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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。
ex 黒装束の男、諦めない
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元よりなんとか意識を保っていた状態だった。
故にその一撃は意識を奪うには十分すぎる物で、影の棘に貫かれたと認識してすぐに、それ以上まともな思考をする事もなくルカの意識はブラックアウトする。
どう考えても、致命傷だった筈だ。
だからこそ。
(……俺は、何故生きてる)
その後意識が戻ってきた事に困惑した。
全身に激痛が纏わりつき、黒い影が消滅した部屋の中は血の海になっているが、それでも意識は此処へ戻ってきた。
「……キミは凄いよ」
そう声を掛ける者がいる。
屈みこみ、こちらに何かしらの魔術を掛ける男がいる。
(……なんのつもりだ)
声は出ないが、心中でそう呟く。
声を掛け、何かしらの魔術を行使するのは、他ならぬ自分に致命傷を負わせた男だった。
回復魔術だろうか。
超高出力の回復魔術で、ギリギリのところで延命させられている。
否、回復へと向かっている。
そしてルカの理解を置いてきぼりにするように、男は続ける。
「戦闘センスも勿論だけど、何より良い術式を組み上げている。良く学んだのだろうし、よく研究も重ねたのだろう。キミが後退中に張った罠も瞬時に張れる物と考えればとても立派な代物だった。キミ位の若い子がそこまでの技量を手にしているというのは本当に凄い事だと思うんだ。並大抵の事じゃない」
そんな風に何故かルカを褒めた後、一拍明けてから重い口調で男は言う。
「それでも残念ながら魔術というのは掛け算みたいなものでね。いくら技量があっても動力源の魔力が貧弱だった場合、満足にその技量を生かす事はできなくなるんだ。魔力を生成する臓器の成長なんてのは知能と比較すれば非常に緩やかな成長曲線を辿るからね。実質的に持って生まれた力が全てだ」
「……」
「例え大切なものを守ったり助ける為の答えを導き出す術をどうにか後天的に手に入れても、そこに向かって歩むための才能までは正攻法では手に入れられない。残酷だよ魔術というものは」
「……」
「だから僕達の敗因は世界に選ばれなかった事だ。僕もキミも、持って生まれた力が無かったから敗北者なんだ」
(僕達? コイツ、何を言って……)
男が何を言いたいのかが分からない。
僕達の敗因。
とてもではないが、圧倒的な力でこちらを捻じ伏せた男の言う言葉だとは思えない。
(コイツは一体何を見ている……一体何が目的で……ッ)
だけどその問いを投げかける事は一切できない。
意識は戻った。
だけど戻ったのは意識だけで、指先の一つですら自由に動かすことができない。
呼吸すらも自分の意志では叶わず、例えるならば金縛りにでもなっているようだった。
そして男は少し間を開けてから静かな声音でルカに言う。
「……だから勝者になるには正攻法から外れなければならない。キミ達がそうしていたようにね」
(……ッ)
尚更理解が追い付かなくなった。
キミ達がそうしていたように。
それは話の文脈を考えれば、自分とアンナの話では無いだろう。
ではキミ達とは誰の事か。
思い当たる節がある。
(コイツ一体どうして……ッ!?)
正攻法ではどうにもならないからこそ、やっていた事がある。
共に逃げ出した王女と共にやっていた事が。
もし、その事を言っているのだとすれば。
一体どうしてこの男がこちらの情報を把握している。
(一体なんなんだコイツは……ッ!)
そう心中で叫ぶルカの肉体からは徐々に痛みが引いていく。
それを感じながら、尋常では無いスピードで自身の傷が癒えていっている事も感じられた。
もう、この時点である程度まともに戦えそうな状態だ
本当に。
本当に自分達は、一体どういう人間と戦っているのか。
何も。何も掴めない。
そして何も分からないまま、ルカの体が勝手に動き出す。
(……ッ!?)
