最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex ギルドの部長、大人としての真っ当な判断

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 もっともそういう話を切り出すにもタイミングが重要だ。
 そしてそういう話は言ってしまえば内輪の私情の話で。
 流石に大事な話の腰は折れない。

「とにかく早急に手を打つ必要がある。動ける奴を動かせるだけ動かして事に当たる。それでいいなバカボス」

「ああ。俺も端からそのつもりだ。なんか無茶苦茶強い一般人が二人乗り込んでいるらしいが、素性も何もわからねえソイツらに全部任せておく訳にもいかねえし」

 だけど発言できる所は発言しておく。

「あ、その内の一人、たぶんアンナさんっす」

「アンナって……まさかアイツか!?」

 驚愕するクライドに対しやや冷静にマルコが言う。

「アンナっていうと、前に話してた同時期に追放された聖女の内の一人か。何かやべえ事が起きているかもしれねえっつう」

(なんかマフィアにボク達の情報共有されてんすけど!?)

「ちなみにウチの隣に居るシズクちゃんもまさにその一人です」

「……世の中せっめえ……」

 と、僅かに脱線した話を軌道修正するようにクライドが言う。

「まあドラゴンの大群を素手でシバくような奴がいるなら、テロ組織の一つや二つ位簡単に壊滅させられそうな気はするな」

 それを聞いて結構堂々とドヤるシエル。

「おい何でお前がドヤってんだよ。この馬鹿はお前の事一言も褒めてねえぞ」

「親友が評価されてるのは自分の事の様に嬉しいからね」

「……お前の交友関係どうなってんだよ。国中に友達居るんじゃねえか?」

「まあマコっちゃんと友達になれてる時点で、大体色んな人と友達だよ」

「誰が友達だ! あとマコっちゃん言うな!」

「え、えーっと」

 と、此処で再び凄い勢いで脱線していた話を元に戻すように、あまり会話に参加してこなかったというより参加できていなかったミカが軽く手を上げて言う。

「じゃあ突入した二人に任せる……感じですかね?」

「いや」

 クライドはその言葉を否定する。

「誰が突入していようとやる事は変わらねえ。強い奴が、やれる奴が全部抱えて進まなきゃいけないなんて事はねえんだから。バックアップの一つや二つすら放棄するつもりはねえよ」

 それに、とクライドは言う。

「そういう連中が援軍を要請してるんだ。最悪自分達だけじゃ力不足な可能性みたいのを感じてるんだろうよ」

「アンナさんで……力不足?」

「多分アンナってのは女の方だよな。俺に援軍を頼んだのは男の方だ」

 そしてクライドは言う。

「それが誰だかは分からないが……まあ元聖女のアイツと一緒に行動できるって事は中々の手練れだろ。そういう奴の直感みたいな奴には従うだけの価値がある……というかそれだけ力があって自分の力を過信しないってのはすげえよな。何処の誰かはしらねえが優秀だよ」

 それを聞いて少しドヤるミカ。

「あの、なんでそこの嬢ちゃんがドヤってんだ? ……というか聞きそびれたけどその子誰? 此処まで唯一誰だか分からない状態で話進んでるんだけど」

「……ッ!?」

 ミカに凄い緊張感が走ったのが分かった。
 当然だ。中々堂々と明かし辛い素性な上、その辺を暴露しかねない爆弾がすぐ近くに居るのだから。

「ウチの友達」

 だけどシエルはそう言っただけ。
 ……流石に時と場合は選んだ。

「お前がそれ言うと何に対しても違和感なくなるのすげえよな」

「おいバカボス、それだと俺とコイツも友達みてえになるだろうが!」

「いや、それ事実だろ」

「事実じゃねえ!」

 そう言ったマルコは深いため息を吐いた後言う。

「とにかく、動く必要があるなら、さっさと動ける連中を集めねえとな」

「いや、それはもうアリアがやってる」

(……さ、更に一人職場にマフィアいたんすけど……!?)

 確かに思い返す限り、クライドと先輩のアリアの距離感は妙に近かった。
 一応そういう仲かな、とは思ってそっとしておいたけど……全然違う意味で近かった。

「よし、んな訳で頭数揃う前に作戦会議だ。えーっと、そこのお前……名前なんだっけ?」

「俺か? ケニーだ」

「よし、ケニー。お前の頭ん中は貴重な情報の塊だ。正直俺達みたいなのとは一秒たりとも関わりたくは無いだろうが……頼む。少しの間だけで良い。力を貸してくれ」

「……こんな所に連れてこられるのはイレギュラーだったが、端から俺は今回の一件に全力を尽くすつもりだよ」

「よし、じゃあ移動するぞ」

 そう言ってマルコが立ち上がり、それに続くようにシズク達四人も立ち上がる。
 ……立ち上がるが。

「いや、来るのはケニーだけで良い。お前ら三人は此処で待機」

「え、待機って……どういう事っすか?」

「特にシズクちゃんはとんでもない有能だよ?」

 少し意味が分からなくてシズクとシエルがそう尋ねると、クライドは当然の事のように言う。

「シズクが強いだろうって事は知ってる。お前だって意味が分からねえけどウチの下っ端連中より強いし、多分この流れだとそっちの嬢ちゃんもだろ。だけど強い弱いとかは関係ねえんだ。ただこれ以上こんな物騒な事に一般人の女子供を関わらせる訳にはいかねえだろ……本当は今突入している二人だって踏み込んじゃいけねえんだよ」

「……」

「特に一人、現在進行形で治療中みたいだしな。尚更関わらせられるか」

 そう言ってクライドは動き出す。

「まあついでに聞きたい事も山のようにあるだろうけど、その辺もまた今度な。此処までバレちまった以上、時と場所を選んでくれれば話せる事はちゃんと話す」

「そんな訳で後の事は俺達に任せろ」

 クライドに続くようにマルコもそう言うが、そんなマルコにクライドは言う。

「ああ、マコっちゃんも待機」

「はぁ!? 何考えてんだ馬鹿」

「流石に幹部連中全員向かわせる訳には行かねえだろうが」

 それに、とクライドは深刻な表情で言う。

「その代わりこの三人を見といてくれ。特にシエルの馬鹿はほっといたら自発的にかもしくは意味が分からねえ偶然の積み重ねで首突っ込んでくる。それはマコっちゃんも分かってるだろ。そうならねえように俺らが戻ってくるまで頼むわ。正直お前じゃないと怖くて任せられねえ」

 ……これが本題と言わんばかりの声音で。

「……わ、分かった」

 吠えていたマルコも大人しく従った。

(ど、どんだけヤバい奴認定されてるんすかシエルさん!)

 と、マルコが部屋に残る形になった所でクライドは言う。

「じゃあそんな訳で……後の事は俺達に任せろ」

 そう言ってクライド達は部屋から出ていく。
 残されたのはシズク達三人と、監視役として置かれたマルコだけ。

「……ウチら一緒に突入する人を探しに来たのに、なんか思ってたのと違う事になったね」

「いやまあ部長ならこういう事言うのは分かるんすけど……駄目だ心配だ。やっぱりボク達も行った方が……」

「ルカ君も応援を呼ばないと駄目だって考えたんなら、一人でも頭数が居た方が……」

 と、三人でそんなやり取りをするが。

「……気持ちは分かるが、ちょっと大人しくしてろ。頼むから」

 ……あまりにも動き辛い。
 分厚い壁が目の前に現れた。
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