最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

文字の大きさ
143 / 280
二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 聖女くん、VS特殊部隊隊長

しおりを挟む
(……動きが変わったな)

 敵も残り五人となった所で、後方から魔術による支援攻撃を行うというスタンスを崩してきた。
 今までこの場の指揮を取っていた男が、指輪を光らせて前へ。
 後の四人は後ろへと回る。

 それを見て、無暗に前へと出るのを止めた。

(……何かあるな)

 此処までの戦況を踏まえて、冷静に陣形を組んできた。
 ヤケになって突っ込んでくるのではなく、明確な意思を持ってだ。
 即ち、向こうはまだ最低限勝ちの目がある戦い方を有している事になる。

(……少なくともいきなり突っ込むのは無しだな)

 そして同じことをシルヴィも考えていたのかもしれない。

 前へ出た男に向けて、電撃を矢のように打ち込む。
 超高速の雷撃の矢……それを。

「……ッ!」

 男はギリギリのタイミングで躱した。

(……なるほど、コイツだけ明らかにレベルが違うな)

 今の攻撃は、多分今までなぎ倒してきた連中では躱せなかった。
 それを躱せる時点で、頭一つ抜けている。
 ……だが。

(……でもなんでそんな奴が大した事もねえ遠距離攻撃に甘んじてた)

 最初からその動きが前衛でできれば、ここまで早く向うの部隊は半壊しなかった。
 基本下の人間を前に出して自分は安全地帯に居るタイプかとも考えるが、それなら今自分が一人で前衛として立っているの意味が分からない。

 だとすれば。

(此処まで何かの準備してた感じか)

 結界術一つとってもそうだ。
 瞬時に放てるものと、時間を掛けて作り出す物では打って変る程硬度が違う。
 つまりこれまで簡易的な魔術で迎撃しながら、並行して術式を組み上げてきた。

 もしくはその指輪が……この特殊な魔術が張り巡らされた空間が、何かを積み上げてきた。

 なんにしても……気は抜けない。
 自分達は無敵じゃない。
 先日の黒装束との戦いで、それは思い知らされているから。

 最大限の警戒は、いかなる相手にも最初から最初まで崩さない。

 そして男は電撃を躱した流れでそのまま一気に距離を詰めてくる。
 少なくともこの場で自分達を除けば最も早いスピードで。

 そして接近してきた男の拳を躱す。
 ……凄まじいキレ。
 だけど躱せる。
 自分が対応できないレベルにまでは到達していない。

 故に躱して、流れるようにカウンターを打ち込める。

 ……だが。
 放った蹴りは空を切る。

(……マジか)

 躱された。
 ギリギリだが、それでも確かに躱された。

(どんな反射神経してんだよコイツ)

 反応があまりにも早かった。
 まるでこちらの初動の一瞬で攻撃の軌道を瞬時に割り出したかのように。
 だけど攻撃モーションを見て先読みするにしても、あまりにも早すぎる。
 そしてそこから何度も放ってきた攻撃の技量と、それに合わせたカウンターに対する防御時の反応速度があまりにも剥離している。
 そもそも……こちらの攻撃を見ていない。
 となれば。

(ああ……なるほど、そういう魔術か)

 おそらくこれまで掛かった時間の中で、そういう魔術を発動させた。

(こっちの一挙一動で動きを割り出してやがる。それも視界に捉える必要は無いと)

 おそらくどこかに動きを捉える目の役割をしている何かがある。
 そして捉え割り出した動きに合わせて本人の意思とは別の所でフルオートで回避行動に入る。

 そしてこちらの攻撃を全て躱して見せるだけの精度の魔術だ。
 拳での攻撃にフェイントを混ぜるがそれには一切反応しない。

 ……厄介。
 本当に厄介だとは思う。

 だけど……それでも向うがこちらに届いていない事は、伝わってきた。

「くそ……ッ」

 男の表情に焦りが見える。
 現状、互いに有効だが無い五分にも見える状況であるにも関わらずだ。

(……急いでるな)

 おそらく急がなければならない理由がある。
 そしてこの状況で想定できるのは……今の術を維持できる制限時間といった所か。
 そしてきっと理想を言えば、最初の数発の攻撃でこちらを落としたかった筈だ。
 攻撃を躱しながら冷静に場を分析して、気付く。

 後方支援の立場で居る筈の、残りの四人の内、三人がほぼ無防備で立っているという事。
 内一人も、その三人を守るように立っているという事。

 つまり、男の焦りは制限時間の類いではない。
 後ろに立つ三人の指輪持ちの相手が、目の前で必死に拳を振るっている男の魔術の要なのだ。
 術式の理論や具体的な効力の解明まではいかなくても、そう推測する事はできた。

 そしてこちらを最初の数発で落とせなかった時点で……そのまま次に狙うはずだった駒がフリーになる。

 自分と男の攻防にどう加勢すべきかと、後方からの援護に警戒しながら一定の距離を保っていたシルヴィが駒として浮く。

 だとすれば……戦局は再びステラとシルヴィに傾く。

「シルヴィ、こっちは良い。向うの四人を潰せ」

「あ、わかりました!」

 そしてシルヴィが動き出す。

「くそ……ッ!」

 ステラと焦る男の隣を横切りながら、再び電撃を打ち込む。
 その電撃は、三人の前に張られた結界を粉々に破壊して貫き、結界を張った男を感電させ地に伏せさせた。

 後は……棒状にした結界で蹂躙だ。

 そしてその次の瞬間に放った攻撃に対する男の反応は、これまでと比較的遅かった。
 こちらの攻撃をしっかりと見た上で、なんとか拳に腕を合わせてガードする。
 少なくとも今の男には、辛うじてガードできるだけの出力がある。

 それでもガードの上からでも……自分達の拳は有効打になる。
 それは確信できた。

「っらあ!」

「グァ……ッ!?」

 慢心しているつもりは無い。
 だけどそれだけの力量差が、自分達の間にはあるのだから。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...