最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。

61 聖女さん達、合同隠蔽工作

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 そんな訳で荷物を置いた私達は、私の家を隠蔽する為の作業に取り掛かる事にした。

「一応確認しとくっすけど、今はどういう風な対策を施してんすか?」

「うーんと、そうだね。端から見られないようにする為のカモフラージュ用の結界と、人払いの結界。後はもし万が一見付けられるような事があった場合に備えた物理的な結界かな」

「成程な。じゃあ基本的には似たような術を俺達三人も重ねて掛けて、他にやれそうな対策が有ったら各々やるって感じでいいか?」

「それで良いと思いますよ」

「ボクもっす」

「よし。家主もそれでいいか?」

「うん、じゃあそれで……その、よろしく、三人共」

 そして私の言葉に各々相槌を打ってから作業に取り掛かり出す。
 ちなみにだけど、私は完全に手持無沙汰だ。
 もう既に私の結界は施してあるし、他にやれそうな事というかやった方が良い対策が思いつかない。
 とはいえ皆が態々私の為にやってくれてるのに、何もしないで突っ立ってるのもな……何かやれる事無いかな。

「……そうだ」

 一つやる事を見付けて、家の中へと足取りを向ける。

「とりあえず冷たい麦茶とか用意しとこ」

 凄く無難だけど突っ立ってるよりは良いんじゃないかなって思うよ。

 とまあコップに冷たい麦茶を入れて再び外へ。

「とりあえず冷たい飲み物用意したから飲みたかったら飲んで! 後手伝える事あったら手伝うからいつでも呼んでー!」

「はーい」

「了解っす」

「とりあえず今の所はねえからゆっくりしてろよ」

「う、うん」

 そう言われて頷き、棒立ち。
 ……うーん、お茶入れるだけだから速攻で終わっちゃったよ。
 再び手持無沙汰だ。

 手伝える事があったら手伝うとは言ったけど、多分皆能力高いから手伝いが居る状況になんて多分ならないんだよね。
 ……うん、マジでやる事ないから見学でもしようかな。
 此処にいる皆はそれぞれ元聖女で即ち最高峰の魔術師な訳だから、何か勉強になる事もあるかもしれないし。

 そういう訳でまずはシルヴィの所へ。

「どんな調子?」

「ぼちぼちさっき言ってた基本三種の結界は張り終わりますね。一国包むだけの結界を作れって言われたら途方もない時間が掛かりますけど、この位の範囲だとそんなに時間掛かりませんからね」

 と、優秀さを発揮したシルヴィは私に提案してくる。

「そうだ。さっきステラさんが言ってた、他にやれそうな事があったらって話なんですけど、一つ提案があって」

「提案……とりあえず教えてもらってもいい?」

「えーっとですね、人払いを超えてきた相手を対象に、死なない程度に高圧電流を流して迎撃する罠とか作ったらどうかなーって」

 と、とんでもない案だったよ!

「あ、あの……物理的な危害は与えない方針でここはひとつ……ほら、普通に迷い込んだ人とか動物とかが怪我するのはちょっと、って感じだし……うん、カモフラージュと人払いで十分だよ!」

「そうですか。まあアンナさんがそう言うなら止めておきますか」

「う、うん。そういうのは無しの方向で」

 あ、危なぁ……何も言わなかったら、とんでもないトラップ設置される所だったよ。
 死なないにしても十分傷害事件になっちゃうよそんなの張ったら。

「じゃ、じゃあ二人の方も見てくるね」

「はーい」

 そんな声を聞きながら踵を返す。
 うーん、この流れだと二人も過剰な防衛システム構築してそう。

 そして次はステラの元へ。

「ステラどんな感じ?」

「順調。基本的な奴はもうそんなに時間掛からねえな……で、アンナ。一つ提案があるんだけどよ」

「な、何かな?」

 嫌な予感を感じながらもそう答えると、ステラは言う。

「俺の魔術で何かしようと思うと森林火災の原因になりかねないからな。だからシルヴィに頼んで俺達の人払い越えてくるような奴に向けた罠を張って貰うのとかどうだ? 死なない程度に高圧電流とか流す感じで」

「シルヴィと考えてる事同じだ!」

 あまり一致しててほしくない所で一致している!

