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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。
ex この世界で起こる事について
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最深部、及び中層にてそれぞれの戦いに決着が付いた直後。
「……イレギュラー続きではあったけど、どうにか首の皮一枚繋がったな。ボクがあの場に足を運ばなければ詰んでいたかもしれない」
最深部から脱出したユアン・ベルナールは飛竜の背に身を預けながら海の上を移動していた。
いくら世界最高峰の魔術師といえど、即興で構築した術式で何国も先の目的地への超長距離移動を実現するのは難しい。
予め用意していた帰還用の術式を儀式用の術式の転移に使った為、まずは現場から大きく離れた地点までの転移を行い、それから人気の無い場所まで飛竜を使っての移動。
そしてその場で帰還用の転移魔術を構築し、根城へと戻る事となる。
今はひとまず人の反応が無い無人島への移動を進めている所だ。
「助かったよ。昔からいつもいつも言う事を聞いてくれないのに、肝心な時はいつだって助けてくれる。いつもありがとう」
それに答えるように、彼を背に乗せる飛竜は喉を鳴らす。
それを聞いて小さく笑みを浮かべた後、ユアンは思考に耽る。
これからの事を。
とりあえず自分の存在や計画が露見する事は無いだろう。
あの場に自分や現在利用している組織に繋がる情報は残されておらず、あの場に居たハロルドを始めとする表向きの理由を知っている連中の脳には魔術でプロテクトが掛けてある。
絶対に何が有っても外部に機密事項を喋れなくする魔術だ。
仮にここからその術式を解除する為の研究を始めたとしても、最低でも数年は掛かる筈だ。ならなんの問題も無い。
少なくともこれで最悪な負け方は回避した。
もっとも娘と戦っている時点で最悪な気分ではあるが。
……だがその最悪な気分をリフレッシュするような時間は残されていない。
今回の作戦が失敗した以上、すぐにでも次のプランを進めなければならないのだから。
と、そう考えていた時だった。
「お、良い感じの小島が見えるな」
視界の先に僅かな陸地面積の本当に小さな小島が見えた。
一目で島の全て視界に納める事が出来る程小さく何も無い島だった為、人がいない事も目視で確認できる。
(……転移魔術を使う為の最低限の広さはある。そこで良い)
そう考えたユアンは飛竜に指示を出す。
「悪い、そこの小島に下りてくれるか? ……いや、おい、聞いてるのかい?」
ユアンを乗せた飛竜は全く着陸する素振りを見せず、そのまま素通りしてしまう。
しかも一瞬首を動かし、確かに小島の方向を向いていた事から、意図的にユアンの指示を無視したという事になる。
「お、おいほんとどこ行くんだ!? あの島本当に丁度良い感じなんだけど。おーい!」
ユアンが呼びかけるが、飛竜はそれを完全に無視。
寧ろ加速して島から勢いよく離れてしまう。
(……ほんと、言う事聞いてくれないな)
子供の頃から一緒に居てもう三十年近い付き合いになる訳だが、本当に言う事を聞いてくれない。
自由奔放。いつだって好き放題だ。
そしてユアンの指示を完全に無視した飛竜は、そのまま小島から大きく距離を離して小さな岩場へと降り立つ。
「……こんな所に降り立たれても困るんだけど。もしかして飛び疲れたか? だとしたらさっきの丁度良い小島に降りていた方がキミ的にも良かっただろ。サイズ感的に」
そう言うが飛竜が動く事はない。
本当に何を考えているんだと相棒ながら溜め息を付くが、それでも一拍空ければその意図は自然と見えてくる。
「……大丈夫だよ、僕は」
そう言って飛竜の頭を撫でる。
彼は自分を無理矢理にでも休ませようとしてくれているのだ。
だから主導権を握っている今、こんな滅茶苦茶な事をしている。
