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最強の雛人形

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 結局のところ成仏の件を承諾しょうだくし、俺は制服せいふく姿すがたのまま、夕日に染まる近所のてらに来ていた。

 学生鞄がくせいかばんの中には、雛人形ひなにんぎょうマコが入っている。

「すみませーん!」

 寺に向かって呼び掛けると、年配ねんぱい住職じゅうしょくが寺の廊下を歩いてきた。

 白い着物きものの上に茶色い袈裟けさを着て、素足に坊主といった典型的な住職。

「おや、どうされましたか?」

 住職は珍しいものを見た、といった感じの表情で言った。高校生が寺を訪れてきたのが珍しかったのだろうか。

「あのですね。人形にんぎょう除霊じょれいってできますか?」

「ああ、はいはい。もちろんですとも」住職は自信ありげに言った。「ささ、立ち話も何ですし、中の方へどうぞ」

 俺は一礼いちれいして、寺の中に上がった。俺は大仏だいぶつまつられた大きな間に案内され、そこの中央付近にかれた座布団ざぶとんの上に正座して、住職と向き合った。

「ええと、早速なんですけど……」

 俺は学生鞄からマコを取り出した。住職は「ほう」と興味ありげな声を出した後、俺からマコを受け取った。

 マコはお行儀良く座った状態のまま、びくともしていない。

 お願いだから動くなと、指示しておいたのだ。除霊する人が腰抜かしたら困るし。

「その雛人形、動くんですよねー。深夜とかに」

 本当は何時いつでも何処どこでもバリバリ動くし喋るけど。

「なるほど」住職はマコを片手に立ち上がった。「では早速さっそく除霊を始めたいと思います」

 住職の指示に従って、俺は部屋のすみで待機。

 しばらくすると、茶色い袈裟を着て、素足に坊主といった住職の弟子でしが5人、部屋に入ってきた。

 住職は部屋の中心に座布団を敷き、その上にマコを置いた。そして住職は5人の弟子と大きな円陣えんじんを作ってマコを囲う。

「では始めたいと思います」

 住職が言うと、弟子たちは手に数珠じゅずを巻き付けて両手を合わせた。住職も数珠が巻き付いた両手を合わせながら、弟子たちと一緒にマコの方をにらみ付ける。

「や~、は~、にゃ~、はん~、ら~……」

 等と、住職は目をつむりながら読経どきょうを始めた。弟子たちも目を瞑って、住職と一緒に読経どきょうする。一方いっぽうのマコは、びくともしていない。

「はん~、にゃ~、た~、し~……」

 3分ほど読経すると、住職は目をカッと開けた。弟子たちも、同時にカッと目を開く。

「かああああああああああああああああああああつ!」

 住職はさけびつつ、数珠じゅずが巻き付いた右拳みぎこぶしをマコに向かって突き出した。

 弟子たちも遅れて、叫びつつ数珠が巻き付いた右拳を突き出した。

 すると、住職と弟子たちの右拳から青い電撃でんげき放出ほうしゅつされ、ジジジとにぶい音を鳴らしながらマコに向かった。

 放出された全ての青い電撃は、マコに直撃。バチバチバチッという電撃音が、耳をつんざく。

 四方八方から青い電撃を浴びたマコは、青い電撃によって姿が隠れて見えなくなった。

(え、ええええええええええええええええええ?)

 雛人形が喋るより凄くない?

「ふはははは! くらえい!」

 住職は口元くちもとをニタアッとさせながら、右拳を更に突き出した。

 青い電撃は勢いを増して、目を覆いたくなるほどのまばゆ閃光せんこうをも放ちだす。

 チッチッチッと火花ひばなが散るようにして、青い電撃が部屋中に散る。

 これほどの衝撃を受けたらもう、マコは成仏するどころか2回ほど生まれ変わってしまうんじゃ……。

「ふはははは! これでもう――」

 住職はギョッと目を見開けることで、先の言葉を飲んだ。何事なにごとかと思い、住職の視線しせんの先を辿たどってみると、何と、マコの周りにはドーム状の赤いバリアーが張られていて、それがマコを電撃から守っていたのであった。

 赤いバリアーの中で、マコがお行儀良く座ったままギラリと眼を光らせている。

「ば、バカな!」住職は電撃を放出したまま叫んだ。「この電撃で仕留められんとは!」

 弟子たちも同様の意味がこもったような表情で、右拳を突き出し続けている。

「ええい、やむを得ん!」

 住職は弟子たちにアイコンタクトを送った。それを受け取った弟子たちは、強く頷き合った。

「こうなったら、超究極絶対除霊剛雷破(アルティメッツパーフェクトボルツ)を使わざるを得ん!」

 ……あ……超究極絶対除霊剛雷破アルティメッツパーフェクトボルツ? 

 近所の小学生が付けそうな技名だな。大丈夫?


「これを受けたら最後っ……! この超(以下省略)は、ちょうエスSSSSSSエスエスエスエスエスエスきゅう幽霊ゆうれいでさえ、ひとたまりもあるまい」

 もしかして超とかS付けんとすご表現ひょうげんできない住職?

「ではいくぞ! はああああああああああああああああああああ!」

 弟子たちも「はあああああああああああ!」と叫んだ。すると、先ほどまで青かった電撃が赤くなった。

 赤くなっただけで、威力いりょくが変わっている感じはしないけど、そういうことなのだろう。

 しかしパワーアップした電撃でも、マコの赤いバリアーを突破とっぱすることはできなかった。

「ば、バカな!」住職は苦しそうに顔をゆがめる。「も、もっと出力を上げるんだ!」

 ハッ! と弟子たちは声を揃えて、右拳を更に突き出す。が、マコのバリアーは破れない。

「こなくそおおおおお!」

 住職が悔しそうに叫んだその時、マコのバリアーが拡大かくだいした。

 バリアーは赤い電撃を押し返して、そのまま住職と弟子たちまで赤い電撃を反射はんしゃした。

 反射してきた赤い電撃を受けて、住職と弟子たちは背中から後方こうほう豪快ごうかいに吹き飛び、それぞれ部屋の壁に叩きつけられて、壁にめり込んだ。

 壁にめり込んだ住職と弟子たちは時間差じかんさで床に落ちて倒れ込み、そこから更に時間差で壁の表面が剥がれ落ちた。

 マコのバリアーは、もう消えている。

(えええええええええええええええ? てか、えええええええええええええええ?)

 どこのバトルもの?

「ふ、不甲斐ふがいない……」

 住職は弱々よわよわしく立ち上がった。弟子たちも、それぞれのタイミングで弱々しく立ち上がる。

 住職はマコを回収して、弟子たちと共に俺の方に歩み寄って来た。

「いや、すみません……。申し訳ありませんが、私どもでは除霊できません……」

 住職が俺に向かって深く頭を下げると、弟子たちも揃って頭を下げた。

「ええと、じゃあ、もう物理的ぶつりてきな除霊でいいんで……」

「物理的……というと?」住職は不穏ふおんまゆをひそめた。

「ですから、この雛人形を燃やしたり、破壊したりすれば――」

「なりません!」

 住職はただならぬ気迫きはくで俺の言葉を遮った。

「なりませんぞ! 物理的な除霊ほど恐ろしいものはありません! たたられます!」

 あんたらがしてたのもかなり物理的な除霊じゃね?

「とにかく、普通の除霊をしなさい」住職は俺に雛人形を返した。「我々では除霊できませんので他を当たるように。いいですか? くれぐれも物理的な除霊は控えるように」

「は、はあ……分かりました……」

 色々とに落ちないまま、俺は寺を後にした。



               【つづく】
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