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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 受付聖女達、合流

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 時刻は僅かに遡る。

 あれからミカが察知できるルカの位置情報を頼りに、シズク達四人は可能な限り最速で先へと進んでいた。
 進路を遮るような傷害は殆ど無い。
 唯一障害らしい障害といえば、此処に突入した誰かが倒したであろう大人数の男が倒れている空間で、意識を保ち立っている男が四人程いた訳だが。

「……分かっちゃいたが滅茶苦茶な出力の強化魔術だな。オイツは誰にも負ける気がしねえ」

 特に動揺する事も無く急接近したマルコが、シエルやミカ達が臨戦態勢を取る前に全て片付けてしまった。

「凄いキレのある動きっすね……流石荒事専門って感じっすか」

「マコっちゃんならシズクちゃんの強化魔術無しでも、あの位の連中ならシバき倒せるよ」

「……多分素の状態のルカ君の次ぐらいに凄い」

「えーっと、それは褒めてんすかね?」

「おいお前ら何話込んでんだ。こっちは片付いた。急ぐんだろうが!」

「は、はい!」

 マルコに促されて、ミカが走り出す。
 ルカの位置情報を把握できるのはミカだけだから三人を先導するように動く。
 そしてそのミカのすぐ近くをマルコが続く。
 何かあった時に対処する為だ。

 今のミカが全力を振るえない事はマルコにも伝えてある。
 だとすれば、この中で唯一シズクの強化魔術以外の魔術をまともに使用できないミカが最も危険な駒で、その盾として現状直接戦闘で最も強い駒を置く。
 マルコ発案でひとまずこういう形になった。

 シズクとシエルは僅かに後方を走る。
 これもまた、支援特化のシズクをシエルがフォローする為にだ。

 そんな簡易的な陣形を組みながら、四人は先へと進む。
 とはいえ元々大して距離は離れていなかったのだ。

 すぐに到達した。

「おい、なんかすげえスピードでこっちに来るぞ!」

 再び開けた広い空間に到達して少し進んだ所で、何かを察してマルコが叫ぶ。

「……ルカ君だ」

「はぁ!?」

「ルカ君がこっちに来る」

 ミカがそう言った次の瞬間、シズクの視界にも人影が映った。
 だがそこに映ったのは、あの喫茶店で観察していたルカではない。

「え、な、なんでこんな所にいるんですか!?」

「あー予想通りシルヴィさんも巻き込まれてたっすね! 二人共、怪我無いっすか!?」

 ステラを抱えたシルヴィだった。

(……とりあえず二人は無事みたいでよかったっす)

 その事に安堵するも、すぐに違和感に気付く。
 直前、ミカはルカが来ると言った。
 ……だけど現れたのは、まるで何かから逃げるように飛び出してきたシルヴィとステラだ。

 とても、嫌な予感がした。
 そしてそれは的中する。

「ルカ君!」

 遅れて血塗れのルカも飛び出してきた。
 刀を構え、明らかに得物としてシルヴィとステラを追うように。

「シズクさん! パス!」

 直後、シルヴィが抱えていたステラをシズクに向かってぶん投げる。

「ちょ! お前そういう事やるなら先に一言ォ!」

 突然の事に叫ぶ猛スピードのステラをシズクがキャッチした瞬間。

 ルカが振るった刀とシルヴィの結界で作成した棒状の鈍器がぶつかり合う。
 そして不安定な体制でその攻撃を受け止めたシルヴィは、そのまま弾き飛ばされ、ワンバウンドの末に壁に叩きつけられた。

「シルヴィさん!?」

 少し前にシエルが蹴り飛ばされた時とは比べ物にならない程の勢いに思わずそんな声が上がる。

「おいおいおい! お前、アレがルカ君って言ったか? どう見てもお仲間って感じじゃなさそうなんだが!?」

 そう言うマルコに対しシエルが言う。

「これ、多分ケニーとかニックと同じパターンだよ! 操られてるんじゃないかな!? というか今のシルヴィちゃんヤバイって!」

「ヤバイのは俺らも一緒だろ! 来るぞ!」

 マルコがそう言った直後だった。
 急接近してきていたルカの姿が消える。

(空間転移……ッ!)

