最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。

20 聖女さん、大勝利?

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「すみません、依頼を受けたいんですけど」

「はいはーい、じゃあクエストボードに書かれていた依頼番号を教えて欲しいっす」

 空いていた受付に向かった私達に、受付嬢の同い年位の女の子が妙にフランクな感じでそう返してくる。
 胸に付けられたシズクと書かれたネームプレートの隣に若葉マークが付けられているという事は新人さんなんだろう。
 成程納得……もっと頑張って新人教育!

 ……でもこれはチャンスかもしれない。

「えーっと17番の依頼で」

「17番っすね、17番……え、マジっすか? これ受けるんすか? これSランクの依頼なんすけど……三人共Fランクの駆け出し冒険者っすよね?」

「ま、ランクはそうなんだけどさ、結構実力には自信があるんだ」

 狼狽える新人さんに対して私はそう答える。
 ……とりあえず切れるカードを全力で切ろう。
 この奇跡みたいな全員聖女という、信じて貰う事さえできれば最強な交渉カード。
 本来であれば誰か一人が追放された聖女という話も中々信用して貰える話ではないけど……それでもそれをこの新人さんに対してゴリ押しで信じさせて通す。
 三人共元聖女で、それをこなせるだけの実力があるという事で特例で依頼を受ける。

 ……周りの規則を守りそうなベテランに相談される前に、押し切る。
 ……と、思ってたんだけど。

「ま、分かったっす。怪我しないように頑張って欲しいっすよ」

「「「……え?」」」

 あまりにも呆気なく無茶が通って、私達は三人揃って間の抜けた声を出す。
 ……なんで?

「何呆けた顔浮かべてるんすか?」

「あ、いや、だって……ほら……」

「駆け出しだからこの依頼を受けられる筈が無いって事っすか?」

「う、うん……まあそうなんだけど」

「無理矢理でも通すつもりで持ってきたんなら最後まで胸張ってて欲しいっす」

 そう言った後、新人さんは言う。

「ボク、こう見えても結構人を見る目には自信あるんすよ。だから分かるんすよ……皆さんの適性がこの依頼なんだって」

 ……適当を言っている様には思えなかった。
 思えなかったから、私はシルヴィやステラにそうしたように、そういう眼で。
 実力を測るような眼で新人さんを見て……そして腑に落ちた。

 目の前の新人受付嬢は、私達と同等の強い力を持っている。

 ……なんでこんな子が新人の受付嬢なんてやってるのだろう。
 もしかして私達みたいな境遇で、ステラが飲食店に転がり込んだみたいに冒険者ギルドの受付嬢に……ってそれは多分無いか。
 一人でも珍しい。
 二人いて奇跡。
 三人揃って超奇跡。
 ……流石に二度ある事は三度あっても四度目は無いでしょ。

 まあ、とにかく、謎。
 この子の素性も。
 いくら私達の実力が分かったとはいえ、そんな判断を簡単にできたのかも。

「いいの? 怒られたりしない?」

「そ、そうですよ!」

「頼んどいてなんだけど……無理してないか?」

 自分達で無理を通しに来たにも関わらず、私達は心配になってそう問いかけるが新人さんは言う。

「ま、怒られるかもしれないっすけど……あんまり気にしないで欲しいっすよ」

 そう言って新人さんは笑みを浮かべる。

「結構無茶やってる自覚はあるっすけど……正当な評価をできない。してやれないような人間ではいたくないんすよボク」

 ……結局、此処に至るまでに彼女に何があったのかは知らない。
 無暗な詮索はしないけど。
 もしこの子の心遣いが原因で、この子に良くない事が起きたりしたら……責任持ってパーティーに誘う位の事はしよう。

 だから今は。
 正直なんだか罪悪感のような物が沸いてくるけど。

「……ありがと」

 此処はご厚意に甘える事にした。



 そしてそれから依頼の細かな詳細の説明を聞いて。

「じゃあ頑張って。グッドラックっす!」

「うん、色々ありがと!」

「じゃあまた」

「ありがとな!」

 私達はそんな言葉を新人受付嬢、シズクに告げて冒険者ギルドを後にした。

 これから挑む依頼。そこにはなんの心配も無いけれど……。

「あの受付の子、本当に大丈夫かな?」

「く、クビになったりしねえよな……?」

「駆け出し冒険者を最上級みたいな難易度の依頼に送り出してますからね……大丈夫……だと良いですね」

 もうみんなシズクの心配はすっごいしてた。

「あの……もし万が一あの子がクビにでもなっちゃったら……私達のパーティーに誘っても良いかな? 私の見立てだと実力も何故か私達と同じ位あるみたいだし」

「クビになったらって演技でもねぇ……ま、もしそうなったら声掛けてもいいかもな」

「賛成です……せめてその位はしないと」

 まあ、最終手段だけどね。
 願わくば無事何事もなく終わってほしい。
 その為にも無傷で帰ってこなきゃ。

「……ところで」

 シルヴィが気になったように言う。

「私達と同じ位の実力って、今の流れ考えたらシズクさんも元聖女だったりするんですかね?」

「いや、まさか……もしそうだったら世も末だろ」

「いやいや、三人も居た時点でもう末だよこの世」

 ……いやほんとに。
 そしてもう既に世も末だから。

「……いやでもなんとなくシズクさんも追放仲間な気がします」

「……まあ否定しきれねえな」

「……来ちゃってるからね、聖女追放ブーム」

 誰もその可能性を捨てられない。
 ……もうやだこの世界。
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