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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。
ex 誘拐犯達、追い詰められる
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「……やっべぇ。やべえやべえ! あの二人はやべえって!」
王都地下に魔術によって作成された異空間。
その最深部の一室にて、影を操る魔術を得意とする男、ハロルドは慌てふためいていた。
突如自分の担当ブロックに現れた二人の侵入者。
その二人の迎撃に当たる際に使用した六人は、彼の動かせる中で最も強いとされる駒を集めた精鋭だった。
ハロルドの扱う影魔術は、意識を奪った相手の影を踏む事でその人間の支配権を得るという物。
そして駒の基本出力は、駒の力に依存する。
あの六人。そしてその少し前に地上で倒された一体は、彼が保有している駒の中のトップ7だった。
その駒をぶつけて敗北した。
……それだけならまだいい。
(奥の手をあそこまであっさり潰されたんじゃ、いくら俺でもどうにもできねえぞ!)
問題は負け方だ。
ハロルドは今外部からの力の供給……右手に付けた、予め設定された魔術を発動できる謎技術が詰まった指輪の効力で、強化魔術……脳の演算力を引き上げる効力の術式を発動させ、従来であれば一体までの遠隔操作を同時に七体まで増やすに至っている。
そしてこの空間全域に張り巡らされた魔術の効力により、出力の増強……術式の効果範囲の拡張もされている。
そんなとある天才研究者の後方支援で得た力と設備を駆使して、あの場で動かした戦力というのはかなりの物だった訳だが、本来彼の真骨頂はそこにない。
ハロルドは本来、自分自身で前に出て戦うタイプの人間だった。
つまりあの場の自分が操作する6人+行動の指示だけをしているだけの大勢の雑魚と比較しても、彼単体の方が強い。
現在付けている、脳の演算能力を上げる指輪から、駒に持たせていた広範囲に自分の影を張り巡らせる術の入った指輪に付け替えた先に、彼の戦士としての真骨頂がある。
故に組織の幹部にまで成り上がった。
……だが、それでもあの奥の手をあそこまであっさり潰された時点で、向こうの戦力は自身の真骨頂を大きく上回っている事は理解できて。
『ぐちゃぐちゃにしてやる』
ぐちゃぐちゃにされる。
その光景が明確に脳内で再生される。
「……ッ」
こうしちゃいられなかった。
何もしなければ、脳内で再生したような光景が起きる。
そして彼は彼で一応、組織的な目的があって此処に立っている。
まだ引けない。
逃げられない。
そしてぐちゃぐちゃにもなりたくない。
だとすれば、迎撃の手段を構築しなければならない。
「くそ、しゃーねえ! 恥を忍んでくかぁ!」
そう言ってハロルドは目をつむり、神経を集中させる。
この空間に張り巡らされた魔術は、こちら側の人間の魔術出力を増強させる効力があるだけじゃない。
その恩恵を得られる者と、テレパシーによる通信を行う事も可能。
それだけ無茶苦茶な魔術が張り巡らされている。
そして通信先は……今回の作戦を担当しているもう一人の幹部。
……繋がった。
「おいリック! 聞こえてっか!?」
「聞こえてる! それでなんだ手短に話せ! こっちは今死ぬ程忙しいんだ!」
なんだか慌てた様子のリックという名の幹部の男に手短に用件を言う。
「こっちのまともに使える駒が全滅しちまった! そっちから兵隊回せ!」
この空間は現在、ハロルドとリック。二人の幹部が警備に当たっている。
内、ハロルド側は彼の魔術で使役する操り人形が。
リック側は組織の抱える特殊部隊が警備に当たっている訳だ。
その特殊部隊とリックに、僅かに残った雑魚の駒……そして自分自身。
此処に残った全戦力を、化物染みた強さの侵入者二人にぶつける。
もうそれしかない。
だが、リックは言う。
「はぁ!? 嘘だろ。こっちもお前に援軍頼もうとしてたってのに!」
「はぁ!? ちょっと待てそっち今どうなってんだ!?」
そしてリックは答える。
「化物染みた女二人がカチコミに来てんだよ! くそ! こんなのあの人の予知に無かっただろうが!」
「……ッ!」
化物染みた女二人に特殊部隊が追い詰められている。
普段ならそんな事は質の悪い冗談にしか聞こえないのだが……今は自身も化物染みた二人組に手駒を壊滅させられている。
故にその言葉は現実的な物としてハロルドにのし掛かってくる。
そして脳裏を再び過る、ぐちゃぐちゃにされるビジョン。
「……ははは、まーじか」
なんかもう、乾いた笑いしか出てこなかった。
◇
一方、その頃。
「これで八割方片付いたって感じか。怪我ねえかシルヴィ?」
「わ、私の方は大丈夫です。ステラさんは……大丈夫そうですね」
「おう。流石にこんな雑魚相手に怪我なんかしてられねえよ」
二人の化物染みた強さの少女が、特殊部隊を蹂躙していた。
王都地下に魔術によって作成された異空間。
その最深部の一室にて、影を操る魔術を得意とする男、ハロルドは慌てふためいていた。
突如自分の担当ブロックに現れた二人の侵入者。
その二人の迎撃に当たる際に使用した六人は、彼の動かせる中で最も強いとされる駒を集めた精鋭だった。
ハロルドの扱う影魔術は、意識を奪った相手の影を踏む事でその人間の支配権を得るという物。
そして駒の基本出力は、駒の力に依存する。
あの六人。そしてその少し前に地上で倒された一体は、彼が保有している駒の中のトップ7だった。
その駒をぶつけて敗北した。
……それだけならまだいい。
(奥の手をあそこまであっさり潰されたんじゃ、いくら俺でもどうにもできねえぞ!)
