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さよならミナミ、またね和泉ン
しおりを挟む時は既に夕暮れ頃。
フグ料理店なんて見当たらない道の途中で、ミナミは足を止めた。
俺も立ち止まる。
たくさんの人が行きかう中で、俺たちだけ時間が止まったかのようになる。
「じゃあ、ありがと和泉ン」
「ここで良いのか?」
「まあ、世間知らずにはまだ早い世界がこの先にあるって感じ?」
なんだそりゃ、と俺は心の中でツッコむ。
「まあいいや、じゃあ俺、帰るから」
俺はミナミに背を向けて、他の人のように動き出した。
(ふう……)
今日は本当に疲れた。
本来だったらもっと早く帰って、マンションでノンビリとモンストでもしていたのに……。
(ちゃちゃっとメシ食って寝よう……)
もう、ミナミと会うことは無いだろう。
帰ったらミナミのラインをブロックして、それから……。
等と、いろいろ考えていると、
「和泉ン! 今日は楽しかったよ!」
ミナミが叫んだ。
え? と俺が振り返ると、人目をはばからずに手を振るミナミがそこにいた。
行きかう人たちは、ミナミが手を振るターゲットである俺の方を注目する。
「またねー! また会おうね! 絶対だよ!」
ミナミは叫び、手を振り続ける。
(な、なにやって……)
自分でも顔が赤くなっているのが分かった。
注目されて恥ずかしい気持ちもあった。
でも、たぶん、認めたくはないけど……。
ミナミのひたむきな所作が可愛くて、照れたのが一番大きかったと思う。
(なにして……)
俺はなんのリアクションも返せず、背を向けて速足でその場を去っていた。
(何なんだよ……)
カーッと熱くなる顔と共に、俺はその場を逃げていた。
そして人通りの落ち着いた場所で立ち止まり、中腰になってひと息吐いた。
(びっくりした……)
冷静になって、俺は思った。
たぶん、ミナミはまた俺に何かご馳走してもらおうとしているのだ。
だからああやって『その気』があると見せたのだ。
顔は良いから、ああすれば大抵の男は手玉に出来るから。
(そうに違いない……。だからもう会わない方がいい……)
そう心の中で決めたのに……。
俺はミナミのラインをブロックすることが出来ずにいた。
『その気があったら良いな』と、心の核に芽生えてしまったのだ。
それはとても小さくも、強くて太い根をはっていた。
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