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精液と夜
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思い出せない。気づいたら夜だった。
暗闇に閉ざされた室内に、微かに隣家から漏れた明かりが差し込んでいた。
私はといえば、丸められたティッシュで足の踏み場もないほど埋まった部屋の中、シャツだけを着て下半身は丸出しで、手足を大きく左右に放り出し、硬い床の上に寝転がっていた。軽く寝返りを打ってみれば、すぐそばに転がる丸められたティッシュから、ぷーんと乾いた精液の匂いが鼻腔をくすぐった。
起き上がる。頭がやけに重い。電気を点ける。汚い自室の形相がはっきり視認できる。
ふと手のひらの匂いを嗅ぐ。精液臭い。
嫌になる、と独りごちる。具体的に何が嫌なのかわからない。でも漠然と、何かが嫌な気持ちがある。
自分が寝転がっていた位置に座る。そこの前にはちょうど小さなプラスチック製の机があって、その上には古い上に安物のノートパソコンが一台置かれている。画面は真っ暗だけれど、電源は点いている。マウスを動かすと、画面がぱっと点く。自分がおかずにしていたであろうエロ画像がでかでかと映し出されている。小学生くらいの幼い少女が、色黒の太ったオヤジに無理やりレイプされている絵の画像。別にただの絵だし、悪いことなど何一つしていないのだけれど、何か後ろめたいような感覚がちくりと心を刺した。
画像を消す。代わりに無味無臭のデスクトップが現れる。今日はもうこのままシャットダウンしよう。カーソルを電源のアイコンへと向かわせる。アイコンをクリックしようとして――やめた。どうにももやもやして仕方なかった。小さな声で奇声を発したいような、そんな情けない感情が私の中で渦巻いて、悶々とするしかなかったのだ。
私はしばしマウスに右手を当てたままアホみたいに固まって、剥き出しになっている自分の股間に目を向ける。しょぼい自分の陰茎をじっと見つめる。萎れた花のようにこうべを垂れている。少し指でいじくる。悶々としたものが肥大化するのを感じる。
ようやくマウスを動かす。インターネットを開く。無意識の如く、何も考えずにキーボードを叩く。それはもう見慣れた文字列。一日に何度もやめようと思っては打ち込んだ言葉。それで検索すれば、出てくる。誰かが誰かの捌け口のために設えた、ゆめまぼろしの類がたくさん。いくつものサイトが並んでいて、ほとんど紫。その一つをクリックする。動画だ。一昔前の、成人向けのアニメーションの動画。魔女の格好をした少女が、巨大な植物の触手に襲われるだけの。
動画を再生する。映像が動き出す。気味の悪い触手。絡まれて悶える少女。
見下ろしてみれば、しわしわだった陰茎は、いつの間にか直立している。私はそれにゆっくりと右手をかける。そして少しずつ、少しずつ指に力を込めていく。陰茎を揉むように手を上下に動かす。だんだんと早くなっていく。それは単純な機械的な動作のようで、煩悩にまみれた動物的な動きのようで。ただすっからかんの脳みその中に、一つの情景が浮かんだ。
それは自分の背中だ。電灯は点いているけれど、なぜか薄暗い部屋の中で、少女のキャラクターの喘ぎ声を吐き出すパソコンに向かい、忙しなく右手を動かしている自分の背中。猫背の不格好な背中。そいつは延々とそうしている。絶え間なく、パソコンは少女のキャラクターの喘ぎ声を垂れ流し続け、自分は直立する陰茎を揉む。自分はどんどんと老いていく。肌が濁っていき、髪の毛が白色を帯び、そして抜けていく。自分はあっという間に中年になって、年配になって――。最後にはぼろぼろの肌も剥がれ落ちて、骨も朽ちて。自分は消えて、あとにはうるさいパソコンと、部屋中を埋め尽くす丸められたティッシュの山だけが残っている。その間、窓の外はずっと夜だった。ただひたすらに、暗い夜だった。
眩暈のするような感覚に、さっと我に返った。動画は終わっていて、陰茎はすでに萎み始めていた。精液を受けとめた手のひらは、ぬめりとした感触で覆われていた。それは指や陰茎の先端をつたって床にも落ち、じわりじわりと広がっていた。
ああ、嫌になる。また独りごちる。相変わらず何が嫌なのかよくわからない。ただただ嫌だという気持ちだけが確かにある。
私は精液を包んだゴミの山の中から、まだ汚れていないティッシュを探す気力もなくて、自分の手と床にまとわりつく、その白濁した液体を、ぼんやり眺めていた。あのとき浮かんだ、夜の中で自分が朽ちていく情景を巻き戻しながら。
