最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 誘拐犯達、壊滅

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 それでもまだそれが振るわれる事はない。
 まるで何かを待つように、柄の悪い男はリックの攻撃を捌き続けている。
 そしてリーダー格の男が、周囲の連中に確認するように言った。

「一応確認するが、コイツらの中に助けねえといけない奴はいるか?」

 すると周囲にいる部下と思わしき男達が言う。

「いや、コイツら全員おんなじ色してますわ」

「匂いも同じく」

「なるほど……できれば全員ニックやケニーさんみてえなパターンだと良かったんだけどな」

 軽く溜め息を付いてから、男は静かに……ドスの効いた声で言う。

「開戦だ」

 その瞬間、その場にいた全員が各々武器を手にする。
 ……十分に人を殺害できる類いの武器をだ。

「拘束なんて不確かな手段は取るな。ひとまずリーダー格他数名の脳さえ無事ならそれで良い」

 その言葉が放たれた次の瞬間、それらの武器は躊躇い無く振るわれ始める。
 完全にこちらの命を奪うつもりだ。

 ……だが。

(……作戦変更だ。ひとまずコイツらをなんとかすっかぁッ!)

 多少驚いたもののハロルドはすぐに冷静になる。
 何故ならこれが本来想定している戦いだからだ。

 高確率で操られている一般人を相手に意識を奪う戦い方をするのはともかく、明らかに怪しい集団である特殊部隊を最初に全滅させた連中の戦い方は明らかに普通ではない。

 命の奪い合い。
 これが普通なのだ。

 だから普通にこれからの事を考える。

(コイツらをさっさと殲滅して逃げた奴らを追う……これだな)

 おそらくこちらもそれなりの戦力は失うだろうが、それは目の前の連中から補充すればいい。

 ……少なくとも負ける事は無いだろうと思った。

 こちらの支配下にあるのは場に掛けられた魔術により出力が強化されている上にしっかりとした戦闘訓練を受けた特殊部隊。
 対する向こうは柄の悪い男が強い力を有しているが、おそらくそれは規格外の化物連中の一人が使う強化魔術の影響下にあるからだろう。

 他の連中に同等の動きができるとは思えない。

 実際、戦闘が始まって十数秒、連中は比較的防戦気味だ。
 こちらを殺すつもりで物騒な武器を取り出したものの、その武器を振るうより攻撃を防いでる場面が多く見受けられる。

(……これは勝ち確だなぁ!)

 そう心中で叫んでから、テンション高めにハロルドは言う。

「っしゃぁ! こんな雑魚連中さっさと倒して逃げた連中追うぞぉッ!」

「やれるもんならやってみろよ。俺達は一人も倒されるつもりは無いがな」

 リーダー格の男がそう言った次の瞬間、違和感に気付いた。

(は? ちょ、ちょっと待て)

 こちらの特殊部隊の連中の動きが急速に鈍くなった。
 そして鈍くなったのは……ハロルド自身もだ。

(……んだこれ……体が痺れて……!)

 一瞬、解除した筈の拘束魔術の影響かと思ったが、それでは他の連中の動きが鈍くなっている理由にはならない。
 では……考えられる可能性は一つ。

「て、てめぇ! 一体どんな魔術を……!」

 信じがたいが連中の誰かに魔術を使われた。
 発動を一切気付かれず、この場にいる全員の動きに非接触で制限を掛けられるような協力な魔術を。 

 たがリーダー格の男は言う。

「そんなんじゃねえさ」

 言いながら男は懐から蓋の空いた袋を取り出す。

「は? なんだそりゃ……」

「化学兵器だよ。毒ガスとでも言った方が分かりやすいか?」

「……は?」

 想定していなかった角度からの発言にハロルドから思わず間の抜けた声が漏れ出す。
 そして思考が追い付かないハロルドに対しリーダー格の男が言う。

「俺達より先にこの場に突入した連中は俺達よりも圧倒的に強い。そんな連中が援軍を要請したんだ。呼ばれた俺達はそういう連中でも苦戦する相手にも勝てるだけの手段を持ち込まなきゃならない訳だが……まあ普通にやれば勝てないわな。魔術で搦め手を考えても格上連中からすればそれもまた正攻法の範疇だ」

