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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 碌でも無い父親の話

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 昔の話。
 とある国に一人の魔術の天才がいました。
 彼はあまりに微弱な魔力しか持ち合わせていませんでしたが、それでも千年に一人と言っても過言ではない程の高い知能を持ち合わせて、若くしてあらゆる魔術を極め、発展させ、そして産み出してきました。

 そんな彼が18歳の時です。
 なんと彼は未来を予知するという大魔術を作り出す事に成功しました。
 今までの人類史の中で誰にも成し得なかった偉業です。

 さっそく彼はその魔術を公表する前に未来を予知してみる事にしました。
 そして彼は知ります。

 そう遠くない未来で、この世界が滅びの運命を辿る事を。

 何かの間違いだと思いました。
 自分の魔術が未熟で誤った未来を予知しているのだと。
 予知した未来が20年近く先の事だから、大幅に誤差が生じたのだと。
 そう思いました。

 だけどその後公表せずに研究を重ねより精度が上がっていくにつれ、滅びの未来は鮮明に見えてきて。
 彼はついにこの世界が滅びる事を確信しました。

 ……そうして彼は未来を変えるために動き出します。

 未来予知は自信がこの事実を公表してもうまくいかないという結果も示していた為、彼の味方は相棒の飛竜だけ。
 それでもなんとか未来を変えようと走り回りました。

 ですが所詮一個人にできる事などたかが知れています。

 少なくともまともな手段を取っていてはどうにもならないという事実を嫌という程突き付けられます。

 やがて彼は折れました。
 抱えた問題も、その解決の為にやらなければならない事も、まともな神経をした青年には荷が重すぎたのです。

 だから彼は何も見なかった事にしました。
 全てから目を背け、半ば逃げるように普通の生活を送るようになりました。
 穏やかな生活を、いつか終わるその日まで

 やがてそんな彼は家庭を持ちました。
 娘も産まれ、本当に幸せな生活を送り始め、気が付けば飲み続けていた胃薬を服用する事も無くなっていました。
 そう、本当に幸せでした。


 だからこそ、絶対にこの世界を守らなければならないと。
 目をそらしていた現実を突き付けられました。
 今まで漠然としていたこの世界の未来という概念が、手の届く範囲に広がっている事実を叩きつけられました。


 だから彼は必死に息を整えながら、見えている地雷を踏み抜くように、大きく道を踏み外す選択をしました。
 再び胃薬を服用しながら。
 唯一可能性が残る茨道を歩み始めました。

 例えその選択で今が致命的に壊れてしまっても。
 それでもせめて娘の生きる未来の世界を残す為に。
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