最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

文字の大きさ
203 / 280
二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 黒装束の男、後日談 上

しおりを挟む
 地下での戦いを終えた翌日。

(……此処か)

 ルカ・スパーノは警戒心をやや強めながら、とあるケーキ屋へとやってきていた。
 この店は昨日アンナに教えて貰った店である。
 だがそれは警戒する理由にはならない。
 なる要素が全くない。
 ……客として訪れる分には。

(……できれば穏便にケーキを買って帰りたい所だな)

 本日、この場所へとやってきた理由はケーキを買いに来たという訳ではない。
 近々来店しようとは思っていたが、それを今日にするかは決めていなかった。
 では何故足を運んだのか。
 ここで人と会う約束をしているからである。

「いらっしゃ……あ、ルカさん」

「どうも、シエルさん」

 店内に足を踏み入れると、店員として働いていたシエルと鉢合わせる。
 昨日アンナからこの店を紹介して貰った時は知らなかったが、この店はシエルの両親が経営している店らしい。

 ……その事を知ったのは昨日の夜の話だ。

「ごめんね、昨日の今日で呼び出しちゃって」

 昨日の夜、宿泊先の部屋にシエルからの連絡が入った。
 内容は当初の予定通り、マフィアの連中に話をしてくれた事。
 その結果、具体的な案は決まってはいないものの、協力はしてくれそうという事。
 そして表向きにはという前置き付きで、自分達とは入れ違いであの場に残ったマフィアの連中からの報告。

 そして……今日、自分に会いたい者がいるという話。

「いや、気にしなくていい。それにシエルさんは仲介役になっただけだろう?」

「まあそうだけど。まあとにかく奥のテーブルに。もう既に待ってるから」

「ありがとう」

「じゃあウチは仕事中だから殆ど同席できないけど……ルカさん」

「なんだ?」

「気持ちは分かるけど、別に警戒はしなくて大丈夫だと思うよ」

「……そういう訳にもいかんさ。味方とはいえ一応な」

「ま、肩の力抜いて行こうよ」

 そう言ってバックヤードに消えていくシエルを見送り、ルカは自分を呼び出した者の所へ向かう。
 店内のイートインスペースの端のテーブル。
 そこでやや柄の悪い男がショートケーキを前にコーヒーを啜っていた。

「どうも、昨日は世話になった」

「これからもだろ。全く厄介な事ばかり回って来やがる」

 席に座っているのは、マフィアの幹部の一人であるマルコである。

「とにかく座れ。座って何か頼め。場所借りてんだから売上に貢献しやがれ」

(まるでスタッフみたいな発言だな……)

 まさかこの店はマフィアのフロント企業の一つとかだったりするのだろうか?

 と、そんな事を考えていた所で、シエルがテーブルまでやってくる。

「おすすめです。お代は気にせず好きに食べちゃってください」

 そういってコーヒーとチョコレートケーキが提供される。

「いや、お代は気にせずってそんな悪い……」

「良いって良いって、今回は特別。マコっちゃんに感謝して」

「おい、なんで俺が奢る流れになってるんだ」

「マコっちゃんが呼び出したんだから、その位しようよ。そんな訳でごゆっくりーー」

「あ、おい!」

 マルコの静止を聞かずに、遠ざかっていくシエル。

「くっそあの馬鹿……」

「……普通に自分の分は自分で払うぞ」

「いい。勝手に言われたのが腹立っただけで、最初からそのつもりだ。あの嬢ちゃんへの土産も持ってけ……いや、あの嬢ちゃんなんて軽々しく言うべきじゃねえか」

「……その辺の事情も聞いているんだな」

「ああ、あそこの馬鹿から聞いた。随分まあ大変な事になっているみてえだな」

 ただ、とマルコは言う。

「もし下手な真似をしたら容赦はしねえぞ」

 ややドスの効いた声で。

「……どこまで知ってる」

「お前やあのお姫様が例の黒装束って所まで。まあおおよそあの聖女連中やシエルが知っている範囲って所だ。ああ、勘違いするな。この情報を誰かが俺に漏らしたんじゃねえ。ただ俺が勘付いただけだ。まあ感づいた上である程度の詳細は問い詰めたが……俺以外に変なヘイトを向けんじゃねえぞ」

「……ああ」

 腑に落ちながら頷いたルカは、マルコに問いかける。

「それでどうする。もう俺達は下手な事をしてしまっている訳だが」

「今はまだ何もしねえよ」

 マルコは一拍空けてから言う。

「何をやろうとしていたのかは知らねえが、目的そのものはそう変な事でもねえだろ。そしてその過程が碌でもなかったとしても、現時点で実害は出ちゃいねえ。だとすればその間は俺達は何もしねえよ。俺達だって目的を遂行する為の過程で、人様に言えねえ事位いくらでもやってる。だからここまではお互い様って奴だ」

