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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

45 各国の聖女、五人揃う

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 目の前の男が頑丈なのは、私も片腕駄目にされてるからよく分かってる。
 だけどステラはそんな男を。
 こちらに向かって来ていた男を、そのまま殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた男はそのまま床をバウンドして弾き飛ばされ、それでも途中でバランスを整え、滑るように踏み止まる。
 それでも……ここに来て、初めての有効打。
 そんな攻撃をステラが叩き込んだ。

「よぉ、アンナ。無事か?」

「ステラ……」

 ステラにそんな声を掛けられて、こんな状況だけど少し緊張の糸が切れそうになった。
 必死に攻撃を防ぎながら、ずっと誰かがここに来てくれるのを待っていた。
 情けないけど、私のやっていたのはそういう戦いで。
 だから私が思い浮かべていた誰かが来てくれたっていうのは、想像以上に安堵で力が抜けそうになる。
 ……そして、更に聞こえて来る。

「あ、良かったアンナさん生きてる!」

「間に合ったっすね! マジで心配だったんすよ!」

 シルヴィとシズクの声が。
 その声を聞いて、思わず振り返る。

 此処まで走って来たのか少し息切れ気味のシルヴィとシズク。
 ……そして。

「……良かった」

 えっと……もう一人どちら様?

「……」

 ……でも、まあとにかく……皆居る。
 それが分かっただけで、安心してちょっと泣きそうになる。

「しばらくアイツは俺が食い止める。だからちょっと下がって気持ち落ち着かせて来い」

「あ、ちょっと!」

 一人で戦わせるのはまずいと思ってそう声を上げたけど、それで止まるステラじゃない。
 そのまま今の私を遥かに上回る様な速度で男との距離を詰めていく。
 ……そうか、シズクの強化魔術が掛かっているんだ。

 そして出遅れた私の元にステラとシルヴィと、知らない女の子が駆け寄ってくる。

「大丈夫っすかアンナさん!」

「な、なんとか大丈夫」

「そんな事言いながらちょっと泣いちゃってるじゃないですか。無理しなくていいですよ」

 ……あ、普通に泣いてたっぽい。
 恥ずかしいな。
 ……まあ良いけど。
 実際怖かったし。皆が来て安心したし。
 そりゃ泣くって、うん。

「とりあえず私はステラさんの加勢に行きますんで、シズクさんにアンナさんの事、お任せします。ほら、ミカさんも行きますよ」

「分かってます。私が今回の作戦の要ですから。じゃあシズク、その人の事お願いね」

「あ、了解っす。ボクもできる限り援護するんで!」

 そんな会話を交わしてシルヴィと謎の女の子も動き出した。

「……ちょっと待ってミカってもしかして」

「ルカさんの相方っすよ」

 シズクが私に何かの魔術を掛けながら言う。
 ……体が軽い。
 強化魔術だ。

「アンナさんはルカさんから色々話聞いてると思うんで、雑な説明で色々察してくれるかもしんないんで雑に言うすよ。今はもう私達の味方っす。滅茶苦茶良い子っすね」

「……そっか。あの子がルカの言ってた王女様か」

「そうっすね……ん? ちょっと待って……王女!?」

「あ、え、知らなかった? いや、まあこれ基本シークレットな情報か……というかなんで私がルカと居た事知ってるの!?」

「あ、いや、それはその……」

 何故か気まずそうな表情を浮かべるシズクを見て、色々と察した。

「……そういう事か」

 ルカはあの男に操られていて、侵入者の迎撃に向かわされていた。
 そして侵入者は間違いなくシズク達だ。
 だとしたら。
 ルカの迎撃を潜り抜けて此処に来ているのなら、色々と納得がいく。
 納得が行くから、シズクに問いかける。

「アイツ、生きてるよね?」

「大丈夫っす。無事うまいことやったっすよ」

「そっか……良かった」

 それでようやく、どこかスッキリしたような気分になる。
 当然だ。
 こっちの状況は良い方向に向かっていても、ルカの安否が不明なままではメンタルを元通りにするのは難しい。

「ああ、伝言預かってるっす」

「伝言?」

「すまなかったって」

「……それこっちのセリフなんだけどなぁ」

 アイツが死に物狂いで稼いだ時間を、私は完全に無駄にした。
 私は何もやってない。
 だから私からも次に会った時にちゃんと謝っておかないと。

「……で、そのルカは今どうしてんの?」

「ああ、シエルさんと今回の一件の協力者の人と一緒に居ます」

「……なんか嫌な予感はしてたけど、やっぱり此処に来てたんだ」

 今回の一件に巻き込まれているのは知っていたけど、うん、一番深い所にまで関わってるよ。
 まあしーちゃんらしいけど。
 でもまあしーちゃんの安否は分かっていなかった訳で、とりあえず無事で良かった。

 そして根拠は無いけどしーちゃんが任されていて、皆が任したならルカの事も大丈夫だって思える。

 ……うん、良かった。
 色々と、良かったよ。
 不安だったことが、ある程度纏めて解決した。

 ……だったら。

「……よし」

 軽く呼吸を整える。
 視界の先でステラとミカが男に近接戦を臨んでいて、シルヴィも援護のタイミングを伺うように構えている。
 そしてそんな三対一の戦いはステラ達がかなり優勢なものの、一方的な戦いにまでは持って行けていない。

 そしてまだ向うには、部屋中を黒くして影で攻撃する奥の手が残っているのも知っているから。

「じゃあ私も行ってくるよ。サポートよろしく」

 私も加勢に行かないといけない。

「か、片腕上がってないっすけど、大丈夫っすか?」

「うん……もう大丈夫」

 今はもう大丈夫だ。

 次の瞬間、男が今まで使ってこなかった部屋を黒く染める術式を展開する。
 そこから強力な攻撃が放たれる事も分かっている。

 だけど……だからどうした。

「大丈夫」

 今はもう、負ける気がしない。
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