最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

44 聖女さんVS父親

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「さて、第2ラウンド始めよっか」

 そう言い放って、私の他力本願の戦いが始まった。
 やるべき事は全方位への警戒と攻撃の回避。
 意識の全てをそこへ持っていく。
 現時点で倒せる未来が見えてこない以上、攻撃の事は一旦頭から外す。
 牽制も効果が無さそうだからやらない。

 とにかく、全ての攻撃の回避を。

 そう考えながらいざという時の一撃を防ぐ為に高い高度の結界の構築を始め、攻撃が放たれるのを待つ。

 待っていたんだけど。

「……?」

 中々攻撃は放たれない。
 さっきみたいに影の攻撃が放たれる事も無ければ、直接突っ込んでくる事も無い。

 ……何考えてんだろ。

 私の攻撃を待って、カウンターを合わせるつもりなのか……いや、そんな事しなくたって向うは絶対的に優位な訳で。
 ……マジで不気味だよ。
 攻撃は飛んでこないに越した事は無いけど、なんかこう……気味が悪い。

 と思ったら来た!

「……ッ!」

 影の棘を生やして、そこから魔術攻撃を打ち込む物ではなく、急接近からの近接戦。
 さっきの間が何だったのかは分からないけど……とにかく防がないと。

 そして急接近してきた男の拳を辛うじて躱し、そこから流れるように放たれた蹴りを腕で受け止める。

「……?」

 拳を普通に躱せた。
 蹴りは躱せなかったけど受け止められた。
 正直咄嗟に腕でガードしたから折られてもおかしくなかったけど……普通に痛いだけで折られていない。

 確かに早いけど、想定していたよりも遥かにキレも重さも無い。

 そしていくらでも攻撃に混ぜられる筈の影の攻撃も来ない。

 ……まさか手を抜かれてる?
 ……なんで?
 さっきから意味の分からない取引を持ち掛けてきたり、マジで意味が分からないんだけど。

 そして次の攻撃も、そんな事を考えながら回避できる程度の一撃。
 あまり殺意みたいなのが感じられない一撃。

 コイツ本当に何がしたいの?

 でももしこれが続くんだったら、時間を掛けて威力の高い魔術を構築してぶち込めば私単体でもワンチャンあるかもしれない。
 ……いや、そう思わせる作戦?
 でもそんな事しなくたってコイツは正攻法で十分に私より優位に立ち回れるし……。

 そんな思考がループする。
 そんな思考でも躱せる程度の攻撃が放たれ続ける。

 殺さない程度に、それでもこちらを好きにさせない程度の攻撃を。

 ……なんだろう、まるで時間でも稼がれてるような攻撃だよ。
 本来時間を稼がないといけないのは私の方なのに。
 いや、そうだ……コイツは何か子供使ってヤバい魔術を使おうとしているんだった。
 だったら時間稼ぎをする理由も……いや、無い。
 コイツの場合さっさと私を殺そうとした方が確実!
 マジで意味不明だ。

 そしてその答えが出る事も無く。
 それ以上の攻撃も出てくる事も無く。
 私の意識が消える事も無く。

「……」

 私の体力だけを削って数分の時間が経過した。
 正確な時間は分からないけど、もしかしたらもっと経っているかもしれない。

「……ッ」

 それだけの時間攻撃を躱し続けて防ぎ続けて、体力の消耗で全身が悲鳴を上げているけど、まるでそれに合わせるように攻撃が緩くなっているように思えた。
 向こうも疲れているのか……いや、そんな風には見えないけど。

 とにかくまるで状況が動かないまま、時間だけが経過していく。

 だけど状況を動かせるかもしれない準備はできた。
 思考がループする中で、一応の結論は出せた。

 コイツがこちらにある程度の余裕を残した状態でダラダラと攻撃し続けている内にに、即席で放てるような奴とは訳が違う一撃を放つ準備が出来た。
 圧縮した風の塊。
 それを普段より更に圧縮して威力を高めた奴。
 これをぶつければ意識の一つや二つ位奪えるかもしれない。

 そして放たれた拳を躱す。

 ……此処だ!

 次の瞬間、カウンターを打ち込むように男目掛けてそれを押し付けるように掌底を放つ。
 ……だけど。

「……やっぱ完全に手ぇ抜いてるじゃん」

 私の掌底を今までのそれとは比べ物にならない速度で回避される。
 そして風の塊は何もない空間で暴発する。

 ……とりあえず次!

「これならっ……ッ!」

 生まれた暴風をコントロールして、そのエネルギーを男の方角に向けてシンプルに打ち込む。
 風を圧縮した塊とかじゃなく、シンプルな風。
 それでひとまず壁にでも押し込む!

 風除けに結界を張る様子も無い。
 流石に全く微動だにせず立ってるみたいな事は難しい筈だ。
 そしてそれがうまく行ったら、その風を再操作して何かしらの攻撃を打ち込む。
 次は当てる!
 そう思ったけど。

「……ッ」

 男は平然と視界の先に立っている。
 ……感覚で分かる。
 あの男の周囲だけ、風のコントロールが効かなくなってる。
 なんかうまい事対策を打たれてるんだ。
 どういう理屈なのかは全く分からないけど。

 そしてそう判断した次の瞬間には、再び私の方に接近してきた。
 ……結局、手ぇ抜かれても防戦一方って訳だね。

 思わず軽く舌打ちして、構えを取った。
 ……その瞬間だった。

「お疲れアンナ」

 そんな声と共に、誰かが私の隣を横切ったのは。
 両手から炎を噴出させて加速し、私の正面にステラが躍り出たのは。

「ステラ!?」

 そして私の声に返事をする変わりと言わんばかりに。

「っらあッ!」

 男の鳩尾にステラの拳が叩き込まれた。
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