最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

文字の大きさ
170 / 280
二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 聖女ちゃんと黒装束の聖女、一時休戦

しおりを挟む
(こ、これ前も大変な事になってるっすけど、隣も相当じゃないっすか!?)

 ミカにとってそれはそう簡単に露呈してはいけない事の筈だ。
 喫茶店でそれが露呈した時に一触即発という風にならなかったように、この場でもそういう事にはならないとは思うけれど……それでも自分が殺そうとした相手が隣にいて、しかも正体がバレているというのは、相当エグい状況に思えた。

(こ、この場合どうフォローすれば……)

 正直シルヴィ達とは仲間だし友達だけれど、ミカとも共闘したりと交友を深めている形になるので、何をどうするのが正解なのかがまるで見えてこない。

 だけど……そもそもフォローなど必要なかったのかもしれない。

「……そうですね……うん、数日ぶり」

 ミカはシルヴィの問いに、静かにそう答える。
 自らの正体がステラとシルヴィを襲った黒装束だと告げるように。
 そして一瞬驚きはしただろうけど……それでも喫茶店の時のように自らの正体が露呈して過呼吸になるような事はもう無い。

「あっさり認めるんですね」

「……認めないと、何も変わらないから。あの時は本当にすみませんでした」

 そして一拍空けてからミカは言う。

「あれだけの事をしておいて、こんな簡単な謝罪しかできてないのに言うべき事では無いのは百も承知です……だけど、すみません。お願いがあります」

「良いですよ今は。多分目的は同じですし……それに、何かあっても次も捻じ伏せてみせますし」

 そう言って肩を震わせたミカにシルヴィは手を触れる。

「なるほど、普通に動けている時点で大体察しましたけど、八割方解かれてますね……それなら解き方をある程度把握してると思いますし、実際自分の体に受けて残り二割の解き方を導き出したって考えれば……なんか私の通用しなかったのも、そこの人の奴が現在進行形で若干効いてるっぽいのにも説明が付きますね」

 そんな独り言の様な事を呟きながら、何かを始めている。

(そ、そうだ。ミカはシルヴィさんの拘束魔術を喰らっている。それの解除っすか!?)

 それができればミカが全力を振るえる。
 そして自分が関わっていなかったあの山での戦いで、ステラやシルヴィは把握しているのだろう。
 拘束を解けば、この状況を打開できるという事に。

 そして数秒後、シルヴィは言う。

「さあ、これで魔術を使っても大丈夫だと思いますよ」

「……ありがとうございます」

 言いながらミカは手を何度か握って開く。
 その感覚を確かめるように。

 そしてそんなミカにシルヴィは言う。

「私達があなたにやってほしい事が何か、分かりますか?」

「分かってます。私がルカ君の意識を奪います」

 そう言って、心から感謝するような声音でシルヴィに言う。

「あなたも……今ルカ君を止めているあの人も。ルカ君を殺さないでくれていて、ありがとうございます」

 それだけ言って、ミカは床を蹴り一気に加速する。
 聖女としての強力な強化魔術に、シズクの強化魔術を乗せて、一瞬でステラとルカの元へ。

「変わります!」

「待ってた!」

 最後に拳を一撃叩き込んで隙を作った瞬間、ステラがバックステップ。
 そしてそこに入れ替わるように現れたミカが、跳び付き抱き着くようにタックルをかまし、勢いそのままにルカに抱き着いたまま勢いよく床に転がる。

「なんだアイツも滅茶苦茶強いじゃねえか」

 おそらくこの場で唯一ミカのポテンシャルを正確に把握していなかったマルコがそう言う中、ステラが何度かバックステップを繰り返しこちらに戻ってきて、そんなステラにシルヴィは言う。

「多分これで決まりましたね」

「ああ、流石に意識落とす事位は出来る筈だ……何せ少し触れただけで一気に体力持っていかれるからな、アイツのエナジードレインは」

 二人は勝利を確信しているようだった。
 そしてそんな期待に応えるように……ゆっくりとミカだけが立ち上がり言った。

「終わりました。これで目を覚ましたら元に戻っている筈です」

「そうっすか……良かった」

 それを聞いて。
 ゆっくりとルカを背負うミカを見て胸を撫で下ろす。
 なにはともあれうまくいったのなら良かったと、心の底からそう思う。
 ルカとのパスが切れた時点であの動揺っぷりだったから。もし不幸な事が起きたりすれば、もう目も当てられない。
 どんな言葉を掛けて良いかが分からなくなってしまうから。

「良かったぁ……飛び出してきた人の姿を見た時はどうなる事かと……良かったねぇミカちゃん……と、というかウチだけマジで何もしてねえ!」

「いやそもそもなんでシエルがこんな所に居るんだよ。あとシズクも……っていうかそこの人は誰?」

「というかシエルさん血塗れじゃないですか! 一体何がどうなったらこんな事に……ってそういえばなんか色々巻き込まれやすいって話だったような」

「まあ大体そんな感じで今に至るって感じで。シズクちゃんとミカちゃん……ああ、あの子ね。今回この三人で色々あった感じ」

「……アンナ結構苦労したんだろうなぁ」

 とステラがため息混じりにそう言った時、シズクとシエルはハっとした表情になる。

(そうだ……正直話したい事とか山程あるっすけど、マジでそんな余裕ねえっすよ!)

 ルカがこういう形で自分達の前へと立ち塞がった。
 ……では、一緒に乗り込んだ筈のアンナは今一体どうなっている?

 そしてマルコがシズクに言う。

「おい。さっさとあのルカって男に回復魔術を掛けてやれ。今のアイツにそこの嬢ちゃんが言うような再生能力があるのかは分からねえが、どちらにしても一分一秒でも早く意識を取り戻して貰わねえと困るだろ。でないとアイツと一緒に突入したアンナとかいう聖女の安否が分からねえ」

「そ、そうっすね!」

「お、おいちょっと待て。アンナがアイツと此処に来てるってどういう事だ!? だってアイツは例の──」

「ボクちょっとルカさんの応急処置してくるんで! シエルさん諸々の事情の説明お願いするっす!」

「わ、分かったよ!」

「りょ、了解! ああ、マコっちゃん耳塞いでて!」

「多分アイツらの正体隠したいんだろうが……流石に一連の流れで察してるぞ例の黒装束の二人組だろ」

「うわ、此処までうまく隠してたのに!」

 後ろでマフィアにミカ達の情報が露呈している事が判明するという、正直もう良いのか悪いのか良く分からない状況が展開されているが、それに関してはもう部長を含めたマフィアっぽくないマフィアの方々を信用するしかない。
 だから今は目の前の事に集中する。

 おそらく強敵と孤軍奮闘している筈のアンナの元へ、一分一秒でも早く到達する為に。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...