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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。
ex 受付聖女達、誘拐犯をシバく
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ミカが空間転移でどこかに消えた後の話。
「こ、コイツ! 俺の影の中に……ッ!」
突然男が取り乱し始めた。
(……ま、まさか影の中に飛んだんすか!? いやいやなんて無茶を……ッ!)
どうにか子供を助ける手段は無いかと聞いたのは自分だったが、流石に予想外だ。
危なすぎる。
いくら何でも肝が据わり過ぎている。
普通に無茶し過ぎだと少し怒りたいくらい。
(……でも、これなら行ける)
今までの発言がどうかは分からないが、目の前の男の困惑が演技ではない事は理解できる。
つまりまず子供を助け出す自分達の作戦はうまく軌道に乗ったという事だ。
……後は。
(後はうまく行った事が確定的に分かるのを待つだけっすね)
それさえ分ればある程度やれる事も増えるだろう。
だがそれが一つの関門だ。
(いやでも早い所何かしらのサイン来れないと、もう持たないっすよ!)
別に全ての魔術を覚えている訳ではないから、シズクには拘束魔術は使えない。
今やっているのは、水流を操り疑似的に拘束魔術と同じ効果を出しているだけに過ぎない。
正直に言えば、うまく行ってほっとする位には道理も何も無い無茶苦茶な事をやっている。
下手に派手な攻撃をするよりも何十倍も繊細な水のコントロールで、ようやく成立させている。
故にその拘束は長くは持たない。
(ああクソ! ほんと簿記の勉強やる時間を魔術の勉強にでも当てれば良かった!)
と、そんな後悔をしている時だった。
「……ッ」
コントロールが乱れた。
(やばッ!)
それにより固定していた男の足が解放される。
「お、動く。動く動く! っしゃあ、だったらとりあえずお前からだぁッ!」
そう言って男はこちらとの距離を詰めてくる。
(ミカと子供はどうなったんすか!? もう助けた!? いや、確かめようがねえっすよ!)
足元に水は張り、最低限の攻撃の準備は整っているが、攻撃して良い状況なのかは依然不明。
故に取れる選択は防御。
正面に結界を展開。
ただしその出力は与力。
そもそも今のシズクは、影の攻撃対策にこの空間全域に結界を張り、ミカに強化魔術を付与させ、そして何もない空間に疑似的に質量の伴った水を張った状態だ。
全体に張った結界はともかく後二つは最高位の難度で、思考のリソースを大幅に食う上に消耗も激しい。
故にその状況から張れる結界など大したものでは無い。
更にそこに水を纏わせて強度を上げるが……強度はあまり保証できない。
(と、とにかくまずはこの一発を防ぐ……ッ!)
そう考えるシズクだが……そもそも結界に男の攻撃が届く事は無かった。
突如、衝撃と共にミカと自分が張っていた結界が破壊された。
(え、ちょ、何が……!?)
突然の出来事に混乱するシズクの視界は、結界の破砕音と共に大きく開けた。
当然だ。
影を押しとどめていた結界が壊されたのだから。
影は結界ではなく地面に広がり、日の光が差し込む。
そして。
「シズク!」
ミカの声が聞こえた。
視界の先で、子供を抱えて。
(よし!)
その姿と声を聞き状況を察したシズクは、半ば反射的に水属性の移動用魔術を使い、滑るように勢いよく後方に移動し男との距離を取る。
取りながら安堵した。
(うまく……うまく行ってる!)
ミカが相当無茶な事をしたのは分かっていて、それはとても心配な事で。
そのミカが無事子供を救出してそこにいる事に深い安堵を覚える。
そして。
「言いたい事山程あるけど、とりあえずシバく!」
そう言いながら棒を構えて飛び掛かるシエルの姿が、更にシズクを安堵させた。
(シエルさんも……生きてるっすよ!)
死んでいてもおかしくなかった。
それだけの攻撃を無防備の状態でシエルは喰らっていた。
だけどそれでも、こちらの不安を跳ね返すようにシエルは血塗れながらもそこに居る。
(…………いやなんも安心できねえっすよ!?)