 ただ、とマルコは言う。

「何か実害が出るようなら、話は変わってくる。あくまで俺達はお前らを泳がせてるだけだって事は忘れるな……もしやるならうまくやれ」

「……肝に銘じておく。態々忠告ありがとう」

 まあ忠告されようとされまいと、向こうに手の内がバレている以上下手に動けない訳だが。
 そう考えながらルカはマルコに問いかける。

「……俺を呼び出したのは、そういう忠告をする為か?」

「それもある。ただそれだけじゃねえ……寧ろ此処からが本題だ」

 そう言ってマルコはルカに問う。

「シエルから聞いただろ? お前らに伝えた報告は表向きの物だ」

「ああ、ご丁寧に表向きにはと言われたな……態々俺だけを呼び出してその話を出すという事は、ベルナール達にはそんな前置きはしていないんだろう?」

「その筈だ。だから俺達からの報告が半分本当で半分嘘な事が正しく伝わっているのは連絡を頼んだシエル意外だとお前だけになる」

「どうしてそんな事を……なんて言わないさ」

 大体理由は察している。

「得た情報は、言えるような手段で手に入れたものでは無い」

「そういう事だ」

「俺にはいいのか?」

「……お前は必要なら俺達と同じような行動が取れる奴だろ」

「……まあな」

 アンナ達は相手がだれであれ戦っても殺し合いにはならないし、おそらく殺し合いにできない。
 だけど……目の前の男達はそうではない。
 そして自分も違うと判断されたのだろう。

「分かってると思うが、此処からの話は他言無用だ。あの嬢ちゃんにも言うなよ」

「そういう話なら寧ろ言えんさ」

「ならいい……なあ、その前に音消したりできるか? 大体察しているとは思うが、アイツにも聞かれたくねえ」

「ああ」

 ルカは言われながら防音の結界を張る。
 そしてそれを確認したマルコはルカに言う。

「あの時俺達の前に現れた影を操る男を覚えてるか?」

「ああ。あの頭の悪そうな喋り方をする奴だろう?」

「そいつだ……あの後俺達はアイツから話を引き出そうとしたんだ」

 ……この時点で事前に聞いた報告とは違う。
 報告ではあの影の男は逃げた事になっていた。
 だが、現実はそうならなかった。

「俺達はあらゆる手段で奴から話を聞き出そうとしたが……まあ何も吐かなかった。というより吐けなかったみたいだった」

「吐けなかった?」

「本人はもうゲロっちまいたいって様子だったが、何かに干渉されてそれが出来ないでいた感じだな。最終的に分かった事だが、アイツの脳に魔術によるプロテクトが施されていた」

「プロテクト……」

「挙句の果てにその解除を試みている間に、肉体が不自然に自壊しやがった……元々辛うじて生きているような状態だったが、あの時、アイツは確かに俺達以外の第三者にトドメを刺されたんだ」

「……それで結局何が分かったんだ?」

「現時点では何もだ」

「……これからか」

 おそらくマルコ達はあの男を拷問にかけた。それでも必要な情報を得られず男は死んだ。
 それだけの報告なら、態々自分に報告を入れなくても良かった筈だ。それこそアンナ達に逃げられたと説明したのであれば、自分にもそれで良かった。
 だけど良くない理由があるのだろう。
 現時点ではという事は、まだ終わっていないのだから。

「あの男の脳を自壊する術式から無理矢理切り離して保管してある」

「……えげつない事をするな」

 想像して一気に気分が悪くなった。

(なるほどこれは言えない)

 あの場で起きた事の詳細は、アンナ達には聞かせられないだろう。
 それだけ倫理的に推奨されないような事までマルコ達はやっている。

「まあそういう訳だ。此処から情報をうまく引きだせりゃ、うまく過程をでっちあげて報告できる……だが俺達でそれができるかどうかはわからねえ」

「それを俺ならできるかもしれないと」

「ああ。お前が相当な実力者な事はある程度分かってる。だからもしかしたらなと思ってな」

「……分かった。一度見てみる」

 そう答えながら考える。

(ベルナールが居ればよりプロテクトを突破できる可能性も高まるだろうが……流石にこれは駄目だな)

 自分が招かれている場所に、安易に招き入れる訳にはいかない。

 そしてマルコが言う。

「ならいつでもいい。また俺達のアジトに足を運べ。うまくやれれば事は一気に進む」

「ああ」

「大なり小なりお互いに喧嘩売られてる訳だ。これ以上何かやられる前に連中を潰すぞ」

 そう言ってマルコは掌に拳を叩きつけた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...