最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。

ex この世界で起きている事について

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「ったく、まーじで何が起きてんだか」

 シズクを含めた元聖女四人がギルドを後にしたのを見てから、臨時受付の役割を終えたクライドは席を立ちバックヤードへと戻りながらそう呟く。

(……本当に冗談抜きで世界の危機なんじゃねえか?)

 本気のご乱心にせよ、誰かが裏で手を引いてるにせよ、これで少なくとも四つの国家が著しく弱体化している事になる。
 そしてもし誰かが手を引いていた場合、その後齎される事が何かは大体察しが付く。

 そして……今回の件を認知した事で……点と点が繋がった事が一つある。
 ……先程言いかけて、言わなかった事だ。

「あ、終わりました?」

 とりあえず一杯コーヒーでも飲もうかと休憩室に足を踏み入れると、そこには先程まで隣に居た受付嬢のアリアが椅子に座って週刊誌を読み寛いでいた。

「おう、終わった。とんでもねえ驚愕情報が山のように出てきやがった」

「驚愕情報……ですか。あ、コーヒー淹れます?」

「自分でやるから良い。お前休憩中だろうが」

「じゃあお言葉に甘えて」

 そんなやり取りをしながらインスタントコーヒーを淹れひとまずテーブルにマグカップを置いた所でアリアが言う。

「ああ、そう言えばそこの戸棚にお菓子入ってますよ。今朝シズクちゃんが美味しいお店見付けたから皆さんでどうぞって」

「へぇ、気ぃ利くじゃねえかアイツ……どれどれ……ほーどら焼きね」

「なんかあまり大きなお店じゃないそうなんですけど、結構色々置いてあるんですって」

「へぇ……今度場所聞こ」

「軽いノリで聞けるような感じに落ち着けばいいですけどね」

「落ち着かせるしかねえだろ。こんなもん貰っちまったら尚更だ。あーもう中間管理職ってのはマジで面倒だな」

 文句を言いながら着席。
 包装を剥がして一口。

「お、マジでうめえな」

「でしょ……で、私達に何か手伝える事あります?」

「いや、特別ねえな。まあなんとかクビは回避してみせるから、アイツが復職した時に戻ってきやすいような環境にしといてやってくれたら助かる」

「あーい。一番大事な奴ですね。まあ皆その辺は分かってますよ」

「ならいい。じゃあその辺は頼むわ。職場内でギスギスしてるのとか見てられねえからな」

 それに。

(実際の所の原因はともかく、前職が絶対碌でもねえ空気だったんなら、それ味わわせる訳にはいかねえしな)

 仕事は辛くてもせめて人間関係位はホワイトにを仕事の理念として持っている彼からすれば、そこが彼の基準で碌でもない場所だった事は間違いない。
 自分の部下に二度もそういう思いをさせる訳にはいかない。

(……ま、それも全部上との話が付けばの話だが)

 依頼受注の際の情報は魔術を利用したシステムで本部で管理される事になっていて、既に問題として挙げられている。
 今更隠蔽工作をしようにも遅いから、正面からぶつかっていくしかない。

(……嫌いなんだよな、あの頭かてえ馬鹿共)

 と、職場で発生した危機について考えていたのは此処まで。

「それで……話は変わりますけど、驚愕情報っていうのは……」

 此処から先は世界の危機の話。

「ああ。まあ隠しとくような話でもねえし、とりあえず話しとくわ。一応顧客情報に大きく踏み込んだ話だから、ギルド内部はともかく外では迂闊に話すなよ」

「それは勿論」

「……実はな」

 そうして先程の話をある程度分かりやすくまとめてクライドはアリアに話した。
 シズクを含めた彼女たちの素性の話。
 ……そこから予想される世界の危機の話を。

 そして最後まで一通り聞いた後、アリアは言う。

「なるほど……シズクちゃんの履歴書の件も本当だったんですね」

「一応信じる事にした。とんでもねえ奴だったよ……ほんと、受付嬢なんてやらせてていいのか?」

「まあ本人が冒険者とかじゃなくこっち側に興味を持って志望してきたんなら、その辺は本人の意思を尊重してあげた方が良いんじゃないですか? ほら、他にもっと向いている仕事があったとしても、一番向いている仕事以外をやっちゃいけないルールなんてありませんからね」