自分の意志と反して、ゆっくりと立ち上がり始めた。
そんな現象を見て、脳裏に浮かんだのはこれまで自分達が倒してきた雑魚達だ。
(操られているのか……この男に……ッ)
自分が意識を失っている間に、そういう事が可能な状態にされた。
つまりきっとそういう事だ。
そして唯一その事だけを理解できたルカに男は異常な速度の。腹部の穴が塞がる程の回復魔術を使いながら言う。
「さて、これからキミには侵入者の迎撃に当たってもらう。といってもキミと一緒に居た女じゃない。もう一組……いや、二組だ。この場に侵入してきている者達がいる。それをキミが止めるんだ。力の供給は……この空間と僕の魔術で補おう」
そう言って男がルカの肩を触れると、これまで感じたことのないような強い力が湧いてくる。
今までの、ミカから力の供給を得ていた時以上の力だ。
そしてその力の矛先は。
(侵入者……まさかミカ様か……!? いや、待て二組……いや、そんな事よりこのままだと……)
自分はミカと戦う事になるかもしれない。
まともに魔術を使えない今の状態のミカとだ。
「操っている人間の魔術で更に操るのは僕でもあまり精度に自信が無い。やり方はキミに任せるよ。キミの実力ならその手にある力を120%うまく使える筈だ。それだけキミは積み重ねられるだけの事を積み重ねてきている」
(いや、待てふざけるなそんな事……ッ)
「すまないね」
心中で焦りに焦るルカに男は静かに……頭を下げて言う。
「キミも含めこの場に乗り込んできた人間は、誰一人としてこんな目に合わなければならない人達じゃなかった。だけど……すまない。世界の為に死んでくれ」
それを聞いた次の瞬間にはルカの体が勝手に動き走り出す。
(クソ……ッ!)
当然のように、体は言うことを効かない。
効かないまま走り、空間転移も駆使して最速で動き出す。
……おそらく自分やアンナとは違う侵入者の元へ。
そしてやがて到達する。
到達し、躍り出る。
(……コイツらか。できればこんな形で再開はしたくなかったな)
視界の先に見覚えのある女性が二人居る。
「……シルヴィ、気を付けろ。多分コイツはさっきまでの連中とは格が違うぞ」
「そうみたいですね。油断せずに行きましょう」
アンナ・ベルナールと共に、あの山へと現れミカと戦った二人組。
……ミカを人殺しにしないでいてくれた聖女達。
本当に恩がある二人だ。
ミカの次に戦いたくない相手と会敵してしまったと言っても良い。
だけど同時に、会敵したのが彼女達で良かったとも思う。
(……頼む。此処で俺を止めてくれ)
どうして彼女達が此処にいるのかは分からないが、とにかく二組中一組がこの二人だったのだとすれば。
最悪な事にもう一組はきっとミカだ。
だけどこの二人が自分を止めてくれればその最悪な事態だけは回避できる。
この二人にはそれを可能にするだけの力がある。
そして……そしてだ。
この先には自分が約束を全く守れなかった所為で窮地に陥っているであろう協力者がいる。
アンナ・ベルナールがおそらく一人であの化け物と戦っているのだろう。
結局自分は何もできなかったけれど、それでもこの二人が居れば何かが変わるかもしれない。
だから、後はこの二人に託す事にした。
(……いや、馬鹿か俺は。一体何を考えている)
自分が命に代えても守りたいと思っている人が危険な状態にあって。
その人を人殺しにしないでくれた恩人もこの一件に巻き込まれていて。
互いに命を預けて戦っていた協力者が絶体絶命の状態だ。
そんな状況で他力本願で全て押し付ける。
そんな事が良い訳が無い。
(……あの男は俺の事までまとめて敗北者だと言ったな)
実際、国を滅茶苦茶にされた時点で自分の人生は大きな敗北を経験している。
だけどそれでも……この戦いにおいては。
向こうの掌の上かもしれないが、それでもまだ意識は此処にある。
ルカ・スパーノは此処にいる。
故にまだ負けていない。