「お、シルヴィ自分でそういう事考えたか。いやーアイツ今日の午前中までは自分に全く自信なさそうだったのに、言うようになったな。俺は嬉しいよ」

「なんかいい話風になってるし、実際良い話なのかもしれないけど……うん、直接危害加える系の奴は無しの方向でって、シルヴィにも言ってきた」

「ん? そうなのか? ……まあ家主のアンナがそういう要望なら仕方ねえか。元々やる予定無い項目だしな」

「そ、そういう方向でよろしく! 後シズクの方も見て来るね」

「おう!」

 そして私は踵を返し、シズクの方へと歩き出す。
 いや、なんだろう……もしかしてだけど二人共、相手死んでなければセーフだと思ってない?
 別にこの辺りに偶々来ちゃう事自体は悪くないんだから……もっとこう、配慮をさぁ。

 ……で、三人目だよ。

「シズクは一体どんなヤバいオプションを考えているのかな?」

「開口一番なんか酷くないっすか!?」

 うん、言われてみればごもっともだ。
 今のはちょっと私が悪かった気がする。
 ……でも。

「ごめん。でもなんかやってるんじゃないかなーって。近づいてきた人を死なない程度に迎撃するようなオプションの取り付け」

「いや、そんな事したら確実に此処に何かあるのバレちゃうじゃないっすか。流石にそんな馬鹿な事しないっすよ」

 おーい二人共馬鹿って言われてるよ?
 いや、その可能性の事は考えていなかった私も馬鹿か。
 なんというかこう、安全性とかモラルとか、そういう事ばかり考えてた。

「それに……私達四人がかりの人払いを普通に通り抜けてくる奴なんて、死なない程度の攻撃じゃ有効打になんないっすよ、多分」

 ついでに迎撃用の罠を張った場合の問題点も指摘された。

「シズクってさ……意外とまともだよね」

「ボクそんなヤベー奴に見えてたっすか?」

 いや、こう、何だろう……喋り方とかで、良くも悪くも……言葉悪いけどアホっぽさが滲み出てたから、割と言動がまともでギャップが凄い。
 というかステラが店長さん達と出会わなかった場合どうしたのかは分からないけど、現状唯一自分の意思で履歴書書いて就職活動して就職してる子だからね。
 なんか普通に一番まともなんじゃないのシズク。

「まあやらかしてクビと謹慎の瀬戸際に居る奴っすからね。まあこれからは名誉挽回。汚名返上。うまくまともな所見せてくっすよ……っと」

 そう言ってシズクは作業を止めて体を伸ばす。

「さて、まともな所その1っす。無事全行程終わったっすよ」

 そしてシズクがそう言ったのとほぼ同時に二人からも声が上がる。

「アンナさん、終わりましたよ!」

「こっちも完了だ。とりあえず余程の事なきゃ人が寄り付いて来る事はねえだろ」

 ……まあ確かに、余程の事が無いとそれは無いと思う。
 この人払いを完全無視で突破してくる誰かが居たら普通にビビる。
 ……シズクの言う通り、そんなの死なない程度の攻撃じゃ足止めにもならないかな。

「みんなお疲れ。ごめんね、態々こんな事させちゃって」

「いいよいいよ別に。見ての通り速攻で終わったしな」

「全然苦じゃないですよ」

 そう言って笑みを浮かべる二人にシズクは言う。

「あ、二人共聞いて欲しいっすよ。アンナさん、死なない程度に迎撃する魔術張ってないかって聞いてきたんすよ。そんな此処に人住んでますってアピールするようなアホな真似する訳ないのに」

「「……」」

「え、二人共なんで鳩が豆鉄砲を食ったような顔してんすか!?」

 ……察してあげてください。


 とまあ、そんな悪気の無い指摘が入ったところでギクシャクするような私達じゃなくて。
 私達はとりあえず入れたお茶を飲んでから、おそらくこの世界有数の安全地帯となった私の家の中へ入っていくのだった。 
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