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そうだ、アニメを観ましょう

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 寺を出た時には日も暮れ、どう成仏させようかと途方とほうにも暮れて、俺は当てもなく町を歩いていた。

 サラリーマン、女子高生の集団、老人等……俺とすれ違っていく者たちは知るよしもないだろう。

 俺の鞄の中に喋ったりする雛人形ひなにんぎょうが入っていて、それを成仏させるにはどうすればいいのかを悩んでいることなんて。

堂本どうもとさん堂本どうもとさん。ちょっとお話があるんですけど、いいですか?」

 町中まちなか大勢おおぜいの人とすれ違う中、学生鞄がくせいかばんの中でマコが大きな声で言った。

 すれ違っていく老若男女ろうにゃくなんにょがマコの可愛らしい声に反応して、一斉いっせいに俺の方を見る。

 ヤバイと思い、俺はあわててその場から逃げ去って、人気ひとけの無い路地ろじに入った。

 そして周りに人が居ないことを充分に確認した後、学生鞄を開けた。鞄の中では、マコがお行儀良く座った状態で仰向あおむけけになっている。

「て、てめえ! 人が沢山たくさんる所でしゃべるんじゃねえよ!」

 焦る俺を見てか、マコは仰向けのままたて振動しんどうしながらギョホギョホ笑う。

「笑ってねえで反省しろ。もし今度、人が沢山居るところで喋ったりしたらくびもぎ取るからな。分かったか?」

 すると、マコはチッと舌打ちをしてから、

反省はんせいしてまぁ~す♪」

 おちゃらけるように言った。おい! と俺はマコを力強ちからづよ指差ゆびさす。

「テメーふざけてんだろ! いいか? 俺はマジだからな!」

「分かってますってー。ジョークですよジョーク」

 マコはギギギ……ときしおんを鳴らしながら、テヘッといった感じで後頭部こうとうぶに右手を当てた。

「……で? 話って何だよ?」

「深夜アニメの話になるんですけどね。私のように人形がたましい宿やどして、人間のようにお喋りしたり、動いたりするアニメがあるっていう情報を小耳こみみはさんでいまして。私は観たことはないんですけど、堂本さんは?」

 いや、と俺は否定した。

「何だかとっても有名なアニメらしく、機会きかいがあれば是非ぜひ観たいって思ってたんです。そのアニメが最近、深夜に再放送さいほうそうされたんですけど、録画しておいた正月番組しょうがつばんぐみの消化に忙しくてそれに気付かず、先日、ついに最終回をむかえてしまったんですよ。見逃してしまったんですよ」

 知らねえよ。

「最終回を迎えてしまったんですよ! 見逃してしまったんですよ!」

 だから何だっつーんだよ。意味なくさけんでねーでさっさと用件ようけん言えや。

「私、同じ動く人形として、そのアニメがどのようなモノか気になるんですよねー」

 だから……何?

「というワケで、今から人形が動く例のアニメのDVDを借りて観ましょう」

 ……何言なにいってんだコイツ。

「さあさあ。ずっと勉強ばかりしていると、逆に頭が悪くなるって言われてますし」

 いやテメーのおかげ全然ぜんぜんまるでまった勉強べんきょうできてないんだけど。

「さっきからなんだまってるんですか? ほら、人形が動くアニメ、観ましょうよ~」

 ……何だかんだでそのアニメのDVDを観る流れになった。

 俺はDVDを個室で観ることができるレンタルビデオ店に入った。

 店の受付で『魂を宿して人間のように動いたり喋ったりする人形が出る有名なアニメ』のタイトルを聞いて全巻ぜんかん借り、狭苦せまくるしい個室でマコとともにアニメを観ることに……。


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