父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

文字の大きさ
132 / 204
南部辺境遠征編

132 ヒナ、役に立つ発明をする

しおりを挟む
「毎日何作ってるの?」

 朝の一時、食事を終えたカナタは、ボーッと朝食を食べているヒナと遭遇した。
彼女は午前中は音声通信機の製造作業をしているが、午後は研究と称して自室に籠っている。
そのヒナについ何を作っているのか訊いてしまったのが事の始まりだった。
カナタのヒントがとんでもない発明を齎してしまったのだ。

「ミスリルは魔力を流し易いでしょ?」

 ヒナの言葉は唐突だった。
何が言いたいのか解らなかったが、カナタは同意しておいた。

「ああ、そうだね」

「電気は銅線のコイルに磁石を抜き挿しして動かすと発生するじゃない」

「うん」

 知らないはずの知識が肯定しているのでそう答えた。

「コイルにミスリルを使ったらどうなるかと思って」

 つまり、音声通信機用に準備したミスリルでコイルを作ったと。
ある事の原因が判明した瞬間だった。

「ミスリルの減りが早かった理由はお前か!」

 カナタは盗難の可能性も考えていた。
疑いたくないが従業員を疑わなければならないのかと悩むぐらいだった。
幸い盗難ではなく、実験に使っただけだと判ったので、無くなったわけではないのでカナタは安堵した。
カナタは溜め息を吐くとヒナに釘を刺す。

「使っても良いけど報告だけはしてよね。
盗まれたのかと思ったぞ?」

「わかった。
それより、どうなったか知りたくない?」

 返事が軽い。ヒナの興味は研究の方にのみ向いているのだろう。
心配は尽きないが、まあ、実験結果に興味が無いわけではなかった。

「どうなったの?」

「電気が流れたわ」

「は?」

「私は魔力が発生するかと思ったんだけどね~」

 電気なら銅線でも流れる。いや、そっちの方がおそらく効率が良い。
この世界、銅は鉄よりも安い。しかし銅貨は鉄貨よりも高いという矛盾がある。
そこには銅には鉄より利用価値があるぞという神様の意志が含まれているのだろうとカナタは思っていた。
だがミスリルは間違いなくそれ以上にお高い金属だ。
またとんでもないミスリルの無駄遣いだった。

「ヒナは発電を実用化していたんだね」

「まあね」

 得意顔でふんぞり返るヒナにカナタは呆れる。
この世界、コイルでちまちま発電するよりもっと良い方法があるからだ。

「雷魔法って知ってる?」

「!」

 雷は電気だ。しかも攻撃魔法として微弱な電気ショックなどにも使われる。
コントロール可能な電気、それを流せば電気は簡単に得られるのだ。

「ここには動力はないと思うけど、磁石を動かすのに何を使っていたの?」

「人力」

「え?」

「こうやって自分で動かした」

 ヒナは身振り手振りで発電の様子を解説した。
何気に卑猥な動作だったが、カナタもそれには気付かなかった。
それは小学校の実験レベルだった。

「その電気をリチウムイオン電池に溜めようとしていたんだ」

 ヒナは、リチウムイオン電池に充電していて爆発事故を起こし、大怪我を負って奴隷落ちした。
そのレベルでなぜそこまで大怪我をする爆発事故を起こしたのかがわからない。
カナタは雷魔法をぶち込んだのだと思っていたぐらいだった。

「そこは水車を使った」

 水力発電だった。
何気に頑張っていた様子。
それでも爆発には程遠い。

「それでも爆発には至らないよね?
いったい何をやったんだよ」

「落とした」

 リチウムイオン電池は落下による変形に弱い。
それにより発火現象が起きることが多々あると言われている。

「それを拾った時に爆発した」

「そうなんだ……」

 予想外すぎた。あまりにも間抜けな結果だ。
だが、リチウムイオン電池は、爆発するぐらいだからきちんと作れていたようだった。
そんな知識がヒナのどこにあったのだろう?

「リチウムイオン電池とか、発電の仕組みとか、良く知識があったね」

「錬金術のサブスキルに解析スキルがあるから解った。
スマホの現物を道具屋でみつけたからね~」

 この世界、結構異世界転移して来ている人がいる。
その人が齎した遺物が市場しじょうに出回っていることがあるのだ。
その価値を知っているのは転移者か転生者だけなので、ヒナはその価値に気付き借金をしてまで手に入れたということだった。
その借金が奴隷落ちの原因でもあった。

「現物があれば作ることが出来るのか」

 カナタも知らなかった事実だった。

「でも、発電の仕組みはそれでは解らないんじゃないの?」

「それは漫画知識であった」

 あの漫画だろう。カナタの知らないはずの知識にもそれはあった。
そしてその知識からカナタはあることに気付いた。
磁力はコイルに電気を流すと挿してある金属棒に発生する。
逆に磁力のある金属棒をコイルに抜き挿しするとコイルに電気が流れる。

「ミスリルのコイルに魔力を流して、金属棒に何が起こるか調べれば、その逆が魔力を作る過程になるはずだよね」

「!」

 カナタの発想はヒナにとって天啓だった。
この後、ヒナが研究室に籠りっぱなしになってカナタに怒られるまでがセットだった。

「やったわ。魔力を作ることに成功したわ!
魔石の棒を使うのよ!」

 カナタのアイデアにより、魔力製造が可能になった。

「問題はせっかく作った魔力がそのまま消えるだけなのよ!
リチウムイオン電池に相当する蓄積する仕組みが必要だわ。
次の研究テーマが決まったわ」

 だが、その魔力を溜める方法まではヒナは思いもつかなかったようだ。

「え? それが燃料石じゃないの?」

 既に蓄電池が発明済みだった。
だが、これにより音声通信機の魔力充填が楽になり、魔力充填業従事者には大変喜ばれた。
『俺たちの仕事を奪うのか!』と言われなかったのは、音声通信機が増え、魔力充填の需要がひっきりなしにあったため、彼らがオーバーワークとなっていたせいだった。
ヒナの発明は魔導具界の大発明となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...