普通に重症だ。
非の打ちどころがない程の重傷だ。
寧ろなんで平気で動けているのかが分からない。
恐らく分泌されているアドレナリンが痛みを消し飛ばしているんじゃないかとは思うが、それにしても色々とツッコみたい。
だけどその異様な状態のシエルが……まだ気を休められる状況ではない事を嫌でも分からせてくれる。
(……だからこそ、冷静に)
疑似的に作り出した水を消滅させ、ある程度自由が戻ってくる。
そしてそこから今取るべき最善手を導き出した。
それは遠距離から水魔術であの男を攻撃する事ではない。
それはセオリー通りに援護の形でやって行けばいい。
本命はそこではない。
「シエルさん!」
遠距離から、シエルに強化魔術を付与した。
ミカに掛けた物と同じ、他者へ掛けられる強化魔術としては最高位の代物。
それを最初の不意打ちをモロに喰らっても大怪我で済んでいる程度には出力が高いシエルの強化魔術の上から重ね掛けする形で。
次の瞬間、シエルが一気に加速した。
その速度は自分達が出せる最高速には届かない程度の物かもしれない。
だけどそれでも、そういう高速戦闘の中でも立っていられる。
最低限戦いに参加できるだけの速度はそこにある。
叩き出したのはそういう速度だ。
そしてシエルには不意打ちに対し瞬時に強化魔術を発動させ、そして距離の詰め方一つをとっても、明らかに素人ではないと分かるだけの技量が備わっているのだ。
きっとそれだけの経験を積んできた。
それらの条件を加味すれば……これが最善手だと言わざるを得ない。
影の攻撃を異様な反射神経で回避し、その崩れた体制で棒を払いあげて先端を器用に男の顎にぶつけて宙にまで浮かせる今のシエルは、目の前の敵にぶつけるにはあまりにもオーバースペックなのだから。
後方支援専門の元聖女のシズクが扱う強化魔術は、それだけ狂った性能をしているのだから。
「こ、コイツ! 俺の影の中に……ッ!」
突然男が取り乱し始めた。
(……ま、まさか影の中に飛んだんすか!? いやいやなんて無茶を……ッ!)
どうにか子供を助ける手段は無いかと聞いたのは自分だったが、流石に予想外だ。
危なすぎる。
いくら何でも肝が据わり過ぎている。
普通に無茶し過ぎだと少し怒りたいくらい。
(……でも、これなら行ける)
今までの発言がどうかは分からないが、目の前の男の困惑が演技ではない事は理解できる。
つまりまず子供を助け出す自分達の作戦はうまく軌道に乗ったという事だ。
……後は。
(後はうまく行った事が確定的に分かるのを待つだけっすね)
それさえ分ればある程度やれる事も増えるだろう。
だがそれが一つの関門だ。
(いやでも早い所何かしらのサイン来れないと、もう持たないっすよ!)
別に全ての魔術を覚えている訳ではないから、シズクには拘束魔術は使えない。
今やっているのは、水流を操り疑似的に拘束魔術と同じ効果を出しているだけに過ぎない。
正直に言えば、うまく行ってほっとする位には道理も何も無い無茶苦茶な事をやっている。
下手に派手な攻撃をするよりも何十倍も繊細な水のコントロールで、ようやく成立させている。
故にその拘束は長くは持たない。
(ああクソ! ほんと簿記の勉強やる時間を魔術の勉強にでも当てれば良かった!)
と、そんな後悔をしている時だった。
「……ッ」
コントロールが乱れた。
(やばッ!)
それにより固定していた男の足が解放される。
「お、動く。動く動く! っしゃあ、だったらとりあえずお前からだぁッ!」
そう言って男はこちらとの距離を詰めてくる。
(ミカと子供はどうなったんすか!? もう助けた!? いや、確かめようがねえっすよ!)