 だが、とリーダー格の男は言う。

「こういう戦い方なら虚を突けるかもしれねえ……実際に突けただろ」

「……ッ」

 言われながら解毒効果のある回復魔術を発動させる……が、反応が無い。
 今体を蝕んでいるのは、ハロルドの使える回復魔術が想定している毒ではない。

 そしてそうこうしている内に、瞬く間に支配下にあった特殊部隊の連中が倒されていく。
 こちらの最大戦力であるリックもだ。

「……くそ、なんでそんな訳わかんねえもんを……ッ」

「ああ、この前潰した麻薬密売してる組織から押収してな。あの時は本当に死ぬかと思った。運良く全員生き残ったが普通に全滅してもおかしくなかったな」

 そしてそう言い終わる頃には……ハロルド以外の全員が地に伏せていた。

「……ちょ、ちょっと待て。そもそもなんで
てめえらは普通に動けてんだよ……意味わかんねえよ」

「魔術の進歩で科学も進歩して、こういったろくでもねえ物も生まれてくるように……科学の進歩で魔術も進歩する。高度な魔術は優れた研究者にしか作れねえが、このガスをピンポイントに防ぐ魔術位なら、内の優秀な部下がなんとかしてくれる」

「くそ……何もんなんだよてめぇら……ッ」

 ぽっとでの第三者の癖に逆転計画をズタズタにしてきた。
 果たしてコイツらは何者なのだろうか?
 麻薬組織を潰したと言っていた事から憲兵なのだろうか?

 ……聞いたところで何か現状を変えられるわけでは無いのは分かっているが、それでもハロルドは思わずそう聞いていた。
 そしてリーダー格の男は言う。

「あんまりてめーらと変わらねえような立場の反社会勢力だよ。一緒にはされたくねえが……でも世間一般からすれば殆ど同じなんだよなぁ」

 そう言って深く溜め息を付いた男は、一拍空けてからハロルドに言う。

「なぁ、知ってるか? この国は正直結構滅茶苦茶なんだよ」

「……?」

「一時滞在のビザもアホ程取りやすくて、それどころか簡単手続きで冒険者になれば実質的にこの国の国民のように振る舞える……そしたらまあ、ヤバい連中も入り込んでくる訳で。結果この国は表向きには綺麗だが実際の所は犯罪組織の温床だよ」

 だが、と男は言う。

「それでも表向きには綺麗なんだ。なぁ、オイ。それはなんでだと思う?」

「……」

「まず一つは憲兵の連中が悪態付きながらも頑張って仕事をしてるからだ。本当に頑張ってるよな。頭が下がる思いだよ」

 そしてもう一つ、と男は言う。

「覚えとけ。ついでに程度だが俺達みてえなのも目を光らせてる」

 そう言った男は一拍空けてから言う。

「さて、まあそんな感じで、俺達が一体何者かって質問には大雑把に答えられたろ……次はこっちの質問に答えてもらう」

「質問……?」

「これだけ派手にやってんだ。聞かなきゃならねえ事位山程あるだろ……まあ簡単に聞けるとは思ってねえさ」

 そう言ってリーダー格の男は周囲の部下に言う。

「いいか、一応念の為周囲見張っとけよ! もしかしたらB班の皆じゃ止められずに聖女達がこっちに戻ってくるかもしれない!」

「分かってる。こんな連中相手にご丁寧に意識だけ奪って倒してくような連中に、この惨状もこれからの事も見せらんねえからな」

 返り血塗れの柄の悪い男がそう言ったのに続いて、同じく返り血塗れの美人な女が続ける。

「じゃあ此処は私達に任せて見張りの方行ってください」

「おいおい、なんでそうなる」

「いやいや、皆分かってますよボスがこういうの向いてないの。この前の時も終わった後隠れて吐きまくってたの知ってるんですからね。昼の仕事も引きずってずっと顔色悪いし」

「いや、でもなぁ……そういうのをお前らに押し付けるのも……」

「いいから行けよバカ。おい、何人かあのバカに着いてけ。というか無理矢理連れてけ」

「了解ですマコっちゃんさん」

「ほら、ボス行きますよ」

「あ、ちょ、お前ら! おい! 分かった無理矢理引っ張んな」

「なんかやらかして連れてかれてるみてえだな。マフィアのボスらしくねえ」

「させてんのお前!」

 そう叫んだ後、諦めたように冷静な声音でボスと呼ばれた男が言う。

「あんま無理すんなよ」

「俺らは無理じゃねえからな」

「……そうか。それもあんま良くねえと思うんだけどなぁ……まあ、頼んだ」

 そう言い残して、ボスと呼ばれた男は別の部屋へと移動する。
 移動して……そしてこの場に残った内の柄の悪い男がハロルドに言う。

「待たせたな。じゃあ始めるか」

「い、一体何するつもりだ……!」

「さっきあのバカが言ってたろ。お前には聞かなきゃならねえ事が山程ある。知ってる事全部話してもらうぞ……無理矢理な」

「……!」

 そうして尋問が始まる。
 それが拷問に変わるまではあと──
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