(ふざけるな……負けてたまるか。思考を止めるな)
大切な人も。
恩人も。
協力者も。
全員無事生還させる。
一人で守れなくても良い。誰かに頼っても良い。
それでも僅かでも状況を好転させる手助けができるように。
ルカ・スパーノは思考の海へと沈んでいく。
故にその一撃は意識を奪うには十分すぎる物で、影の棘に貫かれたと認識してすぐに、それ以上まともな思考をする事もなくルカの意識はブラックアウトする。
どう考えても、致命傷だった筈だ。
だからこそ。
(……俺は、何故生きてる)
その後意識が戻ってきた事に困惑した。
全身に激痛が纏わりつき、黒い影が消滅した部屋の中は血の海になっているが、それでも意識は此処へ戻ってきた。
「……キミは凄いよ」
そう声を掛ける者がいる。
屈みこみ、こちらに何かしらの魔術を掛ける男がいる。
(……なんのつもりだ)
声は出ないが、心中でそう呟く。
声を掛け、何かしらの魔術を行使するのは、他ならぬ自分に致命傷を負わせた男だった。
回復魔術だろうか。
超高出力の回復魔術で、ギリギリのところで延命させられている。
否、回復へと向かっている。
そしてルカの理解を置いてきぼりにするように、男は続ける。
「戦闘センスも勿論だけど、何より良い術式を組み上げている。良く学んだのだろうし、よく研究も重ねたのだろう。キミが後退中に張った罠も瞬時に張れる物と考えればとても立派な代物だった。キミ位の若い子がそこまでの技量を手にしているというのは本当に凄い事だと思うんだ。並大抵の事じゃない」
そんな風に何故かルカを褒めた後、一拍明けてから重い口調で男は言う。
「それでも残念ながら魔術というのは掛け算みたいなものでね。いくら技量があっても動力源の魔力が貧弱だった場合、満足にその技量を生かす事はできなくなるんだ。魔力を生成する臓器の成長なんてのは知能と比較すれば非常に緩やかな成長曲線を辿るからね。実質的に持って生まれた力が全てだ」
「……」
「例え大切なものを守ったり助ける為の答えを導き出す術をどうにか後天的に手に入れても、そこに向かって歩むための才能までは正攻法では手に入れられない。残酷だよ魔術というものは」
「……」
「だから僕達の敗因は世界に選ばれなかった事だ。僕もキミも、持って生まれた力が無かったから敗北者なんだ」
(僕達? コイツ、何を言って……)
男が何を言いたいのかが分からない。
僕達の敗因。
とてもではないが、圧倒的な力でこちらを捻じ伏せた男の言う言葉だとは思えない。
(コイツは一体何を見ている……一体何が目的で……ッ)
だけどその問いを投げかける事は一切できない。
意識は戻った。
だけど戻ったのは意識だけで、指先の一つですら自由に動かすことができない。
呼吸すらも自分の意志では叶わず、例えるならば金縛りにでもなっているようだった。
そして男は少し間を開けてから静かな声音でルカに言う。
「……だから勝者になるには正攻法から外れなければならない。キミ達がそうしていたようにね」
(……ッ)
尚更理解が追い付かなくなった。
キミ達がそうしていたように。
それは話の文脈を考えれば、自分とアンナの話では無いだろう。
ではキミ達とは誰の事か。
思い当たる節がある。
(コイツ一体どうして……ッ!?)
正攻法ではどうにもならないからこそ、やっていた事がある。
共に逃げ出した王女と共にやっていた事が。
もし、その事を言っているのだとすれば。
一体どうしてこの男がこちらの情報を把握している。
(一体なんなんだコイツは……ッ!)
そう心中で叫ぶルカの肉体からは徐々に痛みが引いていく。
それを感じながら、尋常では無いスピードで自身の傷が癒えていっている事も感じられた。
もう、この時点である程度まともに戦えそうな状態だ
本当に。
本当に自分達は、一体どういう人間と戦っているのか。
何も。何も掴めない。
そして何も分からないまま、ルカの体が勝手に動き出す。
(……ッ!?)