足元に水は張り、最低限の攻撃の準備は整っているが、攻撃して良い状況なのかは依然不明。
故に取れる選択は防御。
正面に結界を展開。
ただしその出力は与力。
そもそも今のシズクは、影の攻撃対策にこの空間全域に結界を張り、ミカに強化魔術を付与させ、そして何もない空間に疑似的に質量の伴った水を張った状態だ。
全体に張った結界はともかく後二つは最高位の難度で、思考のリソースを大幅に食う上に消耗も激しい。
故にその状況から張れる結界など大したものでは無い。
更にそこに水を纏わせて強度を上げるが……強度はあまり保証できない。
(と、とにかくまずはこの一発を防ぐ……ッ!)
そう考えるシズクだが……そもそも結界に男の攻撃が届く事は無かった。
突如、衝撃と共にミカと自分が張っていた結界が破壊された。
(え、ちょ、何が……!?)
突然の出来事に混乱するシズクの視界は、結界の破砕音と共に大きく開けた。
当然だ。
影を押しとどめていた結界が壊されたのだから。
影は結界ではなく地面に広がり、日の光が差し込む。
そして。
「シズク!」
ミカの声が聞こえた。
視界の先で、子供を抱えて。
(よし!)
その姿と声を聞き状況を察したシズクは、半ば反射的に水属性の移動用魔術を使い、滑るように勢いよく後方に移動し男との距離を取る。
取りながら安堵した。
(うまく……うまく行ってる!)
ミカが相当無茶な事をしたのは分かっていて、それはとても心配な事で。
そのミカが無事子供を救出してそこにいる事に深い安堵を覚える。
そして。
「言いたい事山程あるけど、とりあえずシバく!」
そう言いながら棒を構えて飛び掛かるシエルの姿が、更にシズクを安堵させた。
(シエルさんも……生きてるっすよ!)
死んでいてもおかしくなかった。
それだけの攻撃を無防備の状態でシエルは喰らっていた。
だけどそれでも、こちらの不安を跳ね返すようにシエルは血塗れながらもそこに居る。
(…………いやなんも安心できねえっすよ!?)
普通に重症だ。
非の打ちどころがない程の重傷だ。
寧ろなんで平気で動けているのかが分からない。
恐らく分泌されているアドレナリンが痛みを消し飛ばしているんじゃないかとは思うが、それにしても色々とツッコみたい。
だけどその異様な状態のシエルが……まだ気を休められる状況ではない事を嫌でも分からせてくれる。
(……だからこそ、冷静に)
疑似的に作り出した水を消滅させ、ある程度自由が戻ってくる。
そしてそこから今取るべき最善手を導き出した。
それは遠距離から水魔術であの男を攻撃する事ではない。
それはセオリー通りに援護の形でやって行けばいい。
本命はそこではない。
「シエルさん!」
遠距離から、シエルに強化魔術を付与した。
ミカに掛けた物と同じ、他者へ掛けられる強化魔術としては最高位の代物。
それを最初の不意打ちをモロに喰らっても大怪我で済んでいる程度には出力が高いシエルの強化魔術の上から重ね掛けする形で。
次の瞬間、シエルが一気に加速した。
その速度は自分達が出せる最高速には届かない程度の物かもしれない。
だけどそれでも、そういう高速戦闘の中でも立っていられる。
最低限戦いに参加できるだけの速度はそこにある。
叩き出したのはそういう速度だ。
そしてシエルには不意打ちに対し瞬時に強化魔術を発動させ、そして距離の詰め方一つをとっても、明らかに素人ではないと分かるだけの技量が備わっているのだ。
きっとそれだけの経験を積んできた。
それらの条件を加味すれば……これが最善手だと言わざるを得ない。
影の攻撃を異様な反射神経で回避し、その崩れた体制で棒を払いあげて先端を器用に男の顎にぶつけて宙にまで浮かせる今のシエルは、目の前の敵にぶつけるにはあまりにもオーバースペックなのだから。
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