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急に ゲストが 来たので
しおりを挟む二十八階の床はエレベーターホールまでふわふわのカーペットだった。
「二十八階は大浴場です。奥にあります」
鞘師さんがそう言ったところで、ガウン姿のゲストが二人、奥から歩いてきた。
おじさん二人組。会社の同僚だろうか。
「あっ」
と、俺は咄嗟にエレベーターの方に後退し、閉まりそうになったエレベーターの扉に手を添えて止めた。
「ど、どうぞ」
俺が言うと、二人組は小さく会釈してエレベーターに乗った。俺も会釈して、エレベーターの扉が閉じるのを待った。
(はあ……。こういうこと沢山あるんだろうなあ……)
なるべく客対応をしたくないのだけど……。
だから客室清掃のが良かったんだよなあ、と俺が思っていると、物凄く驚いた顔でこちらを見ている鞘師さんが居た。
「え、どうかしましたか?」
「……和泉さんって、こういう仕事したことありますか?」
「いえいえいえ、したことないですよ」
今日バイトすら初めてなんです、なんて恥ずかしくて言えなかった。
「そうですか……」
鞘師さんは何かを考えるような表情で、スマホを出した。そして片手ですらすら画面をスワイプさせて、何かを確認。
「和泉さん、毎週土日に入れるってことで大丈夫ですか?」
鞘師さんはスマホをしまった。
「あ、はい。まずは土日だけで考えてます」
「助かります。じゃあ今日はこのくらいにしておきましょう」
……ん?
「エレベーター清掃の大前提は覚えていただいたので、今日はあがっても大丈夫です」
まだ三十分も経ってないような……。
「次は今週の土曜にまた来てください。また十時くらいでお願いします」
「……あ、はい。分かりました」
「あと言いそびれました。ゲストに大浴場の場所を聞かれたら『二十八階』と。何時まで開いているかを聞かれたら『15時~翌朝11時まで』と答えて下さい」
「あ、はい!」
俺はすぐさまメモ帳を出して、大浴場が開いている時間をメモした。
(つまり、朝の11時から15時までは大浴場は開いてない、と)
メモ帳をしまったとき、またも鞘師さんは驚いた表情をこちらに向けていた。
「あ、あれ? ボクってなにか変ですか?」
俺が冗談交じりに言うと、いえいえと鞘師さんは笑った。
「いえ、とんでもない。じゃあ二階に戻りましょう」
何故かは分からないが、鞘師さんは嬉しそうだった。
うーん、よく分からん……。
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