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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

43 聖女さん、第2ラウンド

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 逃げた先の事を考えた時、シルヴィ達に助けを求める事は考えなかった。
 この場所で、目の前の男の圧倒的な力に捻じ伏せられたから、この男の前にシルヴィ達を連れてきたら殺されるかもしれないと思ったから。
 絶対にこんな事に巻き込んじゃいけないって思ったから。

 そんな風に思うわけだからさ。
 仮に既にシルヴィ達がこんな化け物の掌の上で戦っているかもしれないのならば。
 巻き込まれているのであれば……絶対に逃げる訳にはいかない。

「……」

 折れた右手を庇う様に、構えを取った。
 風属性と結界をスタンバイ。臨戦態勢を取る。

「分からないな……ヤケになったか?」

 男は言う。

「逃げない理由がどこにある。キミは正義の味方でも気取っているのか?」

「そんなんじゃない」

 本当に、そういうのじゃない。

 ここまでの私はきっと、一般的な程度の善意で動いていた。
 それ程大きな感情じゃなかったと思う。
 そりゃ誘拐された子供を助けないとって思ったし、その子供を使って洒落にならないような事をやろうっていうなら、命を張ってでも止めなきゃ駄目だって思った。

 それでも本当に自分がヤバくなったら、逃げる事で頭が一杯になったから。
 自己保身で一杯になったから。
 こんなのが正義の味方だったら、夢も希望も無い話だと思う。
 私なんてその程度だ。

 だけど。
 一緒に共闘してきた奴が実質人質みたいな状態にあって。
 友達まで現在進行形で危険な目に合っているかもしれないわけで。
 そうなったらもう他人の問題に首を突っ込んだとか、そういう話じゃなくなってくるんだ。
 スタート地点はどうであれ、もうこれは。

「ただ友達とか親友とか……そういう人達が巻き込まれてたら、もう私の問題なんだ」

 もう他人事じゃなく、自分の事なんだ。

 だから引けない。

「友達?」

「こんな所に乗り込んできて戦力壊滅させてるなんて、私の友達に決まってる」

 だから逃げられないし……そして、活路だって見えてくる。
 助けを求めるつもりは無かったなんて考えた後だと、馬鹿みたいなダブルスタンダードに思えるけれど……こうなった以上、此処に来ている友達と一緒に勝つ事を考える。
 
 死なない為に。
 死なせない為に。

 ……ルカの事は三人の内の誰かならきっとなんとかしてくれる。
 うまくやってくれる筈だ。

 そして私がコイツと戦っている間は、コイツを向こうに行かせるなんて事にはならないと思う。
 そして向こうをうまく切り抜けてくれれば。
 うまく共闘でもできれば、なんとかなるかもしれない。

 私の攻撃は届かなくても。
 ステラの攻撃なら、向こうのガードを貫けるかもしれない。
 シルヴィの魔術も私の風属性の魔術とは全然毛色が違うから通用するかもしれない。
 来たのがシズクなら、強化魔術を使ってもらえばこの怪我でもなんとかゴリ押せるかもしれない。

 そしてもし何かの偶然で皆来ているかもしれないって思ったら……負けるビジョンが浮かんでこない程の安心感が湧いてくる。

 ……とにかく何はどうあれ、向こうの邪魔は私がさせない。
 それが今の私の役割だ。

 勝利条件が全部他力本願になっちゃって、ちょっと情けなくも思うけどさ。

「さて、第2ラウンド始めよっか」

 やれるだけ、頑張ってみようと思うよ。
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