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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 聖女ちゃん、覚醒?

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(くそ……お前も眠っとけよ……ッ!)

 立ち上がった男に対して、朦朧とする意識の中ステラは心中でそんな言葉を吐く。
 吐きながら、必死に思考を回す。

(とにかく術使ってる奴を早急に……いや、ちょっと待て)

 自分一人なら、取るべき選択肢は間違いなくそれだ。
 まずこの危機を招いている敵を排除してから、もう一人を沈める。
 それがどう考えても最善手……だが。

(くそ、やっぱシルヴィの方行きやがった!)

 起き上がった男は、無防備なシルヴィの方へと動き出す。
 現状意識があるこちらよりも、確実に殺せる方を狙うというのは当然と言えば当然の選択。

 術を使っている敵を倒してからカバーに向かっては間に合わないかもしれない。
 だがそっちの対処を怠れば、一秒先でまだ自分の意識が此処にあるかも分からない。

(ああクソ!)

 だけどそれでも、シルヴィを放置なんてできる訳が無くて。
 故にシルヴィのカバー以外の選択肢は放り捨てた。

(眠気は……気合で何とかする! 歯ァ食いしばれ!)

 そしてシルヴィのカバーへと動いた次の瞬間だった。

 シルヴィがむくりと体を起こしたのは。

(よ、よし! シルヴィが目ぇ覚まし……いや、ちょっと待て)

 常時眠気が湧き出るこの状況で、外的要因無しで目を覚ます事ができるのか。

 そして……ステラ自身も意識が朦朧としているので見間違いかもしれないが……普通に目を瞑っている。
 これはつまり。

(お、起きてねえ! 寝ぼけてる!)

 ただ寝ぼけて体を起こした。
 それだけ。
 なんの解決にもなっていない。

「まずはコイツから!」

「……ッ!」

 動きが鈍ったステラではカバーが間に合うかギリギリのタイミング。
 そのタイミングで……座った状態の寝ぼけシルヴィが、突然ブレイクダンスでも踊るかの如く動き出し、そのまま接近していた男を蹴り飛ばした。

「……ぇ?」

 男を蹴り飛ばしたシルヴィの近くで立ち止まりながら、思わずそんな間の抜けた声が出る。

(な、何が起き……)

 朦朧とした意識の中で回せるだけの思考を回して辿り着いたのは……アンナの家に泊まりに行った時の、照明に足を絡ませてコウモリの様にぶら下がる、エキセントリックなシルヴィの寝相。

(え、いやいやいや……えぇ……)

 困惑する事しかできないステラを置いてけぼりがして、雷の眠り姫が動き出す。

 地を蹴り向かう先は……この場に眠りの魔術を張り巡らせていた男。

「こ、こいつなんで眠ってな……いや、寝てるのか!? 何これ!?」

 敵ながら同調する。

(ま、マジでなんだコレ!?)

 と、ついにエキセントリックな寝相をこの目で目の当たりにしたステラは……そのままその男がシルヴィに殴り飛ばされるのを見届ける。
 寝ぼけているとは思えない程の、綺麗な右ストレートだった。

(……まあ、結果オーライか)

 あの男を殴り飛ばした事により、魔術が解かれたのだろう。
 酷く圧し掛かっていた眠気が消えて無くなる。

 ……だとしたら、やる事は一つ。

「……さて、多分今の一撃でも倒しきれてねえだえろ」

 視線をシルヴィから、シルヴィがブレイクダンスで蹴り飛ばした男へと向ける。
 そこには困惑に困惑を重ねたような、とにかく理解不能と言った表情を浮かべる司令塔の男の姿があった。

「な、なんだアイツは……今、俺は何を見せられてたんだ……ッ」

「知らねえ」

「知らねえって……お前、ソイツの仲間だろ!」

「まあまだ知り合って日が浅いからな……そりゃ知らねえ事は山程あるって」

 ……まあ時間を重ねても、この光景に説明を付けられるかどうかは分からないけど。

(いや、マジでなんなんだシルヴィの寝相……)

 例えば、アンナが強い理由とかはこの前のシエルとの話で大体察する事ができた。
 自分が今日の様に殴り合いで戦っていけるのも、それ相応の理由を自分は提示できると思う。

 だけど……これに関しては本当に意味が分からない。
 シルヴィという友達の過去が全く持って分からない。

 ……まあ、その意味の分からない事に今回助けられた訳で。
 日常生活も本人に合う枕があれば解決するみたいで。

 だから今はその辺は一体どうでも良い。

(とにかく今は……意識を奪わない程度にコイツを――)

 とか言ってる内に再び接近してきたシルヴィが、狙ってか偶然か重心を落として男の攻撃を躱してそのまま……勢いの乗ったショルダータックルをぶちかます。

「ぐあああああああああああああああッ!?」

 ……結論。
 完全に相手の意識を奪うに至った。

(……ま、いいか)

 とにかく負けなかったのだから、最低限の事はやった訳で。
 情報は得られなかったが、元々何も分からない状況で先に進み続けていた訳で、そこから状況が悪くなった訳でもない。
 このままシルヴィと一緒に突き進んでいけば良い。

「お疲れシルヴィ」

 そう言ってシルヴィに声を掛けるが……此処で正体不明の嫌な予感がした。

「……シルヴィ?」

 ステラの呼びかけに返答せず……シルヴィはゆっくりとこちらに体を向ける。

 しっかりと目を瞑って眠ったまま。

「いや……いやいやいやいや! おい馬鹿起きろシルヴィ!」

「……マカロニグラタン」

「駄目だ完全に意味わかんねえ寝言言ってやがる!」

 言いながらステラは構えを取る。

「くそ! なんでこうなった!」

 全部シルヴィの寝相が悪いからである。
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