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血液と貧血と

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「では、お名前フルネームと生年月日をお願いします」

  採血室にて。年配の看護婦さんは言った。

 「和泉いずみ浩介こうすけ。昭和62年、4月27日生まれです」

「はいありがとうございます」

 看護婦さんは手際てぎわよく採血の準備を始めた。

「あの、いつも通り左腕で、寝ながらお願いします」

「はーい、じゃあそっちを頭にして寝転がってくださいねー」

  指示通りにした後、俺は左腕を出して壁側に顔を向けた。

「えっと、終わったら、言ってくださいね」

「ふふ、分かってますよ」

  物心がついて初めて採血を体験したのは小学4年の頃だったかな。
 俺は血のことを考えすぎて、全クラスで唯一、に貧血で倒れた。

 もともと血の話が苦手で、授業中にそういった話になると視界がボヤーッとして、貧血で倒れてしまうのだった。

 あと全校集会とかでもそう。
 ずっと立っていると『倒れちゃいけない倒れちゃいけない』と考えてしまい、その思考がどんどんエスカレートして貧血が起こり、倒れてしまう。

  血の話。
 そして『倒れちゃいけない』。
 2つの意識が、俺を貧血へいざなってしまうのだ。

 両親はそのことを知っていたが、病気と考えたくなかったらしく『ただの貧血だから』と片付けていた。
 そのころ俺も『そうなんだ』と思い込み、深くは考えなかったお陰で高校まではそこまで酷くなかった。
 でも大学で決定的なことが起こった。

 
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