クズ箱日誌

すごろく

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ナカムラコウジ

ナカムラコウジ その2

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「うーん、今一つ反応が悪いな」
 パイプ椅子にふんぞり返る社長が、不満げな顔を浮かべて後頭部を掻く。僕は社長の視線の先にある光景をカメラに収めている。そのスタジオはピンク色の内臓みたいな肉に壁や床や天井が覆われていて、妙にびろびろしたイソギンチャクみたいなもの――俗に触手というらしい――がそこかしこから伸びている。悪の組織さんが提供してくれているスタジオだ。カメラを覗き込んでいると気にならないけれど、足元のぶよぶよした感触は未だにあまり慣れない。
 今このスタジオに、一人の少女が吊し上げられている。黄色いドレスみたいな衣装がぼろぼろにされている。目の色とか髪の色とかは目がちかちかする色合いをしていて、一般的には美人だとか可愛いとか言われるような容姿をしていた。少女は大きく股を開かされていて、股間には太い触手を差し込まれている。触手はリズミカルに前後に揺れている。ピストン運動だ。それによって少女はときたまぶるぶる震え、弱々しい喘ぎ声を口から漏らした。
「まあ、初めてですからね。こんなもんじゃないですか?」
 サクラダくんは相変わらず興味なさげに言う。
「でもこれじゃさすがに画にならないって。そうだな、クスリはある?」
「ありますよ。ぶっちゃけ高いんであんまり使いたくないんですけどね」
「背に腹は代えられないよ。ちゃっちゃと投与しちゃおう」
 クスリというのは、いわゆる媚薬というやつだ。ここで仕事を始めるまでは、そんなものが実在するとも知らなかった。まあそれも悪の組織さんの技術らしいが。
 サクラダくんが何かの装置をぽちぽちと操作する音が聞こえる。媚薬が投与されるようだしアングルを変えようとズームしたとき、少女の口が微かに動いていることに気づいた。
「社長、こっちに声かけてますよ」
「お、本当だ。サクラダくん、もっとマイクの音量大きくして」
 社長はあからさまに嬉しそうにサクラダくんに指示を出した。
 マイクの音量が上がり、掠れた少女の声がしっかり聞こえるようになる。
「――あ、あの、うあっ、あなたたちって、その、うぎっ、人間、くあっ、なんですよね?」
 触手に突かれて呻きながら、少女は言葉を絞り出していた。
「うん、そうだよ。それとも怪人に見える?」
「見えま、ぎあっ、せんけど・・・・・・」
「そういや自己紹介してなかったね。僕はこの撮影の責任者のイチノセっていうやつだよ。裏アダルトビデオメーカークズ箱っていう会社の社長やってる」
「はっ、はっ? く、くずばこ?」
 社長は少女の困惑の声を無視して話を続ける。
「そんでこっちのカメラマンがナカムラ。元大学の同期。で、こっちのぬぼっと突っ立っているのが雑用諸々やってくれてるサクラダくん。元大学の後輩。基本的に撮影はこの三人でやってるよ。たまに悪の組織さんから戦闘員の方をお借りするときもあるけど。これからわりかし長い付き合いになると思うから、どうかよろしくね」
 社長の世間話するような気楽な調子に、少女の表情は明らかに戸惑っているようだった。
「あの、うぐっ、私を開放してはっ、あっ、はっ、くれませんか?」
 少女は数秒ほど逡巡していたようだが、同じ人間ということで説得を試みることにしたらしい。少女の懇願に、社長は我儘な子どもを目の前にしたような顔をした。
「うーん、それはダメだね。悪の組織さんからきっちり犯してくれって言われてるし。それにアダルトビデオも作んないとね。うちはアダルトビデオメーカーだし。一応悪の組織さんからちょっとばかりお給金はいただいてるけど、基本はこっちが協力してもらってる立場だからね。やっぱアダルトビデオを売ってなんぼだし――」
 社長はぺらぺらと余計な内情を喋った。これはもう口が滑っていると言っていいのだけれど、僕もサクラダくんも止めたりはしない。社長の口が軽いことは知っているし、今更直るわけでもない。それに、大して機密の情報なんてうちの会社にはない。
「えっ、え? あっ、アダルトビデオって――その、うっ、これっ、撮ってるんですか?」