……多分自分が思っている以上に、今回の事が心に来ているのだろう。
計画が失敗した事。
娘と戦った事。
それで自分が酷く重い気分になっているとは思っていたが、どうやらそれ以上のようだ。
「大丈夫」
こんな自分にもそうやって心配してくれる誰かがいる。
それだけで立ち上がる気力は湧いてくるから。
それでもそれで言う事を聞いてくれる奴なら昔から苦労はしていない。
もうしばらくは此処で何せずにいる事になるだろう。
だから周囲に誰もいないこの機会に、世界で唯一自分の目的を正確に把握している相棒に問い掛けた。
「キミはこのままボクに着いてきてもいいのかい?」
彼が自分を心配してくれたように、ユアンも彼の事が心配だった。
「キミも気付いたから攻撃しないでくれたんだろうけど改めて言うとね、あの時ボクは自分の娘と……アンナと戦っていた。ボクとしてはそうならないように全力を尽くすつもりだけれど、もう一度戦うような事もあるかもしれない」
それがつまりどういう事か。
「そうなれば今度はキミのお子さんとも戦うような事になるかもしれない……お互い自分の子供と争いたくなんてないだろう」
今、アンナが使役している飛竜はユアンの相棒の子供だ。
今回あの場に相棒が現れたのはユアンにとってもイレギュラーだったが、例えば野外での戦闘だった場合十分に起こり得た。
そしてそれもまた、避けられるなら避けなければならない戦いだ。
「知っているだろうけど、キミとの召喚契約はキミの方から一方的に切れる状態にしてある。だからいつだって戦いから降りても……いったぁッ!」
言葉の途中で少し痛い程度に絶妙に出力をコントロールした衝撃波でどつかれる。
間違いなく打ったのは相棒だ。
そしてそれが答え。
「……そうか」
ユアンは静かにそう呟いた後、相棒に語り掛ける。
「なら……もうちょっとだけよろしく頼むよ、相棒。僕達で世界を救おう」
ああそうだ。
自分達で世界を救う。
「色々な人の人生を勝手にベットして、滅茶苦茶にして、不幸にして……それなのにこんな言葉を言っちゃいけないのは分かっているけど……それでも僕達で世界を救う。あの日見た未来を変えるんだ」
例えその先に、自分達がいなくても。
それでも。
「……イレギュラー続きではあったけど、どうにか首の皮一枚繋がったな。ボクがあの場に足を運ばなければ詰んでいたかもしれない」
最深部から脱出したユアン・ベルナールは飛竜の背に身を預けながら海の上を移動していた。
いくら世界最高峰の魔術師といえど、即興で構築した術式で何国も先の目的地への超長距離移動を実現するのは難しい。
予め用意していた帰還用の術式を儀式用の術式の転移に使った為、まずは現場から大きく離れた地点までの転移を行い、それから人気の無い場所まで飛竜を使っての移動。
そしてその場で帰還用の転移魔術を構築し、根城へと戻る事となる。
今はひとまず人の反応が無い無人島への移動を進めている所だ。
「助かったよ。昔からいつもいつも言う事を聞いてくれないのに、肝心な時はいつだって助けてくれる。いつもありがとう」
それに答えるように、彼を背に乗せる飛竜は喉を鳴らす。
それを聞いて小さく笑みを浮かべた後、ユアンは思考に耽る。
これからの事を。
とりあえず自分の存在や計画が露見する事は無いだろう。
あの場に自分や現在利用している組織に繋がる情報は残されておらず、あの場に居たハロルドを始めとする表向きの理由を知っている連中の脳には魔術でプロテクトが掛けてある。
絶対に何が有っても外部に機密事項を喋れなくする魔術だ。
仮にここからその術式を解除する為の研究を始めたとしても、最低でも数年は掛かる筈だ。ならなんの問題も無い。
少なくともこれで最悪な負け方は回避した。
もっとも娘と戦っている時点で最悪な気分ではあるが。
……だがその最悪な気分をリフレッシュするような時間は残されていない。
今回の作戦が失敗した以上、すぐにでも次のプランを進めなければならないのだから。
と、そう考えていた時だった。
「お、良い感じの小島が見えるな」