自分の意志と反して、ゆっくりと立ち上がり始めた。
そんな現象を見て、脳裏に浮かんだのはこれまで自分達が倒してきた雑魚達だ。
(操られているのか……この男に……ッ)
自分が意識を失っている間に、そういう事が可能な状態にされた。
つまりきっとそういう事だ。
そして唯一その事だけを理解できたルカに男は異常な速度の。腹部の穴が塞がる程の回復魔術を使いながら言う。
「さて、これからキミには侵入者の迎撃に当たってもらう。といってもキミと一緒に居た女じゃない。もう一組……いや、二組だ。この場に侵入してきている者達がいる。それをキミが止めるんだ。力の供給は……この空間と僕の魔術で補おう」
そう言って男がルカの肩を触れると、これまで感じたことのないような強い力が湧いてくる。
今までの、ミカから力の供給を得ていた時以上の力だ。
そしてその力の矛先は。
(侵入者……まさかミカ様か……!? いや、待て二組……いや、そんな事よりこのままだと……)
自分はミカと戦う事になるかもしれない。
まともに魔術を使えない今の状態のミカとだ。
「操っている人間の魔術で更に操るのは僕でもあまり精度に自信が無い。やり方はキミに任せるよ。キミの実力ならその手にある力を120%うまく使える筈だ。それだけキミは積み重ねられるだけの事を積み重ねてきている」
(いや、待てふざけるなそんな事……ッ)
「すまないね」
心中で焦りに焦るルカに男は静かに……頭を下げて言う。
「キミも含めこの場に乗り込んできた人間は、誰一人としてこんな目に合わなければならない人達じゃなかった。だけど……すまない。世界の為に死んでくれ」
それを聞いた次の瞬間にはルカの体が勝手に動き走り出す。
(クソ……ッ!)
当然のように、体は言うことを効かない。
効かないまま走り、空間転移も駆使して最速で動き出す。
……おそらく自分やアンナとは違う侵入者の元へ。
そしてやがて到達する。
到達し、躍り出る。
(……コイツらか。できればこんな形で再開はしたくなかったな)
視界の先に見覚えのある女性が二人居る。
「……シルヴィ、気を付けろ。多分コイツはさっきまでの連中とは格が違うぞ」
「そうみたいですね。油断せずに行きましょう」
アンナ・ベルナールと共に、あの山へと現れミカと戦った二人組。
……ミカを人殺しにしないでいてくれた聖女達。
本当に恩がある二人だ。
ミカの次に戦いたくない相手と会敵してしまったと言っても良い。
だけど同時に、会敵したのが彼女達で良かったとも思う。
(……頼む。此処で俺を止めてくれ)
どうして彼女達が此処にいるのかは分からないが、とにかく二組中一組がこの二人だったのだとすれば。
最悪な事にもう一組はきっとミカだ。
だけどこの二人が自分を止めてくれればその最悪な事態だけは回避できる。
この二人にはそれを可能にするだけの力がある。
そして……そしてだ。
この先には自分が約束を全く守れなかった所為で窮地に陥っているであろう協力者がいる。
アンナ・ベルナールがおそらく一人であの化け物と戦っているのだろう。
結局自分は何もできなかったけれど、それでもこの二人が居れば何かが変わるかもしれない。
だから、後はこの二人に託す事にした。
(……いや、馬鹿か俺は。一体何を考えている)
自分が命に代えても守りたいと思っている人が危険な状態にあって。
その人を人殺しにしないでくれた恩人もこの一件に巻き込まれていて。
互いに命を預けて戦っていた協力者が絶体絶命の状態だ。
そんな状況で他力本願で全て押し付ける。
そんな事が良い訳が無い。
(……あの男は俺の事までまとめて敗北者だと言ったな)
実際、国を滅茶苦茶にされた時点で自分の人生は大きな敗北を経験している。
だけどそれでも……この戦いにおいては。
向こうの掌の上かもしれないが、それでもまだ意識は此処にある。
ルカ・スパーノは此処にいる。
故にまだ負けていない。
(ふざけるな……負けてたまるか。思考を止めるな)
大切な人も。
恩人も。
協力者も。
全員無事生還させる。
一人で守れなくても良い。誰かに頼っても良い。
それでも僅かでも状況を好転させる手助けができるように。
ルカ・スパーノは思考の海へと沈んでいく。
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