20 / 280
一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。
20 聖女さん、大勝利?
しおりを挟む
「すみません、依頼を受けたいんですけど」
「はいはーい、じゃあクエストボードに書かれていた依頼番号を教えて欲しいっす」
空いていた受付に向かった私達に、受付嬢の同い年位の女の子が妙にフランクな感じでそう返してくる。
胸に付けられたシズクと書かれたネームプレートの隣に若葉マークが付けられているという事は新人さんなんだろう。
成程納得……もっと頑張って新人教育!
……でもこれはチャンスかもしれない。
「えーっと17番の依頼で」
「17番っすね、17番……え、マジっすか? これ受けるんすか? これSランクの依頼なんすけど……三人共Fランクの駆け出し冒険者っすよね?」
「ま、ランクはそうなんだけどさ、結構実力には自信があるんだ」
狼狽える新人さんに対して私はそう答える。
……とりあえず切れるカードを全力で切ろう。
この奇跡みたいな全員聖女という、信じて貰う事さえできれば最強な交渉カード。
本来であれば誰か一人が追放された聖女という話も中々信用して貰える話ではないけど……それでもそれをこの新人さんに対してゴリ押しで信じさせて通す。
三人共元聖女で、それをこなせるだけの実力があるという事で特例で依頼を受ける。
……周りの規則を守りそうなベテランに相談される前に、押し切る。
……と、思ってたんだけど。
「ま、分かったっす。怪我しないように頑張って欲しいっすよ」
「「「……え?」」」
あまりにも呆気なく無茶が通って、私達は三人揃って間の抜けた声を出す。
……なんで?
「何呆けた顔浮かべてるんすか?」
「あ、いや、だって……ほら……」
「駆け出しだからこの依頼を受けられる筈が無いって事っすか?」
「う、うん……まあそうなんだけど」
「無理矢理でも通すつもりで持ってきたんなら最後まで胸張ってて欲しいっす」
そう言った後、新人さんは言う。
「ボク、こう見えても結構人を見る目には自信あるんすよ。だから分かるんすよ……皆さんの適性がこの依頼なんだって」
……適当を言っている様には思えなかった。
思えなかったから、私はシルヴィやステラにそうしたように、そういう眼で。
実力を測るような眼で新人さんを見て……そして腑に落ちた。
目の前の新人受付嬢は、私達と同等の強い力を持っている。
……なんでこんな子が新人の受付嬢なんてやってるのだろう。
もしかして私達みたいな境遇で、ステラが飲食店に転がり込んだみたいに冒険者ギルドの受付嬢に……ってそれは多分無いか。
一人でも珍しい。
二人いて奇跡。
三人揃って超奇跡。
……流石に二度ある事は三度あっても四度目は無いでしょ。
まあ、とにかく、謎。
この子の素性も。
いくら私達の実力が分かったとはいえ、そんな判断を簡単にできたのかも。
「いいの? 怒られたりしない?」
「そ、そうですよ!」
「頼んどいてなんだけど……無理してないか?」
自分達で無理を通しに来たにも関わらず、私達は心配になってそう問いかけるが新人さんは言う。
「ま、怒られるかもしれないっすけど……あんまり気にしないで欲しいっすよ」
そう言って新人さんは笑みを浮かべる。
「結構無茶やってる自覚はあるっすけど……正当な評価をできない。してやれないような人間ではいたくないんすよボク」
……結局、此処に至るまでに彼女に何があったのかは知らない。
無暗な詮索はしないけど。
もしこの子の心遣いが原因で、この子に良くない事が起きたりしたら……責任持ってパーティーに誘う位の事はしよう。
だから今は。
正直なんだか罪悪感のような物が沸いてくるけど。
「……ありがと」
此処はご厚意に甘える事にした。
そしてそれから依頼の細かな詳細の説明を聞いて。
「じゃあ頑張って。グッドラックっす!」
「うん、色々ありがと!」
「じゃあまた」
「ありがとな!」
私達はそんな言葉を新人受付嬢、シズクに告げて冒険者ギルドを後にした。
これから挑む依頼。そこにはなんの心配も無いけれど……。
「あの受付の子、本当に大丈夫かな?」
「く、クビになったりしねえよな……?」
「駆け出し冒険者を最上級みたいな難易度の依頼に送り出してますからね……大丈夫……だと良いですね」
もうみんなシズクの心配はすっごいしてた。
「あの……もし万が一あの子がクビにでもなっちゃったら……私達のパーティーに誘っても良いかな? 私の見立てだと実力も何故か私達と同じ位あるみたいだし」
「クビになったらって演技でもねぇ……ま、もしそうなったら声掛けてもいいかもな」
「賛成です……せめてその位はしないと」
まあ、最終手段だけどね。
願わくば無事何事もなく終わってほしい。
その為にも無傷で帰ってこなきゃ。
「……ところで」
シルヴィが気になったように言う。
「私達と同じ位の実力って、今の流れ考えたらシズクさんも元聖女だったりするんですかね?」
「いや、まさか……もしそうだったら世も末だろ」
「いやいや、三人も居た時点でもう末だよこの世」
……いやほんとに。
そしてもう既に世も末だから。
「……いやでもなんとなくシズクさんも追放仲間な気がします」
「……まあ否定しきれねえな」
「……来ちゃってるからね、聖女追放ブーム」
誰もその可能性を捨てられない。
……もうやだこの世界。
「はいはーい、じゃあクエストボードに書かれていた依頼番号を教えて欲しいっす」
空いていた受付に向かった私達に、受付嬢の同い年位の女の子が妙にフランクな感じでそう返してくる。
胸に付けられたシズクと書かれたネームプレートの隣に若葉マークが付けられているという事は新人さんなんだろう。
成程納得……もっと頑張って新人教育!