視界の先に僅かな陸地面積の本当に小さな小島が見えた。
一目で島の全て視界に納める事が出来る程小さく何も無い島だった為、人がいない事も目視で確認できる。
(……転移魔術を使う為の最低限の広さはある。そこで良い)
そう考えたユアンは飛竜に指示を出す。
「悪い、そこの小島に下りてくれるか? ……いや、おい、聞いてるのかい?」
ユアンを乗せた飛竜は全く着陸する素振りを見せず、そのまま素通りしてしまう。
しかも一瞬首を動かし、確かに小島の方向を向いていた事から、意図的にユアンの指示を無視したという事になる。
「お、おいほんとどこ行くんだ!? あの島本当に丁度良い感じなんだけど。おーい!」
ユアンが呼びかけるが、飛竜はそれを完全に無視。
寧ろ加速して島から勢いよく離れてしまう。
(……ほんと、言う事聞いてくれないな)
子供の頃から一緒に居てもう三十年近い付き合いになる訳だが、本当に言う事を聞いてくれない。
自由奔放。いつだって好き放題だ。
そしてユアンの指示を完全に無視した飛竜は、そのまま小島から大きく距離を離して小さな岩場へと降り立つ。
「……こんな所に降り立たれても困るんだけど。もしかして飛び疲れたか? だとしたらさっきの丁度良い小島に降りていた方がキミ的にも良かっただろ。サイズ感的に」
そう言うが飛竜が動く事はない。
本当に何を考えているんだと相棒ながら溜め息を付くが、それでも一拍空ければその意図は自然と見えてくる。
「……大丈夫だよ、僕は」
そう言って飛竜の頭を撫でる。
彼は自分を無理矢理にでも休ませようとしてくれているのだ。
だから主導権を握っている今、こんな滅茶苦茶な事をしている。
……多分自分が思っている以上に、今回の事が心に来ているのだろう。
計画が失敗した事。
娘と戦った事。
それで自分が酷く重い気分になっているとは思っていたが、どうやらそれ以上のようだ。
「大丈夫」
こんな自分にもそうやって心配してくれる誰かがいる。
それだけで立ち上がる気力は湧いてくるから。
それでもそれで言う事を聞いてくれる奴なら昔から苦労はしていない。
もうしばらくは此処で何せずにいる事になるだろう。
だから周囲に誰もいないこの機会に、世界で唯一自分の目的を正確に把握している相棒に問い掛けた。
「キミはこのままボクに着いてきてもいいのかい?」
彼が自分を心配してくれたように、ユアンも彼の事が心配だった。
「キミも気付いたから攻撃しないでくれたんだろうけど改めて言うとね、あの時ボクは自分の娘と……アンナと戦っていた。ボクとしてはそうならないように全力を尽くすつもりだけれど、もう一度戦うような事もあるかもしれない」
それがつまりどういう事か。
「そうなれば今度はキミのお子さんとも戦うような事になるかもしれない……お互い自分の子供と争いたくなんてないだろう」
今、アンナが使役している飛竜はユアンの相棒の子供だ。
今回あの場に相棒が現れたのはユアンにとってもイレギュラーだったが、例えば野外での戦闘だった場合十分に起こり得た。
そしてそれもまた、避けられるなら避けなければならない戦いだ。
「知っているだろうけど、キミとの召喚契約はキミの方から一方的に切れる状態にしてある。だからいつだって戦いから降りても……いったぁッ!」
言葉の途中で少し痛い程度に絶妙に出力をコントロールした衝撃波でどつかれる。
間違いなく打ったのは相棒だ。
そしてそれが答え。
「……そうか」
ユアンは静かにそう呟いた後、相棒に語り掛ける。
「なら……もうちょっとだけよろしく頼むよ、相棒。僕達で世界を救おう」
ああそうだ。
自分達で世界を救う。
「色々な人の人生を勝手にベットして、滅茶苦茶にして、不幸にして……それなのにこんな言葉を言っちゃいけないのは分かっているけど……それでも僕達で世界を救う。あの日見た未来を変えるんだ」
例えその先に、自分達がいなくても。
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