最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

文字の大きさ
171 / 280
二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 黒装束の男、目を覚ます

しおりを挟む
「とりあえず応急処置だけでもするんで、どこかその辺に寝かせて……うっわ、すっごい怪我っすね」

 改めてミカ達に近付いたシズクは、ルカの姿を目にしてそう呟いた。
 まあステラの攻撃は後方から見ているだけでもえげつなかったので納得は出来るが。

(とにかく、シルヴィさんが言ってた自然治癒みたいなのは現状掛かってないっぽいっすね)

 殴られた際の怪我がそのまま残っている。
 意識がある間は回復し続けたのかもしれないが、今はその恩恵を得られていないらしい。

 そしてシズクに促されるようにルカを寝かせたミカはシズクに言う。

「ありがとうシズク。でもいいよ、私がやるから。こっちより……えーっと、シルヴィさんでいいのかな。あっちを治療してあげて。さっき思いっきり壁に叩きつけられて怪我してるみたいだし」

 言いながらミカはルカに対して回復魔術を掛け始めるが、同じようにシズクも手を伸ばした。

「いや、今結構急ぎなんで。こっちを二人掛かりでやるっすよ」

「え? なんていえば良いのかな……できるの?」

 ミカが言おうとしている事は良く理解できる。
 怪我人に対して複数人で回復魔術を掛ければそれだけ早く治るよね、というのは理想論だ。
 普通のやり方では互いに干渉して弾かれて、まともに効果を発揮できない。
 既に強化魔術を使っている人間に強化魔術を使うのも同じで、うまくやらなければ本人が使っている強化魔術と干渉して弾かれる。
 故に超高難易度の技術となる。
 だがそれを容易に熟せるシズクならば、回復魔術でも同じ事ができる。

「できるっすよ。まともな殴り合いができなくても、こういう事なら」

 言いながら、ミカの魔術と干渉しないように術式を展開する。

「ほんとだ、うまくいってる。凄いよシズク」

「でもミカもこの人に力を供給みたいな事をしてるんすよね? だったらミカも同じことをできるんじゃないっすか?」

「いや、私のは全然違う感じのだから。こういうのは難しいかな」

 そう言って苦笑いを浮かべるミカ。
 そんなミカにシズクは問いかける。

「それにしても良かったんすか。誤魔化しもしないから思いっきり正体バレてるっすけど」

「……いや良くないんだけどね。でもルカ君を助ける為だから」

「……そっすか。まあなんか面倒な事になったらある程度フォローはするつもりなんで、そん時は遠慮なく頼ってほしいっすよ」

「この場合シズクはあの人達の味方じゃないと駄目なんじゃないの?」

「ボクはもうどっちもの味方をしたい感じっすから。まあ今後共仲良くしていこうって事で」

 流石にもうどっちの味方だとか、両極端な事は言えない。

「……ありがと」

「そんな訳で色々厄介事が終わって、お互い時間が合う時で良いっす。シエルさんも誘ってカラオケ行くっすよ」

「聞きたい事を色々聴く為に?」

「いや、普通に遊びにっす」

「あははそっか……うん、そうだね。楽しみにしてるね」

「じゃあ頑張ってこの一件、うまく終わらせないとっすね」

「……うん」

 そんなやり取りをしていた時だった。

「……ッ」

 ルカが呻き声と共に、ゆっくりと瞼を開いた。

「ルカ君! 大丈夫!? 私の事分かる?」

「ミカ……様? 一体今何がどうなって…………ああ、そうか。意識を失えたのか」

 脳を覚醒させるようにそんな事を呟きながら、ゆっくりと体を起こし始める。

「動ける!? 痛い所とか無い!?」

「全身が痛いですね。仕方ないとはいえ、とんでもない手数で殴り続けやがって……ってマズイ!」

 完全に覚醒したように、ルカが声を上げる。

「ミカ様! 俺が意識を失ってからどれ位時間が経ちましたか!?」

 とても必死な形相で。
 それに若干驚きながらもミカは答える。

「1、2分程度だよ……どうかした?」

「……すみません、結構切羽詰まってる事がありまして」

 そう言いながらルカはふら付きながらも立ち上がろうとする。

「あ、まだまともに動ける状態じゃ!」

「……ッ!」

 回復魔術を一時中断させたミカが、倒れかかったルカを支える。

「……すみません」

「いいよ。それで……そんなに無理して立ち上がって、一体どうしたの?」

 優しい声音で問いかけるミカの言葉にルカは答える。

「此処に俺と一緒に突入した奴が居ます。そして今化物染みた強さの敵を一人で任せてるような状態なんです……早く俺も行かないと」

 そういうルカにシズクは言う。

「そのもう一人は……アンナさんっすよね。アンナ・ベルナール」

「……ッ!? 誰かは知らんがどうしてそれを……ッ!?」

「この人はシズク。ほら……この前の三人の仲間だよ」

「……そうか。お前がベルナールの言っていた四人目か」

「ああ、あの喫茶店でボクの話も出てたんすね」

「少しだがな……って、なんで喫茶店の一件を知っている? というかなんでミカ様と一緒に行動を――」

「まあその辺りは後で説明するよ」

 そんな事よりも、とミカは言う。

「確認するよ、ルカ君。私達がやらないといけないのは二つだね……此処で起きている何かを止める事と、アンナさんを助け出す事。それでいい?」

「いや、私達ってミカ様は早く此処を出て下さい。あなたはこんな所に居ちゃいけない!」

「そういうのは話せる事全部話し終わってからにしてくれねえか、悪いけどさ」

 シズク達の会話に、こちらに歩み寄ってきたスタラが割って入る。
 どうやら向うは向うで、この短時間で情報の交換が終わったらしい。
 全員ルカの周りに集合していた。
 流石シエルとシズクは思う。
 良くも悪くもこういう事に慣れ過ぎている。

 そしてステラは言う。

「アンタがアンナとどういう関係かとか聞きたい事は山程あるけどさ、とにかく今それは良い。此処の事と、今のアンナの事。知ってることをできる限り簡潔に教えてくれ。全部丸く収める為によ」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...