……でもこれはチャンスかもしれない。
「えーっと17番の依頼で」
「17番っすね、17番……え、マジっすか? これ受けるんすか? これSランクの依頼なんすけど……三人共Fランクの駆け出し冒険者っすよね?」
「ま、ランクはそうなんだけどさ、結構実力には自信があるんだ」
狼狽える新人さんに対して私はそう答える。
……とりあえず切れるカードを全力で切ろう。
この奇跡みたいな全員聖女という、信じて貰う事さえできれば最強な交渉カード。
本来であれば誰か一人が追放された聖女という話も中々信用して貰える話ではないけど……それでもそれをこの新人さんに対してゴリ押しで信じさせて通す。
三人共元聖女で、それをこなせるだけの実力があるという事で特例で依頼を受ける。
……周りの規則を守りそうなベテランに相談される前に、押し切る。
……と、思ってたんだけど。
「ま、分かったっす。怪我しないように頑張って欲しいっすよ」
「「「……え?」」」
あまりにも呆気なく無茶が通って、私達は三人揃って間の抜けた声を出す。
……なんで?
「何呆けた顔浮かべてるんすか?」
「あ、いや、だって……ほら……」
「駆け出しだからこの依頼を受けられる筈が無いって事っすか?」
「う、うん……まあそうなんだけど」
「無理矢理でも通すつもりで持ってきたんなら最後まで胸張ってて欲しいっす」
そう言った後、新人さんは言う。
「ボク、こう見えても結構人を見る目には自信あるんすよ。だから分かるんすよ……皆さんの適性がこの依頼なんだって」
……適当を言っている様には思えなかった。
思えなかったから、私はシルヴィやステラにそうしたように、そういう眼で。
実力を測るような眼で新人さんを見て……そして腑に落ちた。
目の前の新人受付嬢は、私達と同等の強い力を持っている。
……なんでこんな子が新人の受付嬢なんてやってるのだろう。
もしかして私達みたいな境遇で、ステラが飲食店に転がり込んだみたいに冒険者ギルドの受付嬢に……ってそれは多分無いか。
一人でも珍しい。
二人いて奇跡。
三人揃って超奇跡。
……流石に二度ある事は三度あっても四度目は無いでしょ。
まあ、とにかく、謎。
この子の素性も。
いくら私達の実力が分かったとはいえ、そんな判断を簡単にできたのかも。
「いいの? 怒られたりしない?」
「そ、そうですよ!」
「頼んどいてなんだけど……無理してないか?」
自分達で無理を通しに来たにも関わらず、私達は心配になってそう問いかけるが新人さんは言う。
「ま、怒られるかもしれないっすけど……あんまり気にしないで欲しいっすよ」
そう言って新人さんは笑みを浮かべる。
「結構無茶やってる自覚はあるっすけど……正当な評価をできない。してやれないような人間ではいたくないんすよボク」
……結局、此処に至るまでに彼女に何があったのかは知らない。
無暗な詮索はしないけど。
もしこの子の心遣いが原因で、この子に良くない事が起きたりしたら……責任持ってパーティーに誘う位の事はしよう。
だから今は。
正直なんだか罪悪感のような物が沸いてくるけど。
「……ありがと」
此処はご厚意に甘える事にした。
そしてそれから依頼の細かな詳細の説明を聞いて。
「じゃあ頑張って。グッドラックっす!」
「うん、色々ありがと!」
「じゃあまた」
「ありがとな!」
私達はそんな言葉を新人受付嬢、シズクに告げて冒険者ギルドを後にした。
これから挑む依頼。そこにはなんの心配も無いけれど……。
「あの受付の子、本当に大丈夫かな?」
「く、クビになったりしねえよな……?」
「駆け出し冒険者を最上級みたいな難易度の依頼に送り出してますからね……大丈夫……だと良いですね」
もうみんなシズクの心配はすっごいしてた。
「あの……もし万が一あの子がクビにでもなっちゃったら……私達のパーティーに誘っても良いかな? 私の見立てだと実力も何故か私達と同じ位あるみたいだし」
「クビになったらって演技でもねぇ……ま、もしそうなったら声掛けてもいいかもな」
「賛成です……せめてその位はしないと」
まあ、最終手段だけどね。
願わくば無事何事もなく終わってほしい。
その為にも無傷で帰ってこなきゃ。
「……ところで」
シルヴィが気になったように言う。
「私達と同じ位の実力って、今の流れ考えたらシズクさんも元聖女だったりするんですかね?」
「いや、まさか……もしそうだったら世も末だろ」
「いやいや、三人も居た時点でもう末だよこの世」
……いやほんとに。
そしてもう既に世も末だから。
「……いやでもなんとなくシズクさんも追放仲間な気がします」
「……まあ否定しきれねえな」
「……来ちゃってるからね、聖女追放ブーム」
誰もその可能性を捨てられない。
……もうやだこの世界。
10
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる