしていないようだった。

「どうした。何を呆けている?」

 ライジン辺境伯が、カナタの耳元で囁く。

「いつもと違うから……」

 普段からライジン辺境伯は、このような物々しい登場はせず、まるで冒険者かのように一人で行動し、ざっくばらんな態度をとる。
それが何かのセレモニーかのような態度だった。
そこでカナタははたと気付いた。

「ああ、セレモニーなんだ」

 そのカナタの呟きにライジン辺境伯はウインクで答え、カナタを離すと姿勢を正した。

「此度の魔物の氾濫での活躍、大儀であった。
ここにカナタ=ミル=ファーランドに男爵位を叙爵しミネルバの地を与える。
これよりカナタ=ファー=ミネルバを名乗るが良い。
加えて従者ク、並びに従者サキを騎士爵に叙す。
三人には合わせてドラゴンのSRオーブ10個とHNオーブ5千個、Nオーブ5万3354個を与える」

 一般向けのセレモニーそのものだった。
やっと褒賞となる領地の選定とオーブの回収が終わったため、このタイミングで発表となったわけだ。
またニクをミクと間違っているがカナタはスルーすることにした。

「謹んでお受けいたします」

 カナタは儀礼として三人を代表して答えた。
ライジン辺境伯は、頷くと次は『紅龍の牙』の方に視線を向けた。

「続けて冒険者パーティー『紅龍の牙』、大儀であった。
金4憶DGを与え褒賞とする」

 『紅龍の牙』は騎士爵叙爵を辞退し、その分金銭での褒賞を希望していた。
4億DGはパーティ―全員分の合算であり、その分配はパーティ―に任されていた。

 大きな拍手が冒険者の間から起こり、この一般向けセレモニーは終了した。
このセレモニーに立ち会った冒険者は、魔物の氾濫に参加し活躍することがどのような結果を齎すのか、その噂を広げることとなるだろう。
それにより冒険者が魔物の氾濫鎮圧に積極的に参加してくれればありがたい、そのような思惑でのセレモニーだったのだ。

 ライジン辺境伯は、登場と同じように威厳ある態度で馬車に戻ると去っていった。
これによりセレモニーは終了した。

「さて、僕たちはもう帰っていいのかな?」

「お待ちください。男爵」

 副ギルドマスターが態度を改めて声をかけてきた。
先程の態度は冒険者から男爵へとなったことをアピールするためのポーズだったらしい。
その落差により男爵叙爵を冒険者たちに印象付ける演出だったのだ。

「ガチャオーブの引き取りをお願いいたします」

 カナタが褒賞としてもらったガチャオーブは、冒険者ギルドで回収されここに保管されていた。
それをカナタは受け取らねばならなかった。

 カナタは冒険者ギルドの倉庫へと行くと、サクッとそれらを【ロッカー】に仕舞い込んだ。
カナタは5万個ものハズレオーブを手にし、それを再装填して1万連ガチャを5回引いたらいったい何が出て来るのだろうかと期待に胸を膨らませた。
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