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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

10 黒装束の男、最大限の誠意

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「で、どうだ。甘い物を食べて思考が回るようになったか?」

「急かさないでよちょっと待って。今喉まで出かかってるから」

「それ絶対出てこない奴だろう……悪いがそんな茶番に付き合う気はあまりないぞ」

 ……少しはあるんだ。
 しっかし茶番か……なんかもう実際そんな感じだ。
 で、出てこないよ本当に。
 と、頭を抱える私に男は軽くため息を付いて言う。

「……そろそろ始めないか? 俺にはお前の質問に答える準備がとっくの昔に出来ているんだが」

「その質問をする為の手段を探してるんだけど!」

「……ふむ。どうやらお前は少し勘違いをしているようだな」

「勘違い?」

「……もう糖分を摂取して脳が活性化し始めてる頃だろう。いい加減頭を回せ」

 そう言って男は言う。

「確かにお前の聞きたいことをすべて話すといった事は出来んが、最初から俺は話せる事を話すという元の要求を否定した覚えはないぞ?」

「……というと?」

「話せない事は山のようにある。だがお前が聞きたい事の中には俺が話せる事も一つや二つはあるだろうという話だ。別に質問回数を制限するというような意地悪はしない。まずは一つ一つ聞きたいことをぶつけてみる事を始めたらどうだ」

 ……そうだ。
 確かに私は聞きたい事全部に黙秘権を行使されるものとばかり思っていた。
 結局の所、話せる事と話せない事のボーダーラインはこの男の中にある。
 私が一人で勝手にそのラインを考えて、何も聞き出せないと決めつけるのは良くない。

「……じゃ、じゃあ質問攻めをさせて貰おうかな」

「お手柔らかに頼む」

「でもその前に……ってこれも質問になるのか」

「言ってみろ。答えられる物なら答える」

「じゃあ」

 そして私は男に問いかける。

「なんで話せる事は話そうと思ったの?」

「というと?」

「さっきの話を聞く限り、今の私はアンタが都合の悪いと思う行動を殆ど取れない。アンタは私の要求を呑む必要が無い。なのになんで……」

「そう難しい話ではないさ」

 男は一拍空けてから言う。

「俺は自分達の都合でお前の命を奪おうとした。あの時の俺には明確な殺意が有った。それは紛れも無い殺人未遂だよ。それに対し自首して法の裁きを受けるというような償い方は申し訳ないが今の俺には出来ん。それどころか話せない事が山のようにあるというように、お前の要求の殆どを飲むことができないんだ。それでも……やれる事はやらないといけない。可能な限り最大限の誠意は見せなければならないのは当然の事だろう?」

 ……それを本当に当然の事のように男は言って、そして続ける。

「そしてもう一つ。俺は感謝してるんだ。可能な限り要求に答えてやろうと思う位には」

「感謝?」

「これは正確に言えばお前ではなくお前の仲間への感謝になるんだが、当の本人達は此処には居ない。これから先会う事があるかも分からない。だがお前に知りたい情報を伝えれば、間接的に僅かな礼になるかもしれないからな。俺の礼と一緒に有益な情報が有ったら伝えて欲しい」

 そして男は言う。

「あの時、あの人に……俺の仲間に殺されないでくれてありがとう、と」

「……え?」

 その礼の意味が分からない。
 殺されないでくれて……ありがとう?

「それどういう事?」

「あの人を人殺しにしないでくれてありがとう、とでも言った方が分かりやすいか。とにかく、何よりそれには感謝しかない。せめてそれだけは超えさせちゃダメなラインなんだ」

「……」

 もしかしたら私は一連の言動に騙され続けているのかもしれない。
 だけど……もう、私の中では確定している。

 目の前の男は悪人じゃない。

 元から目の前の男は、悪人とは思えないような言動をしていた。
 仲間の女の子が推定では聖女って事も考えると、裏で私達と同じかそれ以上のトラブルを抱えているんじゃないかとも考えられた。

 そして男の今のお礼の言葉が。
 一緒に居た女の子の幸せを願っているような言葉が……どうしたって嘘には思えなくて。

 そういうのを見せられたら、私はもう私の周りに居てくれるような人達のような善人が、どうしようもない程の理不尽の結果、ああいう事になっていたとしか思えなくなってくる。

 立場が違えば同じような事になっていたのではないかって思えるような、そんな事に。

「……分かった。それは今度伝えておくよ。一応一人は怪我してる訳だから、どういう風に受け取るかは分からないけど」

「……ありがとう。それで、次の質問は?」

「じゃあ……そうだね。流石にあの場で何をやっていたか、は聞けないよね」

「それは済まないが答えられんな」

「でしょうね。分かってる。一応聞いてみただけ。じゃあ本命は此処から。二つ纏めて聞くよ」

 そして私は一拍空けてから問いかける。

「アンタの仲間の女の子は聖女? そして、アンタ質は一体何に巻き込まれてるの?」

 目の前の男の、聖女かもしれない女の子の事を強いる事ができるかもしれなくて。
 そして私達が巻き込まれているかもしれない事が何かという事の片鱗を掴む事ができるかもしれない、そんな問いを。
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