「あれ? 話、聞いてなかった? うちはアダルトビデオ会社だからね。まあ裏のだけど。ほら、カメラマンのナカムラが今君のことをばっちり撮ってるでしょ?」
 社長が僕の方を指差した。少女の顔が、カメラの方へと向く。
「なっ、うあっ、な、何で、ひっ、こんなこと・・・・・・」
「何でって、そりゃ商売でしょ? 人間、働かないと食っていけないからね」
「そっ、そういうことではなくて、があっ、どうしてこんな酷いこと・・・・・・」
「酷いか酷くないかは商売には関係ないよ。時代劇とか見たことない? 越後屋お主も悪よのおって感じで悪い商人いっぱい出てくるでしょ? 僕らはそういう感じのやつってこと。エロゲだとクズ市民って呼ばれるやつだね。いや、ちょっと違うかな? 僕らは別に君に性的興奮を覚えるから犯してるわけじゃないしね」
 にこにこしながら淀みなく答える社長に、ますます少女の顔は険しくなった。
「そっ、そんなことして、うっ、はっ、あっ、人間としての良心は、ないんですか? ぎいいいっ」
「もちろんあるよ。人間なんだから。でもそれは商売とは関係ない」
 きっぱり言い切る社長に、少女の目は困惑から敵意へと変わっていた。
「あなたたちっ・・・・・・さっ、さいてーっ、うげっ、ですねっ」
「そうだね。僕らはクズだ。もっともそう思っているのは僕だけかもしれないけどね。ナカムラとサクラダくんはどう思う?」
「まあ、クズじゃないですかね。どうでもいいですけど」
 サクラダくんは心底から興味なさげにそう答えた。とりあえず僕もそれに同調するように「そうだと思いますよ」と短く言った。
 少女は社長と僕とサクラダくんを、順繰りに睨みつける。
「あなたたちも、オーバーリーディングと同じく、ぎっ、許しませんからねっ」
 一瞬「オーバーリーディング」という単語に疑問符が浮かんだが、すぐに悪の組織の名称であったことを思い出した。社長はあの組織を名称で呼ぶのを嫌う。その理由は「ダサいから」というシンプルなもので、それは僕も同意だった。いちいち「オーバーリーディング」なんて安直かつ陳腐で恥ずかしい単語を口にするのは憚られる。だから社長はあの組織のことをいつも「悪の組織さん」と呼んでいたし、僕もサクラダくんもそうしていた。
「うんうん、そうだねそうだね、こんなことされて許せるわけないよね。それでいいし、それが正しいよ。謝って済むなら警察も死刑もいらないなんてのはよく言ったもんだね。まあ僕らは商売でやってるから、謝りはしないけど」
 社長はひとしきり捲し立てると、ひとり満足げに頷いた。
「もういいかな。この後もあるし。サクラダくん、投入」
「はいはい」
 サクラダくんが再び何かを操作する音が聞こえてきた。どうやら社長のどうでもいい長話が終わるまで待っていたらしい。
 瞬間、少女の目が見開かれたかと思うと、びくっと身体を仰け反らせて、小刻みに痙攣し始めた。
「なっ、ななな、何をっ、があああっ、した、の? うわあああああっ」
「君の反応が悪いからね、媚薬を入れさせてもらった。大丈夫大丈夫、心配することはないから。ちゃんと壊れない程度には調整してあるから。すぐに壊れちゃったら撮れ高少ないからね。まあ壊れた姿は壊れた姿で好きなお客さんもいるんだけど。悪の組織さんからもなるべく飼い殺しにできるようにとのご要望だし」
「そっ、そんなっ、いぐあああああああああああああああっ」
 少女の特大の雄叫びが室内に鳴り響いた。触手が突き刺された陰唇から、大量の液体が溢れ出しているのが確認できる。
「おおっ、いいねいいね! さすが悪の組織さんの媚薬はよく効くなあ。サクラダくん、もうちょっと触手の動き速くして」
「はいはい」
 サクラダくんがまた何やら操作すると、触手の前後に揺れるスピードが速まった。膣を引き摺り出そうとしているように激しく抜き差ししている。
「うべっ、いやっ、あっ、いっ、があああっ、うああああああああっ」
 少女は陸に上げられたばかりの魚みたいに、宙で何度も飛び跳ねる。口から赤い舌がぴんと飛び出した。見開かれたまま静止した目は、もうどこも見ていなかった。
 僕はその様子を、ただカメラに収めていく――。
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