 そして刀を構えて現れたのは。

「ミカ!」

「ッ!?」

 よりにもよってミカの真後ろ。

(洒落にならないっすよ!)

 今おそらくこの場にいる中で最も脆い所を。
 そして最もルカに攻撃を振るわれてはいけないミカに向けて刀が振るわれる。

 瞬時にマルコが反応したが間に合わない。
 そういう絶望的な攻撃……の筈だった。

「……ッ!?」

 ギリギリのタイミングで突然刀の軌道が変わった。
 外しようがない一撃を空ぶった。
 そして露骨に大きな隙が生まれる。

 例え大きく出力が違っていても、それを埋められるだけの大きな隙が。

「よく外した!」

 その一言と共にマルコの掌底がルカに叩き込まれる。
 直後インパクトのポイントに魔法陣が出現。
 ルカが勢いよく弾き飛ばされる。

「ルカ君!」

「おい、おまえどっちの味方だ……いや、そりゃあっちか。まあ心配すんな……今の攻撃程度じゃ殺せねえよ」

 そう言った直後、ルカが起き上がる。
 ただその動きはやや鈍い様に思えた。

「なんかしたんすか?」

「一応拘束魔術掛けといた! これでしばらくは動きが鈍くなる筈だ!」

「いや、でも向うはそういうの、速攻で解除してきますよ。私のも解除されましたし」

 そう言ったのは、ふらつきながらも立ち上がったシルヴィだ。

「だ、大丈夫っすかシルヴィさん!」

「大丈夫じゃないですよ。今多分人生で一番痛い思いしてますって」

 と、そう言ってからシズクに言う。

「とりあえずすみません、私達にも強化魔術お願いできますか?」

「あとそろそろ降ろしてくれシズク」

「は、はいっす!」

 受け止めたままだったステラを下ろしてから、二人にも強化魔術を掛けた。
 二人増えた位なんの問題も無い。
 そして一気に出力が増えた事に対し、一々リアクションを取っている暇も無いのだろう。
 冷静にシルヴィはステラに問う。

「ステラさん、視界の方は?」

「ほぼ回復した……で、次はもう喰らわねえ」

 そして、とステラは言う。

「勝ち筋も見えた」

「ですね。極力早く終わらせるんで、時間稼いでもらって良いですか?」

「今なら余裕だよ」

 そんな意味深なやり取りをした二人。
 そしてステラは超高速でルカに接近し、やや動きが鈍っているルカに何発も拳を浴びせる。

 圧倒的だ。
 ほぼ一方的に蹂躙している。
 それこそ抜け出す暇のない程に。

「え、えげつないね……ウチらと生きてる次元が違うじゃん」

「……まあドラゴンの大群シバける奴にこのレベルの強化魔術を上から付与すりゃこうなるわな」

 元々トップクラスの出力を持っているステラが、外部からの力の供給を受けているのだ。
 おそらく今の状態のステラを近距離の殴り合いで倒せる者など、世界中どこを探してもいないのではないかと思う。

 とにかく一方的だ。
 ルカの方が心配になる程に。

「ちょ、ちょっと待って! そんなに殴ったらルカ君が死んじゃう!」

「そ、そうっすよ! えーっと、その人操られてるだけなんで抑えるっすよ!」

 ルカという男の事をこの二人に説明するのはとても難しいが、とにかくそういう事なのでやり過ぎても困る。
 おそらく殺す気は無いだろうけども、やり過ぎる可能性も全くない訳ではなさそうだから。
 だけどフラフラと歩み寄ってきたシルヴィが冷静に言う。

「いや、大丈夫ですよ。なんかあの人凄い勢いで傷とか治るみたいなんで」

「え、それどういう……」

「言葉のままですね。回復魔術の常識とか、そういうのを超えたレベルで回復してます……で、そういう反応って事は、あの力の事をあなたは知らない訳ですね」

 まるで初対面ではないようにシルヴィはそう言う。

(いや、実際に初対面じゃないんすけど……もしかしてこれ──)

 こちらが気を使って配慮しても無駄だったのかもしれない。

「お久しぶりって言う程じゃないですね。とりあえず数日ぶりってところでしょうか」

「……ッ!」

 シルヴィは。
 そしておそらくステラも。

 ミカとルカが先日の黒装束の二人組であると気付いている。
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