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眠らせてくれよ
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蛙は言った。
「お前さんは自分がどうして生まれたか考えたことあるか?」
俺は無視して、観ていた動画のコメント欄に「つまんね」と書き込んだ。
蛙はなおも言葉を続ける。
「そうやっていつまでだらんとしているつもりだ」
俺はまだ無視して、その動画の投稿者の名前を検索してみた。アンチスレの類と思われるスレッドが出てきた。眺めてみると、やれツイッターがクソだとか、やれ動画のこういうところが気に入らないだとか、複数の人間たちからぼろくそに貶されていた。
「どうしてそんなものを眺めるんだ?」
蛙は馬鹿にするように頬袋を膨らませる。
俺はいい加減に何か答えようかと思ったけれど、結局何も理由らしきものが思いつかなくて、無言のまま罵詈雑言の文字の羅列をひらすら目で追っていた。
「本当にろくでなしなんだな」
「知ってるよ」
それにはすぐ返事をしていた。蛙がしめたとばかりにまくしたててきた。
「知ってるなら何で治そうとしないんだ。何でここでこんなことをしているんだ。他にするべきことがたくさんあるだろうに。しなきゃいけないことがたくさんあるだろうに。でもお前さんはここにいる。するべきこともしなきゃいけないこともほっぽりだして、知りもしない赤の他人を悪口を眺めている。何でそんなろくでなしの自分に耐えられる? どうやったらそんなクソな自分と折り合いをつけられるんだ? どうなんだ?」
蛙はふんふんと鼻息を荒くしながら俺に詰め寄る。
俺は何も答えられない。何も答えようがない。だって理由なんてないのだ。耐えてもいないし、折り合いもつけていない。するべきこともしなきゃいけないこともわからない。自分が何をすればいいのかわからない。だからこうするしかないのだ。こんなところで、こんなものを眺める他に、自分が取るべき行動を見つけられない。それが無駄なことだとしても、自分の存在自体が無駄であることを誤魔化す手立ては何もない。
「じゃあ質問を変えるよ。お前さんはこのままでもいいのかい? 変わりたいとは思わないのかい? このままで悔しくないかい?」
蛙の煽るような言葉が、少し遠くから聞こえる。
俺はどうでもいいことを考えている。――最近は腹が減らないな。むしろ胃が痛いし、頭も痛い。いっそのこと病院に入院してしまいたい。でも診察してもらっても出してもらえるのは軽い精神安定剤ばかりで、どうにも効いている気がしない。もっと重い病気なら良かったのに。誰にでもはっきり見える怪我や障害なら良かったのに。そうでないのなら、この世に生まれてこなければ良かったのに。でも死にたくないのだ、残念ながら。死にたいと思えたなら良かったな。死を逃げ道だと思える図太さがあれば良かったな。でも死は終わりにしか思えない。こんなくだらない自分の存在が消えてしまうのが恐ろしくて堪らない。
「おい聞いてるのか? お前さんは何がしたいんだ? 何が望みなんだ?」
望み――その単語がふっと鼓膜に入り込んできたとき、俺の口は勝手に開いた。
「せめて眠らせてくれよ」
それっきり、蛙は何も言わなかった。ただげこげこと笑うように鳴くだけだった。
なんだか痒くて俺は目を擦った。視界が歪んでいた。
「お前さんは自分がどうして生まれたか考えたことあるか?」
俺は無視して、観ていた動画のコメント欄に「つまんね」と書き込んだ。
蛙はなおも言葉を続ける。
「そうやっていつまでだらんとしているつもりだ」
俺はまだ無視して、その動画の投稿者の名前を検索してみた。アンチスレの類と思われるスレッドが出てきた。眺めてみると、やれツイッターがクソだとか、やれ動画のこういうところが気に入らないだとか、複数の人間たちからぼろくそに貶されていた。
「どうしてそんなものを眺めるんだ?」
蛙は馬鹿にするように頬袋を膨らませる。
俺はいい加減に何か答えようかと思ったけれど、結局何も理由らしきものが思いつかなくて、無言のまま罵詈雑言の文字の羅列をひらすら目で追っていた。
「本当にろくでなしなんだな」
「知ってるよ」
それにはすぐ返事をしていた。蛙がしめたとばかりにまくしたててきた。
「知ってるなら何で治そうとしないんだ。何でここでこんなことをしているんだ。他にするべきことがたくさんあるだろうに。しなきゃいけないことがたくさんあるだろうに。でもお前さんはここにいる。するべきこともしなきゃいけないこともほっぽりだして、知りもしない赤の他人を悪口を眺めている。何でそんなろくでなしの自分に耐えられる? どうやったらそんなクソな自分と折り合いをつけられるんだ? どうなんだ?」
蛙はふんふんと鼻息を荒くしながら俺に詰め寄る。
俺は何も答えられない。何も答えようがない。だって理由なんてないのだ。耐えてもいないし、折り合いもつけていない。するべきこともしなきゃいけないこともわからない。自分が何をすればいいのかわからない。だからこうするしかないのだ。こんなところで、こんなものを眺める他に、自分が取るべき行動を見つけられない。それが無駄なことだとしても、自分の存在自体が無駄であることを誤魔化す手立ては何もない。
「じゃあ質問を変えるよ。お前さんはこのままでもいいのかい? 変わりたいとは思わないのかい? このままで悔しくないかい?」
蛙の煽るような言葉が、少し遠くから聞こえる。
俺はどうでもいいことを考えている。――最近は腹が減らないな。むしろ胃が痛いし、頭も痛い。いっそのこと病院に入院してしまいたい。でも診察してもらっても出してもらえるのは軽い精神安定剤ばかりで、どうにも効いている気がしない。もっと重い病気なら良かったのに。誰にでもはっきり見える怪我や障害なら良かったのに。そうでないのなら、この世に生まれてこなければ良かったのに。でも死にたくないのだ、残念ながら。死にたいと思えたなら良かったな。死を逃げ道だと思える図太さがあれば良かったな。でも死は終わりにしか思えない。こんなくだらない自分の存在が消えてしまうのが恐ろしくて堪らない。
「おい聞いてるのか? お前さんは何がしたいんだ? 何が望みなんだ?」
望み――その単語がふっと鼓膜に入り込んできたとき、俺の口は勝手に開いた。
「せめて眠らせてくれよ」
それっきり、蛙は何も言わなかった。ただげこげこと笑うように鳴くだけだった。
なんだか痒くて俺は目を擦った。視界が歪んでいた。
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