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ナカムラコウジ
ナカムラコウジ その1
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煙草臭い事務室でカメラの調子を確認する。数年使い古しているそれは、未だに新品のようにはきはきと動作する。これも悪の組織の技術というやつらしい。こんなものが世界侵略の何の役に立つのか。まあそんなものはどうでもいいや、と一息ついてお茶を飲む。
事務室のドアが開き、派手なアロハシャツを着た男が入ってくる。社長だ。
「よーし、今日も撮影、張り切ってやるぞー」
社長はそう間延びした声で言いながら、部屋の隅に置かれている小さな冷蔵庫を開け、そこから取り出したパックの牛乳をラッパ飲みする。
「それ、消費期限が昨日で切れてましたよ」
「だーいじょうぶ。一日ぐらいどうってことないって。僕、胃腸強いし」
僕の忠告に構わず、社長は消費期限切れの牛乳を飲み干した。
「ふう、そんで、今日の撮影のスケジュールはどうなってるのけねえ?」
社長が宙に向かって質問を投げかけると、僕の隣に座ってずっと無言でジグソーパズルに興じていたサクラダくんが気だるげに手を上げた。
「――えーっとですね、今日は悪の組織さんから四本の許可が出てますね。まずはセイントマープルって子の触手責め。新人ちゃんですね。初回なのできつめの方針で。そんでその後はスカイシャインちゃんの一般人責め。会員の方々にはすでに楽屋で待機してもらっています。今回集まった人数は十五人ですね。新会員さんは二人くらいです。常連さんばかりなので、いつものノリで良いと思います。その後は昼食休憩を挟んでですね――」
サクラダくんはジグソーパズルに目を向けたまま、淀みなく喋った。
社長はそれを適当な相槌を打ちながら聞いている。
「なるほどなるほど。今日は新人ちゃんがいるのか。それはますます張り切らないとな」
「スカイシャインちゃんの方も色々と大詰めみたいだから、きっちりやってくれとのお達しです。あんまり新人にかまけるのはダメですよ」
「そーんなことはわかってるよ。別に古株ちゃんたちを蔑ろにしようなんて思ってないよ。ただまあ、俺らの本業って撮影じゃん。そりゃ悪の組織さんから頂いた子を使わせてもらってるし、それで対価として悪の組織さんの活動にも協力するのは当たり前だけどさあ。それでも俺らが一番にやるべきことって、どれだけ抜ける画が撮れるかってことだろ?」
社長はそうお道化た調子で笑った。サクラダくんはそんな社長の様子には何の反応も示さず、ひたすら完成の見えないジグソーパズルを弄り続けていた。かくいう僕も、どういう表情をしていいかわからず、もう弄る必要もないカメラにべたべたと触っていた。
「相変わらずノリ悪いなあ」
そうは言うものの、社長は別に機嫌を損ねたような様子ではなかった
「そろそろ行きましょう。もう撮影を始めないと今日の予定終わらせられないです」
サクラダくんは結局未完成のままのパズルを放り出し、席から立ち上がった。
「よーしよし、今日も頑張るぞー。ナカムラもカメラの準備はオッケー?」
「オッケーですよ」
抑揚のない声で答えて、僕もカメラを抱えて立ち上がる。
悪の組織だとか魔法少女だとか、そんな子供騙しの妄想が現実で発生するようになったのがいつなのか、僕はよく知らない。興味がなかった、今も。たとえ発生したのがいつだろうと、そんなことはどうでも良かった。僕はただ、カメラを持っていたいだけだから。
事務室のドアが開き、派手なアロハシャツを着た男が入ってくる。社長だ。
「よーし、今日も撮影、張り切ってやるぞー」
社長はそう間延びした声で言いながら、部屋の隅に置かれている小さな冷蔵庫を開け、そこから取り出したパックの牛乳をラッパ飲みする。
「それ、消費期限が昨日で切れてましたよ」
「だーいじょうぶ。一日ぐらいどうってことないって。僕、胃腸強いし」
僕の忠告に構わず、社長は消費期限切れの牛乳を飲み干した。
「ふう、そんで、今日の撮影のスケジュールはどうなってるのけねえ?」
社長が宙に向かって質問を投げかけると、僕の隣に座ってずっと無言でジグソーパズルに興じていたサクラダくんが気だるげに手を上げた。
「――えーっとですね、今日は悪の組織さんから四本の許可が出てますね。まずはセイントマープルって子の触手責め。新人ちゃんですね。初回なのできつめの方針で。そんでその後はスカイシャインちゃんの一般人責め。会員の方々にはすでに楽屋で待機してもらっています。今回集まった人数は十五人ですね。新会員さんは二人くらいです。常連さんばかりなので、いつものノリで良いと思います。その後は昼食休憩を挟んでですね――」
サクラダくんはジグソーパズルに目を向けたまま、淀みなく喋った。
社長はそれを適当な相槌を打ちながら聞いている。
「なるほどなるほど。今日は新人ちゃんがいるのか。それはますます張り切らないとな」
「スカイシャインちゃんの方も色々と大詰めみたいだから、きっちりやってくれとのお達しです。あんまり新人にかまけるのはダメですよ」
「そーんなことはわかってるよ。別に古株ちゃんたちを蔑ろにしようなんて思ってないよ。ただまあ、俺らの本業って撮影じゃん。そりゃ悪の組織さんから頂いた子を使わせてもらってるし、それで対価として悪の組織さんの活動にも協力するのは当たり前だけどさあ。それでも俺らが一番にやるべきことって、どれだけ抜ける画が撮れるかってことだろ?」
社長はそうお道化た調子で笑った。サクラダくんはそんな社長の様子には何の反応も示さず、ひたすら完成の見えないジグソーパズルを弄り続けていた。かくいう僕も、どういう表情をしていいかわからず、もう弄る必要もないカメラにべたべたと触っていた。
「相変わらずノリ悪いなあ」
そうは言うものの、社長は別に機嫌を損ねたような様子ではなかった
「そろそろ行きましょう。もう撮影を始めないと今日の予定終わらせられないです」
サクラダくんは結局未完成のままのパズルを放り出し、席から立ち上がった。
「よーしよし、今日も頑張るぞー。ナカムラもカメラの準備はオッケー?」
「オッケーですよ」
抑揚のない声で答えて、僕もカメラを抱えて立ち上がる。
悪の組織だとか魔法少女だとか、そんな子供騙しの妄想が現実で発生するようになったのがいつなのか、僕はよく知らない。興味がなかった、今も。たとえ発生したのがいつだろうと、そんなことはどうでも良かった。僕はただ、カメラを持っていたいだけだから。
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