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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。
ex 聖女くん、VS聖女ちゃん(すやすやモード)
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そして次の瞬間飛び掛かってきたシルヴィの拳を、大きくサイドステップで距離を取るように躱す。
(完全に見境無しかよ……マジでアンナんち泊りに行った時、よく俺達全員無事だったな!)
そう考えると割と真剣に寒気がするが、それでも一拍置けば多少は冷静にはなる。
(……まああの時と今じゃ話が全然違うか)
そもそも事ある毎にこういう事になっていれば、どこかで絶対に本人が認知するような傷害事件が発生している筈で。
それが無かったとすれば、今まではそれはそれで無茶苦茶だとしても、酷すぎる寝相で済む程度の挙動しかしていなかったのだろう。
こういう危機的状況で眠るというイレギュラーは普通の生活を送っていれば起きることは無くて。
これはそれ故の特例的な自己防衛的寝相。
自分達が遭遇したエキセントリック寝相とは似て非なる。
(……なんか考えてて訳が分かんなくなるな。どちらにしても意味不明なレベルのエキセントリックさだし)
……まあとにかく、そういう風に割り切れば普段の寝相は強烈な個性で、此処での寝相はある種の戦いの才能だ。
その辺を受け入れるのに、そう時間は掛からない。
そんな事よりも考えるべき事がある。
(さて、マジでどうすっかな)
距離を取ると、再び距離を詰めてくる。
大体読み通りの動き。
もし普段のシルヴィなら自分相手に距離を詰めてくる事は無いだろう。
シルヴィはある程度近接もできるだけで、彼女の距離はそれではない。
つまり距離を詰めてくる時点で、そこに理性的な戦術は存在しない。
今のシルヴィは半ば反射的に使える強化魔術だけを使って、野性的に向かってくるだけ。
ただただシンプルな力の暴力。
それが分かってくれば多少は気が楽だ。
(回復魔術で治療できるとはいえ、シルヴィに怪我させるのはちょっと嫌だしな)
そんな事を冷静に攻撃を捌きながら考える。
考えられる。
当然だ。
同等程度の出力の相手との一対一なら、近接格闘のみでの戦いはシンプルに技量が高い者が勝つ。
そして近接はステラの距離だ。
第三者の介入でもなければ、まぐれで一発貰う事すら起こり得ない。
文字通り動きが止まって見える。
故にその程度の思考の余裕は生まれてくる。
そして浮かぶ案。
まず一つは首に手刀を打ち込む。
だがそれは一瞬で却下した。
気絶させる手段としてかなり有名ではあるが、あれはほぼフィクションの産物だ。
実際それで気を失うようなダメージを与えれば、かなりの場合無傷という訳にはいかない。
下手すれば後遺症が残るようなダメージを負わせる事になる。
だから攻撃を加えて目を覚まさせる、もしくは一時的にしっかりと意識を落とす事を考えれば、最低限の力でぶん殴るのが一番効果的で安全なのだ。
とはいえそれはしたくないから、それは最終手段。
(……まずはすげえシンプルな奴で行くか)
そもそも、こんなエキセントリックな状況だから色々と暴力的な事を考えてしまうだけで、本来寝ている人間を起こすのに暴力なんて必要ない。
とても安全でシンプルな事をするだけでいい。
そして次の瞬間放たれたシルヴィの拳を掌で掴むように受け止めた所で、ステラは叫んだ。
「いい加減起きろシルヴィ!」
ただ強く呼び掛ければ、大体それで目を覚ます。
そしてシルヴィが勢い良く目蓋を開いた。
「……はッ!」
(よし! 目ぇ覚ました!)
一安心するステラに、慌てた様子でシルヴィは言う。
「た、大変ですステラさん! 川にデミグラスソースが流出してグラタンが土から生えてきたんです!」
「お前の夢の世界観どうなってんの?」
「夢? あ、そっか夢か……良かったです。現実だったら世界が滅ぶ所でした」
(……グラタンとデミグラスソースで?)
