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一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。
ex 聖女ちゃん&聖女君、VS聖女と同格の少女
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(……武器は持ってねえな。戦闘手段は徒手空拳。ここまで距離を詰めてきたって事は近接格闘に特化してる可能性がたけえ。だったら)
ステラは拳を握って前へ出る。
「シルヴィ! 援護頼む!」
「え、あ、はい!」
そう返答するシルヴィの前にステラは立つ。
もし相手が自分の読み通りの戦法を取ってくるなら、シルヴィは前には出せない。
(こういう相手に正面からぶつかるのは俺の仕事だな)
逆に言えばシルヴィは自分達三人の中で最もそこから遠い位置に立っている。
(シルヴィは近接苦手だろうし)
自分の事を含めると自惚れのような考えになってしまうかもしれないが、自分を含めた三人は事魔術に関わるあらゆるパラメータが常人のそれを大きく上回っている。
故に不得意な分野も一般的な尺度で言えば完璧と呼べるだけの高みに到達している訳だ。
だがその基準値を大きく引き上げれば、得意不得意から生まれる優劣はある程度分かりやすくなる。
そうして見えてくるのは、シルヴィの近接戦闘の技量の低さだ。
魔物の群と戦った時の極僅かな時間見ただけでステラには、それが高い出力で足りない技量を補うごり押しの動きだという事が分かった。
だから近接戦闘一点においては三人の中で最も高い技量を持っている自信のある自分が前に出る。
自分があまり得意ではない近接格闘以外の全部を、純粋な魔術師としての技量がおそらく自分達三人の中で最も高いと判断したシルヴィにぶん投げて。
これが基準値が大きく引きあがった今、取れる最善の策の筈だ。
そして飛び掛かってきた黒装束の少女はステラに向けて、何かしらの術式が付与された拳を振るってくる。
(……大丈夫だ、見える)
モーションから動きを先読みして、体を捻り攻撃を回避。
そして……その動きのまま流れるように拳を握る。
「まずは一発!」
放たれたのは渾身のリバーブロー。
「……ッ!」
それを叩きつけられた少女は声にならない声を上げ、勢いそのままに弾き飛ばされていく。
……だが。
(あの勢いで突っ込んでくる奴だ。この一発じゃ沈まねえだろ)
こちらも向うのように、殺傷力を引き上げるような術式を付与させれば話は別だったかもしれない。
だけどそれをやっていない以上、今の一発で終わらせる事はできないだろう。
……そして終わらせられなかったという事が命取りとなる次元の戦いだ。
(……参ったな)
……体が重い。
今の一撃で、急激に気力と体力が減退している。
(……随分と気合入った事してくれんじゃねえか。防御捨てて相討ち狙いの捨て身のカウンターなんて、そうできる事じゃねえぞ)
殴る直前、拳が当たるポイントに何かしらの魔術が発動していた。
……その結果がこれ。
気を抜けば膝を付きそうな程の倦怠感。
これで向こうも無事では無いだろうが、こちらも大幅に戦力ダウンという事になる。
……本当にそれだけだろうか?
果たして自分は体力を失っただけなのだろうか?
(……俺から消えた体力は、本当に消えただけなのか?)
浮かび上がる最悪のケース。
(まさか……持っていかれたんじゃないか?)
自分の失った体力が向こうに渡っている可能性。
そういう効力を発揮する魔術の存在を聞いた事がある。
……エナジードレイン。
もしそうであれば、今のリバーブローで蓄積している筈のダメージがいくらか回復されている可能性がある。
(だとしたら……本当にまずい)
と、冷や汗をかきながら考えるステラにシルヴィは言う。
「す、凄い。私出る幕無さそうですね」
どうやら今の一撃が戦況が一気にこちらに傾く程の一撃に思えたらしい。
だけど現実はそうじゃない。
殺さずに倒すような戦い方を続ければ敗色濃厚だ。
「シルヴィ。ちょっと無茶振りしていいか?」
「え? む、無茶振り?」
それを打開するには。
こちらの倒すというスタンスを貫いたままで勝つには、少しばかり無茶な頼みをしなくてはならない。
「俺が可能な限りアイツの相手をする。その間にシルヴィはアイツを殺さずに止める方法考えて実行してくれ」
「えぇ!? ちょ、それどういう……今ステラさんが押してるんじゃ……」
「残念。ぶっ殺そうと思えば話は別かもしれねえが、逆に言えばそうでもしないと勝てねえ可能性がたけえ。それは単純に今の連携の練習もしてない俺達が二人掛かりで挑んでも変わらねえと思うわ……それだけ、あの黒装束はやべえ奴だ」
「……!?」
「でも俺もお前も殺すような戦い方はしたくねえだろ。だから私が一人でなんとかしてる間に、シルヴィがうまくやってくれ。やり方は任せる。最悪死ななきゃ俺を巻き込んでも良い」
「……分かりました。やってみます」
シルヴィは納得するようにそう言って頷いて、それからステラに一歩近付き、細かな結界を無数に張る。
そして次の瞬間、木々の間から無数に飛んできた黒色の弾丸を全て相殺する。
「……三分程時間を下さい」
「三分ね、了解……じゃあシルヴィのサポートは此処までだ。こっからは三分間俺がなんとかする。そっちには行かせない」
そう言ってステラはシルヴィを軽く突き飛ばして、それから身を低くした。
その頭上をいつの間にか自分達の背後に居た黒装束の少女の蹴りが通過する。
その攻撃のキレは、殆ど失われていない。
渾身のリバーブローを受けた後とは思えない。