問題は負け方だ。
ハロルドは今外部からの力の供給……右手に付けた、予め設定された魔術を発動できる謎技術が詰まった指輪の効力で、強化魔術……脳の演算力を引き上げる効力の術式を発動させ、従来であれば一体までの遠隔操作を同時に七体まで増やすに至っている。
そしてこの空間全域に張り巡らされた魔術の効力により、出力の増強……術式の効果範囲の拡張もされている。
そんなとある天才研究者の後方支援で得た力と設備を駆使して、あの場で動かした戦力というのはかなりの物だった訳だが、本来彼の真骨頂はそこにない。
ハロルドは本来、自分自身で前に出て戦うタイプの人間だった。
つまりあの場の自分が操作する6人+行動の指示だけをしているだけの大勢の雑魚と比較しても、彼単体の方が強い。
現在付けている、脳の演算能力を上げる指輪から、駒に持たせていた広範囲に自分の影を張り巡らせる術の入った指輪に付け替えた先に、彼の戦士としての真骨頂がある。
故に組織の幹部にまで成り上がった。
……だが、それでもあの奥の手をあそこまであっさり潰された時点で、向こうの戦力は自身の真骨頂を大きく上回っている事は理解できて。
『ぐちゃぐちゃにしてやる』
ぐちゃぐちゃにされる。
その光景が明確に脳内で再生される。
「……ッ」
こうしちゃいられなかった。
何もしなければ、脳内で再生したような光景が起きる。
そして彼は彼で一応、組織的な目的があって此処に立っている。
まだ引けない。
逃げられない。
そしてぐちゃぐちゃにもなりたくない。
だとすれば、迎撃の手段を構築しなければならない。
「くそ、しゃーねえ! 恥を忍んでくかぁ!」
そう言ってハロルドは目をつむり、神経を集中させる。
この空間に張り巡らされた魔術は、こちら側の人間の魔術出力を増強させる効力があるだけじゃない。
その恩恵を得られる者と、テレパシーによる通信を行う事も可能。
それだけ無茶苦茶な魔術が張り巡らされている。
そして通信先は……今回の作戦を担当しているもう一人の幹部。
……繋がった。
「おいリック! 聞こえてっか!?」
「聞こえてる! それでなんだ手短に話せ! こっちは今死ぬ程忙しいんだ!」
なんだか慌てた様子のリックという名の幹部の男に手短に用件を言う。
「こっちのまともに使える駒が全滅しちまった! そっちから兵隊回せ!」
この空間は現在、ハロルドとリック。二人の幹部が警備に当たっている。
内、ハロルド側は彼の魔術で使役する操り人形が。
リック側は組織の抱える特殊部隊が警備に当たっている訳だ。
その特殊部隊とリックに、僅かに残った雑魚の駒……そして自分自身。
此処に残った全戦力を、化物染みた強さの侵入者二人にぶつける。
もうそれしかない。
だが、リックは言う。
「はぁ!? 嘘だろ。こっちもお前に援軍頼もうとしてたってのに!」
「はぁ!? ちょっと待てそっち今どうなってんだ!?」
そしてリックは答える。
「化物染みた女二人がカチコミに来てんだよ! くそ! こんなのあの人の予知に無かっただろうが!」
「……ッ!」
化物染みた女二人に特殊部隊が追い詰められている。
普段ならそんな事は質の悪い冗談にしか聞こえないのだが……今は自身も化物染みた二人組に手駒を壊滅させられている。
故にその言葉は現実的な物としてハロルドにのし掛かってくる。
そして脳裏を再び過る、ぐちゃぐちゃにされるビジョン。
「……ははは、まーじか」
なんかもう、乾いた笑いしか出てこなかった。
◇
一方、その頃。
「これで八割方片付いたって感じか。怪我ねえかシルヴィ?」
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「おう。流石にこんな雑魚相手に怪我なんかしてられねえよ」
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