まあ夢なんてまともな物を見る方が難しい気がするから、ツッコむだけ無駄だとは思うけど。
……そんな事より。
「とにかく目ぇ覚まして良かったよ」
「あはは……この人達の魔術ですかね? 突然眠くなっちゃって……ステラさんが起きて残りの人倒してくれてないと危なかったですね」
「あ、いや、倒したのお前……」
「いやいや何言ってるんですか。寝てるのに戦える訳無いじゃないですか……ところで何がどうなったらこんな事になってるんですかね?」
今更ながらシルヴィの拳をステラが受け止めているこの双方の構えについて小首をかしげ始める。
「一体どんな起こし方したんですか」
「いや、これお前が敵ぶっ飛ばした後俺に殴り掛かってきた感じで……」
「ステラさん、その冗談はちょっと悪質ですよ。このノリまだ続いてたんですか?」
(これでもまだ自覚しないのかよ、鈍感とかそういうレベルじゃなくねえか!?」
「……まあいいや」
(よくねえ! もうちょっとこの意味不明な構図を深く疑問に思え!)
と、そんなステラの心の叫びが全く届いていない様子のシルヴィは、ステラが力を緩めた事により自由を取り戻して、それから周囲を見渡す。
「というか起きてた最後の一人の意識も奪っちゃったんですか? さっき私に奪うなって言ったのって、話聞く為ですよね? 勢い余ってやりすぎちゃいました?」
(お前がな!)
……と、心中で疲れる程にツッコみながらも、とりあえず自分もシルヴィも怪我無く立っているから別に良いかと、この事を考えるのはもう止めた。
なんだか不毛な気がするし……それに、話を聞けなくなったなら、後は急いで突き進むのが自分達が最優先に取るべき行動だろうから。
「……さて、寝ちゃっててご迷惑をかけたわけですし、此処からは私もやれるだけ頑張ります」
「……そうだな。頼りにしてんぜ」
「任せてください。お陰様で……まあ少しは自身持てるようになったんで。その辺発揮していきますよ」
「そりゃ頼もしい……これからもその調子でいこうぜ」
「はい!」
そして初めて会った時と比べると、随分と自信を持ち始めたシルヴィと共にステラはその場を後にして進んでいく。
運良く正解の道を。
時期にもう一組の侵入者と合流できそうな、そういう道のりを。
(完全に見境無しかよ……マジでアンナんち泊りに行った時、よく俺達全員無事だったな!)
そう考えると割と真剣に寒気がするが、それでも一拍置けば多少は冷静にはなる。
(……まああの時と今じゃ話が全然違うか)
そもそも事ある毎にこういう事になっていれば、どこかで絶対に本人が認知するような傷害事件が発生している筈で。
それが無かったとすれば、今まではそれはそれで無茶苦茶だとしても、酷すぎる寝相で済む程度の挙動しかしていなかったのだろう。
こういう危機的状況で眠るというイレギュラーは普通の生活を送っていれば起きることは無くて。
これはそれ故の特例的な自己防衛的寝相。
自分達が遭遇したエキセントリック寝相とは似て非なる。
(……なんか考えてて訳が分かんなくなるな。どちらにしても意味不明なレベルのエキセントリックさだし)
……まあとにかく、そういう風に割り切れば普段の寝相は強烈な個性で、此処での寝相はある種の戦いの才能だ。
その辺を受け入れるのに、そう時間は掛からない。
そんな事よりも考えるべき事がある。
(さて、マジでどうすっかな)
距離を取ると、再び距離を詰めてくる。
大体読み通りの動き。
もし普段のシルヴィなら自分相手に距離を詰めてくる事は無いだろう。
シルヴィはある程度近接もできるだけで、彼女の距離はそれではない。
つまり距離を詰めてくる時点で、そこに理性的な戦術は存在しない。
今のシルヴィは半ば反射的に使える強化魔術だけを使って、野性的に向かってくるだけ。
ただただシンプルな力の暴力。
それが分かってくれば多少は気が楽だ。
(回復魔術で治療できるとはいえ、シルヴィに怪我させるのはちょっと嫌だしな)
そんな事を冷静に攻撃を捌きながら考える。
考えられる。
当然だ。
同等程度の出力の相手との一対一なら、近接格闘のみでの戦いはシンプルに技量が高い者が勝つ。