だから恐らく、ステラの読みは当たっている。
……本当に強く、手を抜いて勝てる相手ではない。
それでも。
「っしゃあ、第二ラウンド始めっか」
スタンスを曲げる事なく、第二ラウンドがスタートする。
ステラは拳を握って前へ出る。
「シルヴィ! 援護頼む!」
「え、あ、はい!」
そう返答するシルヴィの前にステラは立つ。
もし相手が自分の読み通りの戦法を取ってくるなら、シルヴィは前には出せない。
(こういう相手に正面からぶつかるのは俺の仕事だな)
逆に言えばシルヴィは自分達三人の中で最もそこから遠い位置に立っている。
(シルヴィは近接苦手だろうし)
自分の事を含めると自惚れのような考えになってしまうかもしれないが、自分を含めた三人は事魔術に関わるあらゆるパラメータが常人のそれを大きく上回っている。
故に不得意な分野も一般的な尺度で言えば完璧と呼べるだけの高みに到達している訳だ。
だがその基準値を大きく引き上げれば、得意不得意から生まれる優劣はある程度分かりやすくなる。
そうして見えてくるのは、シルヴィの近接戦闘の技量の低さだ。
魔物の群と戦った時の極僅かな時間見ただけでステラには、それが高い出力で足りない技量を補うごり押しの動きだという事が分かった。
だから近接戦闘一点においては三人の中で最も高い技量を持っている自信のある自分が前に出る。
自分があまり得意ではない近接格闘以外の全部を、純粋な魔術師としての技量がおそらく自分達三人の中で最も高いと判断したシルヴィにぶん投げて。
これが基準値が大きく引きあがった今、取れる最善の策の筈だ。
そして飛び掛かってきた黒装束の少女はステラに向けて、何かしらの術式が付与された拳を振るってくる。
(……大丈夫だ、見える)
モーションから動きを先読みして、体を捻り攻撃を回避。
そして……その動きのまま流れるように拳を握る。
「まずは一発!」
放たれたのは渾身のリバーブロー。
「……ッ!」
それを叩きつけられた少女は声にならない声を上げ、勢いそのままに弾き飛ばされていく。
……だが。
(あの勢いで突っ込んでくる奴だ。この一発じゃ沈まねえだろ)
こちらも向うのように、殺傷力を引き上げるような術式を付与させれば話は別だったかもしれない。
だけどそれをやっていない以上、今の一発で終わらせる事はできないだろう。
……そして終わらせられなかったという事が命取りとなる次元の戦いだ。
(……参ったな)
……体が重い。
今の一撃で、急激に気力と体力が減退している。
(……随分と気合入った事してくれんじゃねえか。防御捨てて相討ち狙いの捨て身のカウンターなんて、そうできる事じゃねえぞ)
殴る直前、拳が当たるポイントに何かしらの魔術が発動していた。
……その結果がこれ。
気を抜けば膝を付きそうな程の倦怠感。
これで向こうも無事では無いだろうが、こちらも大幅に戦力ダウンという事になる。
……本当にそれだけだろうか?
果たして自分は体力を失っただけなのだろうか?
(……俺から消えた体力は、本当に消えただけなのか?)
浮かび上がる最悪のケース。
(まさか……持っていかれたんじゃないか?)
自分の失った体力が向こうに渡っている可能性。
そういう効力を発揮する魔術の存在を聞いた事がある。
……エナジードレイン。
もしそうであれば、今のリバーブローで蓄積している筈のダメージがいくらか回復されている可能性がある。
(だとしたら……本当にまずい)
と、冷や汗をかきながら考えるステラにシルヴィは言う。
「す、凄い。私出る幕無さそうですね」
どうやら今の一撃が戦況が一気にこちらに傾く程の一撃に思えたらしい。
だけど現実はそうじゃない。
殺さずに倒すような戦い方を続ければ敗色濃厚だ。
「シルヴィ。ちょっと無茶振りしていいか?」
「え? む、無茶振り?」
それを打開するには。
こちらの倒すというスタンスを貫いたままで勝つには、少しばかり無茶な頼みをしなくてはならない。
「俺が可能な限りアイツの相手をする。その間にシルヴィはアイツを殺さずに止める方法考えて実行してくれ」
「えぇ!? ちょ、それどういう……今ステラさんが押してるんじゃ……」
「残念。ぶっ殺そうと思えば話は別かもしれねえが、逆に言えばそうでもしないと勝てねえ可能性がたけえ。それは単純に今の連携の練習もしてない俺達が二人掛かりで挑んでも変わらねえと思うわ……それだけ、あの黒装束はやべえ奴だ」
「……!?」
「でも俺もお前も殺すような戦い方はしたくねえだろ。だから私が一人でなんとかしてる間に、シルヴィがうまくやってくれ。やり方は任せる。最悪死ななきゃ俺を巻き込んでも良い」
「……分かりました。やってみます」
シルヴィは納得するようにそう言って頷いて、それからステラに一歩近付き、細かな結界を無数に張る。
そして次の瞬間、木々の間から無数に飛んできた黒色の弾丸を全て相殺する。
「……三分程時間を下さい」
「三分ね、了解……じゃあシルヴィのサポートは此処までだ。こっからは三分間俺がなんとかする。そっちには行かせない」
そう言ってステラはシルヴィを軽く突き飛ばして、それから身を低くした。
その頭上をいつの間にか自分達の背後に居た黒装束の少女の蹴りが通過する。
その攻撃のキレは、殆ど失われていない。
渾身のリバーブローを受けた後とは思えない。
だから恐らく、ステラの読みは当たっている。
……本当に強く、手を抜いて勝てる相手ではない。
それでも。
「っしゃあ、第二ラウンド始めっか」
スタンスを曲げる事なく、第二ラウンドがスタートする。
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