最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

文字の大きさ
72 / 280
一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。

ex 受付聖女、突如始まった面接に戦慄する

しおりを挟む
(しっかし家広いっすねー。ボクの1Kの部屋も別に不自由してないっすけど、やっぱ一軒家広い)

 まだ夕食を作り始めるには若干早くて、四人はリビングでしばらく雑談を交わしつつゆっくりと過ごす事になった。

(森の中とは言えこの敷地面積と家の大きさ、完全に豪邸っすよ。多分アンナさん……というかアンナさんの親がすげえ金持ってたんすかね。なんか良い感じの事業でもやってて)

 と、そんな事を考えていると、テーブルを挟んで対面のソファーに座っていたアンナがふと思い出したように言う。

「あ、そうだ。シズクに聞いておかないといけない事あったんだ」

「ん? なんすか? 答えられる事なら答えるっすよ」

「あ、じゃあ早速。シズクもこれから私達と冒険者としてやっていく事になると思うんだけど、その上でシズクがどういう戦闘スタイルなのかなーとか。得意な事とかあるのかなーって」

(……なるほど、どっかでその質問が飛んでくると思ったっすよ)

 シズクの中で僅かな緊張感が走る。
 これは大事な話である。
 一緒に仕事をしていく仲間に、自分の存在価値を示す重要な場である。

 と、そこでシルヴィとステラがソファーから立ち上がり、アンナの元へ。

「悪い、ちょっと詰めてくれ」

「私もお邪魔します」

「え、どういう……ああ、なるほどね」

 アンナはその行動の意味を理解したらしく、自分の座っていた大きめのスファーに、やや窮屈ながらも二人を招き入れる。
 そしてシズクもその意味になんとなく気付いた。

(な、なんか悪乗りで……面接みたいになってないっすか?)

 こう、テーブル挟んで自分の事を色々と聞かれる感じ。
 ちなみに冒険者ギルドに就職した時もこんな感じだった。

 だからこそ、若干緊張感が増す。
 なんか迂闊な事を言えないような、そんな感じ。

「ではあなたが弊社の冒険者パーティーにどのような活躍ができるのかを、御聞かせ願えますでしょうか。資料には元聖女とありますが……あなたには一体何ができますか?」

(もう完全に悪乗りだ……)

 両肘をテーブルに付けて指を組み、あえての若干低い声って感じでもう悪乗り感しか感じられない。

 が、やや緊張感が走るものの、悪乗りだという事は分かっているので自分を追い詰めるような事は当然しない。
 それに乗っかって、うまく自己PRをすればいい。それだけ。
 それだけ……なのは分かっていたが。

(ってちょっと待って。この三人の前でアピールできる事なんてボクにあるんすか?)

 大体の事なら何でもできる自信はある。
 だけど自分にできる事は、多分目の前の元聖女の三人にもできる筈で。
 そうなってくると、自分はこういう事ができますと強く言える何かが全然見つからない。

(な、なんか、なんかないっすか……なんでもいいから何か……)

 なんとなく分かっている。
 目の前の人達は此処で自分が大した事を言えなくても嫌な顔はしないでくれる。
 部長を始めとしたギルドの人達と同じく、最近の自分は本当に人との巡り合わせが良すぎる。

 でも、だからこそ。

(何でもいいからボクにはこれができますって、胸が張れる事を……)

 ちゃんと凄いと思ってもらいたい。
 だから、思考回路を焼き切れる程に動かして。
 動かして。
 訳が分からなくなる程に動かして。

 そうして辿り着いた答えを、半ば無意識に口にする。

「べ……」

「「「べ?」」」

「ベースが……弾けるっす」

 その言葉と共に、場に静寂が訪れる。
 当然だ。自分でもそうなる。

(な、何言ってるんだろボク……)

 突拍子も無く、完全に意味が分からない。
 確かに少し自信があるけど、冒険者と関係が無さ過ぎる。
 もしかすると思考回路が焼き切れる程に頭を使ったら、思考回路が焼き切れたのかもしれない。

 そしてそれを聞いたアンナが、もう完全に元の調子に戻って聞いて来る。

「べ、ベースって……えーっと、楽器の話?」

「あの、聞かなかった事にして欲しいっす」

 途端に恥ずかしくなって思わず顔を手で覆う。

(か、完全に変な奴と思われたっすよ今ので!)

 今まで思われて無かったかどうかは知らないけど、完全にやらかした。
 と、そう考えていた時だった。

「え、シズクベースやれんの?」

 そんな事を言い出したのはステラだった。

「え、あ、はい。まあ一応」

「へぇ、マジかよ。俺も昔ドラム齧っててさ。話大分脱線するけど、音楽やってた奴居てちょっとテンション上がって来た!」

(な、なんか凄い食い付いてきたんすけど……)

 予想外の反応に流石に動揺する中で、ステラが言う。

「と、俺達の中でこういう共通点が出てくると……なんか二度ある事は三度あったり四度あったりしそうだよな。二人はどうだ?」

 ステラがそう問いかけ、まず小さく手を上げたのはシルヴィだ。

「あの、あんまり自信ないですけど、キーボードを少し」

「お、マジで!?」

「ほんとに二度ある事は三度あったっすね」

「となると……アンナは何やってたんだ?」

「やってる事前提なの!?」

 と、ステラにツッコむアンナだが、軽く咳払いしてから言う。

「えーっと、趣味で軽くギターやってた」

「……ま、マジで四人共やってたっすね……」

「しかも全員被ってねえし……どんな奇跡だよこれ」

「流石にびっくりしますねこれ……」

 そんな風に各々驚く中で、一拍空けてからアンナが提案する。

「えーっと……今度セッションする?」

「や、やりますか」

「そ、そうだな。やってみるか」

「あ、じゃあボク借りれそうな場所知ってるし紹介……って此処でもできるんすね」

「うん、近隣住民もいないし、結界に防音機能も一応付けてたから」

 そんな訳で後日、元聖女四人でセッションする事になった。




 こんな理解不能な偶然により結成されたガールズバンドがメジャーデビューして、王都レコード売り上げランキング初週7位を記録するのはもう少し先の話。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...