最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 受付聖女達、状況を正しく理解する

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「え、ちょ……えぇ……ま、マジでどういう状況なんすかこれ!?」

 流石に二度言った。一度だけで感情を発散させる事なんてできない。

(こ、これボクの立てた仮説盛大に外れまくってるんじゃないっすか!? いや、仮に普通のデートだったとしても相当頭おかしい展開になってるんすけど!?)

「ほ、本当に一体どういう流れでそんな話に……で、でもルカ君も男の子だし……」

(凄い頑張って肯定しようとしてるっすね……いや、敵なのか違うのかははっきりしないっすけど、この子が無茶苦茶可愛そうになってきたんすけど!)

「いや、これ多分あんまり良くない奴だよ。ちょっくらウチ突入してくる」

「ちょ、シエルさんストップストップっす!」

 動き出そうとするシエルを慌てて止める。
 意味が分からない状況ではあるが、それでも色々な仮説が立てられる位には二人の情報が濃いから、下手に突っ込めない。
 突っ込ませる事ができない。

「もうちょっと、もうちょっと様子見ないっすか……ほら、ノイズだらけで現在進行形で殆ど情報得られてない訳っすから。まだ色々判断するには早いっていうか……」

「いや、結構はっきりとアレな事聞こえたけど……」

「と、というかえーっと、向こうの女の人、あっちゃんさんだっけ?」

「一応本名はアンナさんっす」

「ああ、じゃあアンナさん。あの人もなんでそういう会話をすっごい真面目な表情で聞いてるんだろ」

「た、確かに……! やばい、ちょっと会わないうちに親友の考えている事が分からなくなってるのかもしれない! うわーッ!」

 そう言って頭を抱えるシエル。
 こっちにもどんな言葉を掛けるべきか悩む。

 そして。

「……しかし駄目っすね。あれ以降殆どノイズしか聞こえてこないっす」

「とんでもない一幕だけ抽出しちゃったね」

「シズクちゃん、もうちょっと精度上げられたりしない?」

「いや、ここが限界っすね。これ以上やると100パーセントバレるっす。さっきの一瞬がある程度鮮明に聞き取れたのが奇跡って感じっすね」

(なんか凄いとんでもない所で奇跡使った気がするっすよ)

 内心ため息を付きながら、ノイズだらけの盗聴魔術から意識を外して二人を改めて注視する。

(……やっぱデートって雰囲気じゃないんすよね。後は変な事を話してる感じでも無さそうだし)

 先程の単語こそ意味が分からなかったが、やはり雰囲気は真面目な話をしている様子で。
 やはり自分が立てた仮説がある程度正しかったのでは無いかと思えるようになってくる。

 と、そこでノイズだらけな盗聴魔術が、ようやく聞き取れる音声を拾ってくる。
 聞こえてきたのは再びルカという男の声だ。

「クーデター………………異質……」

 先程とは打って変わって重苦しい単語。

(……クーデター?)

 その言葉が何を意味するのかは分からない。
 だけど。

「……」

 ミカが一瞬はっとするような表情を浮かべた後、どこか納得するような。そして複雑な表情を浮かべていたのが見えた。

「わ、分からない……ビックリするくらい凄いエロいクーデター……異質なのはお前らの会話じゃい!」

 頭を抱えるシエルをよそに、シズクとミカは完全に落ち着きを取り戻した。

(……多分ボクの仮説で当たってるっすね)

 ミカが五人目だったとすれば、高確率で自分達と同じように何か問題を抱えていて。
 そして自分がいなかった北の山での戦いの事やその背景を問い詰めようとすれば、そういう問題の話も引き出せそうで。

 自分達とは全く毛色が違う問題になるけれど、聖女が国外に追放される経緯としては、自分達の抱えた問題よりもクーデターの方がよっぽど現実的に思えて。

 そしてニワカ知識ながら新聞や週刊誌などで最低限の世界情勢を頭にいれるようにしているシズクは、少し前にクーデターが起きた国があるのを知っている。


 クラニカ王国。


 クーデターが起きた経緯など、具体的な経緯などは全く入ってこないけれど、クラニカという国がどういう国なのかはある程度把握している。
 とにかくとても住みやすい良い国だと。
 週刊誌で旅行先として特集が組まれていた時に目にして印象に残っている。
 そして今接している感覚だけでいえば……ミカという女の子は悪い人には思えなくて。
 そして黒装束の男というのも、悪人にしてはおかしな言動が山のようにあって。

 だから……なんとなくだけど、分かってくる。


 今、向こうのテーブルは外野がちょっかいを出してはいけない程の大切な話をしているという事。
 ……そして。


 ミカという少女は、自分達の敵ではないという事が。
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