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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 受付聖女達、突入

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 ほぼ同時刻、某事務所にて。

「で、お前の怪我の具合はどんな感じなんだ」

「お、マコっちゃんそんなに私の怪我の容態が気になる? 気になるんだ? やっさしー」

「別にどうでもいいから言わなくても良い」

「ごめんごめん。流石に血はもう止まってるし、貧血っぽい感じもないよ。まあ痛い所はそれなりにあるけどさ、普通に日常生活送れる位には回復してると思うよ。流石はシズクちゃんって所だね」

「……そうか。ソイツはすげえな」

 シエルとマルコにそう言われ若干ドヤるシズク。
 そんなシズクにシエルは言った。

「だからウチは一旦良いからさ、そろそろシズクちゃんも休んだら? 多分喫茶店で電話借りてた時以外、移動中もずっと回復魔術使い続けているよね?」

「いや、まあしんどいっすけど……全然大丈夫っすよ。伊達に聖女なんてやってないっす」

 そう言って大丈夫と伝えるためにもグーサインを向ける。
 そんなシズクにシエルは言う。

「大丈夫ならさ、ミカちゃんの治療もしてあげてよ。ほら、一発蹴り貰ってるんでしょ?」

「あ、私は軽い打撲位なんで大丈夫です」

「えーでも打撲してるじゃん。治してもらいなよ」

「現在進行形でそれ以上の怪我を負ってる人がいるのに治してもらうのは悪いというか……うん、私のは本当に軽傷ですから。シズクの強化魔術が凄かったおかげで」

 言われて改めてドヤるシズク。
 こんな状況だけど褒められるのは普通に嬉しい。

(これから突入する部長達に着いていけたら、強化魔術とか回復魔術で支援できたんすけどね……まあ考えても仕方ないんすけど)

 今回自分達の役割は此処までだ。
 子供を一人助け出して、此処に情報を持ち込んだ。
 ほんの少しだけだが、やれる事はやった。

 シエルも一応大人しくなった訳で、多分これ以上状況は動かない。
 だから突入している友人達や、これから突入する上司達が無事戻ってくるように祈りながら、回復魔術を駆使しつつ、折角なので出してもらったお茶菓子を頂く。
 今はそうやって、時間が流れるのを待つしかない。

 と、そんな事を考えていた時だ。


「……ぁ」


 とても力無い声を零したミカが、コップを落としたのは。

「お、おいどうした急に!」

 その様子を見てマルコが立ち上がり、シズクも思わず回復魔術を打ち切りそちらに視線を向け、シエルも立ち上がる。
 そしてミカの手が震えている事に気づいた。
 尋常では無い震えで……表情も酷く血の気が引いている。

 マフィアの事務所に黙って連れて来られた時とは比較にならない程の様子。

「ちょ、どうしたんすか!?」

「え、何? 大丈夫!?」

そして各々が声を掛ける中で、ミカが小さく呟いた。

「……ごめん、行かなきゃ」

 その次の瞬間だった。

「ぐ……ぁ……ッ!」

 魔術の使用で苦悶の表情を浮かべながら、シズク達から離れるようにして動き出したミカを中心に、大きな魔方陣が展開されたのは。

 一瞬何が起きているのかが分からなかった。
 だけど一瞬だ。

 今ミカが何をしようとしているのか。
 そして何故何かをしようとしているのか。

 これまで知ってきたミカと……そしてルカという人間の情報が、その答えを導き出させた。

 だから手を伸ばした。
 そして手を掴んだ。
 何が行われようとしているのかが分かったから。
 それに対し何をしなければならないかが、直感的に理解できたから。
 一人でその先に進ませない為に。

 そしてシエルも色々と察する事ができたのかもしれない。
 凄まじい反応速度でシズクの腕を掴むと、そのままこの場で唯一状況を理解できていなかったマルコに手を伸ばす。

「マルコ!」

「……ッ!」

 戸惑いながらもマルコも瞬時に手を伸ばす。
 そしてマルコの手がシエルの手に触れた瞬間。

 応接室の中から四人の姿が消えて無くなった。





 そして僅かに間を空けて。

「おい何かあった……か?」

 騒ぎを聞きつけて戻ってきたクライドは絶句する。
 そしてその後ろからアリアが顔を出した。

「蛻の殻……ですね」

「くそ! ちょっと目を放した隙になんでこうなるんだ! っていうかマコっちゃんまでいねえじゃねえか!」

「転移魔術ですかね。ケニーさん曰くあのミカって子が転移魔術を使えるみたいなので」

「じゃあ入り口塞いでも外に出られるって訳だ……でも待てよ? マコっちゃん含め向うのアジトの場所なんて知らねえよな? いや……少なくとも一人はシズクと仲良い訳だから、魔力を追ったりとかできるかもしれねえのか」

「元聖女って事なら、魔術師としてはとんでもない実力でしょうからね」

「ならマジで俺達より先に行っちまってる可能性が高い訳か……まあほんと、
マコっちゃん残しといて良かったわ。魔術師としての実力はシズクがぶっちぎりで高くても、こういう時荒事に慣れてて尚且つまともな思考ができる奴が一人居てくれるだけで安心感が段違いだ」

「まあそれでも安心できませんけどね」

「……だからこそやる事は変わらねえ。ただより一層急いだ方が良さそうになっただけだ」

 言いながら踵を返して、心中で考える。

(くそ、こんな事になるなら、最初から突入メンバーに……いや、それは絶対駄目な選択だ。結局どっちに転んでも碌でもない事になる訳だ)

 そして心中で信頼できる部下に託す。

(頼むぞマコっちゃん。俺らが行くまでうまくやってくれ)

 此処とは違う所での部下や、その友人達が無事であるように。
 祈りながら前へと進む。





「なんだ! 何が起きた! どこだここ!?」

「ミカちゃんは転移魔術が使えるからね。何が起きたのかってのはそういう事だと思うよマコっちゃん。他の事は……その転移魔術を使った本人に聞くのが一番確実かな」

 そんな会話が交わされるのはどこだか分からない場所。
 何らかの魔術が張り巡らされた異質な空間。

 そしてこの場に居る人間を代表して、シズクがミカに問いかける。
 大体の事情は察する事は出来たけど、確認するように。

「……一体何があったんすか。教えて欲しいっす」

 できるだけ優しく。
 酷く血の気も引いて混乱している様子のミカを落ち着かせるように。
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