暗闇に閉ざされた室内に、微かに隣家から漏れた明かりが差し込んでいた。
私はといえば、丸められたティッシュで足の踏み場もないほど埋まった部屋の中、シャツだけを着て下半身は丸出しで、手足を大きく左右に放り出し、硬い床の上に寝転がっていた。軽く寝返りを打ってみれば、すぐそばに転がる丸められたティッシュから、ぷーんと乾いた精液の匂いが鼻腔をくすぐった。
起き上がる。頭がやけに重い。電気を点ける。汚い自室の形相がはっきり視認できる。
ふと手のひらの匂いを嗅ぐ。精液臭い。
嫌になる、と独りごちる。具体的に何が嫌なのかわからない。でも漠然と、何かが嫌な気持ちがある。
自分が寝転がっていた位置に座る。そこの前にはちょうど小さなプラスチック製の机があって、その上には古い上に安物のノートパソコンが一台置かれている。画面は真っ暗だけれど、電源は点いている。マウスを動かすと、画面がぱっと点く。自分がおかずにしていたであろうエロ画像がでかでかと映し出されている。小学生くらいの幼い少女が、色黒の太ったオヤジに無理やりレイプされている絵の画像。別にただの絵だし、悪いことなど何一つしていないのだけれど、何か後ろめたいような感覚がちくりと心を刺した。
画像を消す。代わりに無味無臭のデスクトップが現れる。今日はもうこのままシャットダウンしよう。カーソルを電源のアイコンへと向かわせる。アイコンをクリックしようとして――やめた。どうにももやもやして仕方なかった。小さな声で奇声を発したいような、そんな情けない感情が私の中で渦巻いて、悶々とするしかなかったのだ。
私はしばしマウスに右手を当てたままアホみたいに固まって、剥き出しになっている自分の股間に目を向ける。しょぼい自分の陰茎をじっと見つめる。萎れた花のようにこうべを垂れている。少し指でいじくる。悶々としたものが肥大化するのを感じる。
ようやくマウスを動かす。インターネットを開く。無意識の如く、何も考えずにキーボードを叩く。それはもう見慣れた文字列。一日に何度もやめようと思っては打ち込んだ言葉。それで検索すれば、出てくる。誰かが誰かの捌け口のために設えた、ゆめまぼろしの類がたくさん。いくつものサイトが並んでいて、ほとんど紫。その一つをクリックする。動画だ。一昔前の、成人向けのアニメーションの動画。魔女の格好をした少女が、巨大な植物の触手に襲われるだけの。
動画を再生する。映像が動き出す。気味の悪い触手。絡まれて悶える少女。
見下ろしてみれば、しわしわだった陰茎は、いつの間にか直立している。私はそれにゆっくりと右手をかける。そして少しずつ、少しずつ指に力を込めていく。陰茎を揉むように手を上下に動かす。だんだんと早くなっていく。それは単純な機械的な動作のようで、煩悩にまみれた動物的な動きのようで。ただすっからかんの脳みその中に、一つの情景が浮かんだ。
それは自分の背中だ。電灯は点いているけれど、なぜか薄暗い部屋の中で、少女のキャラクターの喘ぎ声を吐き出すパソコンに向かい、忙しなく右手を動かしている自分の背中。猫背の不格好な背中。そいつは延々とそうしている。絶え間なく、パソコンは少女のキャラクターの喘ぎ声を垂れ流し続け、自分は直立する陰茎を揉む。自分はどんどんと老いていく。肌が濁っていき、髪の毛が白色を帯び、そして抜けていく。自分はあっという間に中年になって、年配になって――。最後にはぼろぼろの肌も剥がれ落ちて、骨も朽ちて。自分は消えて、あとにはうるさいパソコンと、部屋中を埋め尽くす丸められたティッシュの山だけが残っている。その間、窓の外はずっと夜だった。ただひたすらに、暗い夜だった。
眩暈のするような感覚に、さっと我に返った。動画は終わっていて、陰茎はすでに萎み始めていた。精液を受けとめた手のひらは、ぬめりとした感触で覆われていた。それは指や陰茎の先端をつたって床にも落ち、じわりじわりと広がっていた。
ああ、嫌になる。また独りごちる。相変わらず何が嫌なのかよくわからない。ただただ嫌だという気持ちだけが確かにある。
私は精液を包んだゴミの山の中から、まだ汚れていないティッシュを探す気力もなくて、自分の手と床にまとわりつく、その白濁した液体を、ぼんやり眺めていた。あのとき浮かんだ、夜の中で自分が朽ちていく情景を巻き戻しながら。
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