「それはその通り」

「部長も殺し屋とかの方が向いてそうですからね」

「……イメチェンしようかな」

 しないけど。
 ……まあとにかく。

「でも確かに驚愕情報ですね。シズクちゃん達の過去もそうですけど……部長が言う通り世界がヤバいって事ですよね」

「ああ……本当にな。それも多分起きたのは聖女の追放なんて事だけじゃねえかもしれねえ」

 そしてクライドは始める。
 先程受付で直前で踏みとどまった話を。

「お前、二か月程前にクラニカでクーデターが起きたのは知ってるよな?」

 クラニカ王国。
 この国から見て遠く離れた極東に位置する国家だ。

「そりゃ知ってますよ……といっても分かったのはクーデターが起きて国の体制が変わったって事位で。全然詳しい情報が出てこないんですよね」

「ああ。なんだろうな……それだけ大それた事が起きているのにそうなるに至った経緯を含めてあらゆる事が分からず終いなんだよ」

 そしてコーヒーを一口飲んでからクライドは言う。

「だが言える事があるとすれば、あの国は別にクーレターが起きるような圧政を敷いていた訳じゃねえ。それどころか住みやすい国として有名だった位だ。実際俺の知人がクラニカ出身で不定期に帰省もしてたらしいんだけどよ、そういう奴からしても意味が分からないらしい。この世界でそういう事とは一番無縁とも言ってた」

「……という事は部長はこの件も裏で手を引く誰かが居たって言いたいんですか? 話の流れ考えると」

「ああ……まああくまで可能性だがな」

「根拠は?」

「まずあの三人の聖女が戦ったらしい相手の一人は聖女だった可能性が高い。そんで聖女なんてのは基本何処の国でも詳しい情報は伏せてるが、民間企業が事業でやってるような事じゃねえんだ。基本的には国家の中核に近い場所に立っている筈。そしてその国家がクーデターで転覆した場合、聖女はどうなる? 基本的には体制側の人間だ。当然生かされている可能性も大いにあるが、あまり良くない事になっている可能性も高いだろ。それこそ殺されてるか……そういった事から逃れる為に逃げ出しているか」

「つまり部長は黒装束の聖女(仮)がその国の聖女だったと」

「もう四人確定で追放されている聖女が居るんだ。他にももっと居るのかもしれねえが……それでも追放された聖女疑惑がある奴と聖女を追放している可能性のある国があるなら、そこを結びつけるのは自然な流れだろ」

 それに、とクライドは言う。

「アンナっていうあの三人の代表みたいな聖女の話の中で、黒装束の男が刀っていうマイナーな武器を使っていたみたいな話が出てきてな。そん時は別に重要な話じゃねえとは思ってスルーしたんだが……刀ってのはクラニカの武器だ。勿論他国でも僅かに流通はしているが……その武器使ってる時点で、自分達がクラニカから来ましたって言ってるような物じゃねえか」

「……まあ可能性が高くなる程度の話だとは思いますけど、一理ありますね」

「だろ? で、その黒装束がクラニカの聖女だと仮定してだ」

 そう言ってどら焼きを食べ切ったクライドは一拍空けてから言う。

「現状俺達が確認しているだけで四人も聖女が追放されているという状況な事を考えると……クーデターが起きた結果聖女が追放みてえな事になってるんじゃなくて、聖女を殺害するか。もしくは国外に追い出す為にクーデターが起こされたんじゃねえかって思うんだよ。アイツら四人とやり方が違っただけで目的は同じみてえな」

「……確かに既に四人も意味の分からない理由で追放されている事を考えると、その可能性も十分考えられる訳ですね」

 少し考える素振りを見せながらそう言ったアリアは、一拍空けてから言う。

「それで、どうしてその話をあのシズクちゃん達にはしなかったんですか?」

「まあどこまで考えてそれっぽい仮説を作っても、それはあくまで仮説でしかねえ。信憑性なんてねえからよ。もし俺がこの話をしてアイツらがその気になったとして、結局的外れな事だった場合……最悪、あの四人の人生に良くない影響が出るだろ。自分なりに結構信憑性のありそうな説だからこそ、ちゃんと裏が取れるまでは人に迂闊には話せねえんだ」

「今私に話してますけどね」

「そこはノーカンにしといてくれよ。お前は話しても妙な動きはしねえだろ」

「やれと言われたらやりますけど」

「……言わねえよ、本当にそういう事を言わねえとならねえ状況まで」

 そしてコーヒーを一口飲んでから言う。

「本業でも副業でも、部下は大事にって決めてるからな」

「やっさしー」

 そしてアリアは休憩は終わりとばかりに立ち上がる。

「じゃあ私そろそろ仕事戻りますね」

「おう」

「ちなみに部長はこれからどうするんですか?」

「これ飲んだら本部の方に顔出してくる」

「あんまり手荒な真似はしないでくださいよ。何かあっても揉み消すの大変なんですから」

「しねーよ馬鹿。俺は冒険者ギルドの施設運営部部長として仕事しに行くんだから。ほら、休憩終わったならさっさと仕事戻れ仕事」

「はーい」

 そう言ってアリアは休憩室から出ていく。
 それを見送ったクライドは改めてコーヒーを飲みほして、それから軽くため息を付き。

「……やるか」

 色々と難しい事を考える思考から、嫌いな奴に頭を下げに行く思考へと切り替え。

「どら焼きうまかったしな」

 彼なりの戦いを始める為に立ち上がった。
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