そして近接はステラの距離だ。
第三者の介入でもなければ、まぐれで一発貰う事すら起こり得ない。
文字通り動きが止まって見える。
故にその程度の思考の余裕は生まれてくる。
そして浮かぶ案。
まず一つは首に手刀を打ち込む。
だがそれは一瞬で却下した。
気絶させる手段としてかなり有名ではあるが、あれはほぼフィクションの産物だ。
実際それで気を失うようなダメージを与えれば、かなりの場合無傷という訳にはいかない。
下手すれば後遺症が残るようなダメージを負わせる事になる。
だから攻撃を加えて目を覚まさせる、もしくは一時的にしっかりと意識を落とす事を考えれば、最低限の力でぶん殴るのが一番効果的で安全なのだ。
とはいえそれはしたくないから、それは最終手段。
(……まずはすげえシンプルな奴で行くか)
そもそも、こんなエキセントリックな状況だから色々と暴力的な事を考えてしまうだけで、本来寝ている人間を起こすのに暴力なんて必要ない。
とても安全でシンプルな事をするだけでいい。
そして次の瞬間放たれたシルヴィの拳を掌で掴むように受け止めた所で、ステラは叫んだ。
「いい加減起きろシルヴィ!」
ただ強く呼び掛ければ、大体それで目を覚ます。
そしてシルヴィが勢い良く目蓋を開いた。
「……はッ!」
(よし! 目ぇ覚ました!)
一安心するステラに、慌てた様子でシルヴィは言う。
「た、大変ですステラさん! 川にデミグラスソースが流出してグラタンが土から生えてきたんです!」
「お前の夢の世界観どうなってんの?」
「夢? あ、そっか夢か……良かったです。現実だったら世界が滅ぶ所でした」
(……グラタンとデミグラスソースで?)
まあ夢なんてまともな物を見る方が難しい気がするから、ツッコむだけ無駄だとは思うけど。
……そんな事より。
「とにかく目ぇ覚まして良かったよ」
「あはは……この人達の魔術ですかね? 突然眠くなっちゃって……ステラさんが起きて残りの人倒してくれてないと危なかったですね」
「あ、いや、倒したのお前……」
「いやいや何言ってるんですか。寝てるのに戦える訳無いじゃないですか……ところで何がどうなったらこんな事になってるんですかね?」
今更ながらシルヴィの拳をステラが受け止めているこの双方の構えについて小首をかしげ始める。
「一体どんな起こし方したんですか」
「いや、これお前が敵ぶっ飛ばした後俺に殴り掛かってきた感じで……」
「ステラさん、その冗談はちょっと悪質ですよ。このノリまだ続いてたんですか?」
(これでもまだ自覚しないのかよ、鈍感とかそういうレベルじゃなくねえか!?」
「……まあいいや」
(よくねえ! もうちょっとこの意味不明な構図を深く疑問に思え!)
と、そんなステラの心の叫びが全く届いていない様子のシルヴィは、ステラが力を緩めた事により自由を取り戻して、それから周囲を見渡す。
「というか起きてた最後の一人の意識も奪っちゃったんですか? さっき私に奪うなって言ったのって、話聞く為ですよね? 勢い余ってやりすぎちゃいました?」
(お前がな!)
……と、心中で疲れる程にツッコみながらも、とりあえず自分もシルヴィも怪我無く立っているから別に良いかと、この事を考えるのはもう止めた。
なんだか不毛な気がするし……それに、話を聞けなくなったなら、後は急いで突き進むのが自分達が最優先に取るべき行動だろうから。
「……さて、寝ちゃっててご迷惑をかけたわけですし、此処からは私もやれるだけ頑張ります」
「……そうだな。頼りにしてんぜ」
「任せてください。お陰様で……まあ少しは自身持てるようになったんで。その辺発揮していきますよ」
「そりゃ頼もしい……これからもその調子でいこうぜ」
「はい!」
そして初めて会った時と比べると、随分と自信を持ち始めたシルヴィと共にステラはその場を後にして進んでいく。
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時期にもう一組の侵入者と合流できそうな、そういう道のりを。
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