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三章 人間という生き物の本質
43 開戦
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持ち場に就いた俺達だったが、やはり予想していた通り現場の空気は最悪だった。
これから一緒に村を守ろうとしている相手だと一瞬忘れてしまう程の嫌悪に溢れた視線が向けられる。
そういう視線が向けられると分かっていても、やはり分かっていたら平気という訳ではない。
酷く気分が重い。
なんで今自分が此処に立っているのか分からなくなるような、そんな錯覚に陥る。
それから魔獣が防衛ラインに侵入してくるまでの間、村の連中から何か声が掛けられる事はなかった。ただ、重い視線を向けられるだけ。
そしてそんな人達に俺が何か声を掛けられる筈がなくて、そしてアリサとリーナも険しい表情を浮かべるだけで、特別声を掛ける事はなかった。
その間あった会話と言えば。
「……二人共、頑張りましょう」
「おう」
「とりあえず二人とも怪我しないでくださいっすよ」
俺達の間で、そんな声を掛け合った事位。
そしてそうしている間に事態は動く。
「来るぞ!」
魔獣の大群の襲来である。
「リーナ、頼む」
「はいっす!」
村の連中か魔獣の大群にやや焦りを見せるなかで、俺達は比較的冷静だった。
俺とアリサはそれ以上の状況を乗り越えて来ているから。
リーナはリーナで、肝が座っている奴だから。
そして次の瞬間、リーナの補助魔術が俺とアリサに付与される。
「じゃあリーナ、援護頼むぞ!」
「了解っす!」
そしてリーナの返事を聞いた俺達はそれぞれ動き出した。
先陣を切って魔獣の群れに向けて突っ込んだアリサは流れる様にナイフで魔獣を切り捨てて行く。
既にサンドベアーとの戦いで補助魔術が付与されたアリサの戦闘能力は目にしていたが、やはり格が違う。
あの森やリーナを助けた時以上に、圧巻としか言いようがない動きで場を制圧する。
……流石ウチのエースだ。やっぱすげえよアリサは。
そして……負けてられないなんて大層な事は言えないけれど、それでも俺は俺なりに食らいつく。
アリサに任せて突っ立ってなんていられない。
アリサの脇をすり抜けるようにこちらに接近してくる魔獣に対し、一体一体一撃で確実に切り伏せる。
そして二体同時に接近してきた魔獣に対しては。
「……」
刀身に風を纏わせ振り払い、風の刃で切り伏せる。
……楽勝だ。
元より一人頭の担当する頭数が少ない上に、何より今の俺にはリーナが補助魔術でサポートしてくれている。
苦戦する筈もない。
サポートまでしてもらって、魔獣数体程度に苦戦してたまるか。
……まあ、何はともあれこの戦い、うまく事が運びそうだ。
偶然か。魔獣なりにこの場で人数を割くべきだと判断したのかは分からないが、比較的余裕を持って戦える俺達の方に魔獣が集まっている。だからこのまま事が進んでくれれば、こっち側は重傷者を出さずに戦いを終えられる。
そんな風に少し安堵したその時だった。
この戦場の中の小さな違和感に気付いたのは。
今までの魔獣がどうだったかは、今異変に気付いたのだから分からない。
だけど少なくとも、今俺の正面に飛び込んで来ている魔獣。
その魔獣が、俺達が今までの相手にしてきた奴よりも僅かに黒い。
本当によく気付けたと自画自賛しそうになる程些細な違い。だけどそれでも確かな異変。
そして。
「……ッ」
その魔獣を刀で切り伏せる感覚が、あまりにも露骨に違った。
それを具体的にどういう風にとは形容しがたいが、それでも明らかにおかしい事は理解できた。
「なんだ……?」
そして明確におかしい事を理解できれば、周囲へ向ける視野も広がる。
広がってそして気づく。
いる。今のやつ以外にも。色がおかしい奴が。
そして次の瞬間たった。
アリサが既に切り伏せた色のおかしい魔獣から……黒い靄の様な物が漂い出したのは。
「アリサ!」
「……ッ!?」
その黒い靄が人体の様な形状に変化し、アリサに襲いかかったのは。
これから一緒に村を守ろうとしている相手だと一瞬忘れてしまう程の嫌悪に溢れた視線が向けられる。
そういう視線が向けられると分かっていても、やはり分かっていたら平気という訳ではない。
酷く気分が重い。
なんで今自分が此処に立っているのか分からなくなるような、そんな錯覚に陥る。
それから魔獣が防衛ラインに侵入してくるまでの間、村の連中から何か声が掛けられる事はなかった。ただ、重い視線を向けられるだけ。
そしてそんな人達に俺が何か声を掛けられる筈がなくて、そしてアリサとリーナも険しい表情を浮かべるだけで、特別声を掛ける事はなかった。
その間あった会話と言えば。
「……二人共、頑張りましょう」
「おう」
「とりあえず二人とも怪我しないでくださいっすよ」
俺達の間で、そんな声を掛け合った事位。
そしてそうしている間に事態は動く。
「来るぞ!」
魔獣の大群の襲来である。
「リーナ、頼む」
「はいっす!」
村の連中か魔獣の大群にやや焦りを見せるなかで、俺達は比較的冷静だった。
俺とアリサはそれ以上の状況を乗り越えて来ているから。
リーナはリーナで、肝が座っている奴だから。
そして次の瞬間、リーナの補助魔術が俺とアリサに付与される。
「じゃあリーナ、援護頼むぞ!」
「了解っす!」
そしてリーナの返事を聞いた俺達はそれぞれ動き出した。
先陣を切って魔獣の群れに向けて突っ込んだアリサは流れる様にナイフで魔獣を切り捨てて行く。
既にサンドベアーとの戦いで補助魔術が付与されたアリサの戦闘能力は目にしていたが、やはり格が違う。
あの森やリーナを助けた時以上に、圧巻としか言いようがない動きで場を制圧する。
……流石ウチのエースだ。やっぱすげえよアリサは。
そして……負けてられないなんて大層な事は言えないけれど、それでも俺は俺なりに食らいつく。
アリサに任せて突っ立ってなんていられない。
アリサの脇をすり抜けるようにこちらに接近してくる魔獣に対し、一体一体一撃で確実に切り伏せる。
そして二体同時に接近してきた魔獣に対しては。
「……」
刀身に風を纏わせ振り払い、風の刃で切り伏せる。
……楽勝だ。
元より一人頭の担当する頭数が少ない上に、何より今の俺にはリーナが補助魔術でサポートしてくれている。
苦戦する筈もない。
サポートまでしてもらって、魔獣数体程度に苦戦してたまるか。
……まあ、何はともあれこの戦い、うまく事が運びそうだ。
偶然か。魔獣なりにこの場で人数を割くべきだと判断したのかは分からないが、比較的余裕を持って戦える俺達の方に魔獣が集まっている。だからこのまま事が進んでくれれば、こっち側は重傷者を出さずに戦いを終えられる。
そんな風に少し安堵したその時だった。
この戦場の中の小さな違和感に気付いたのは。
今までの魔獣がどうだったかは、今異変に気付いたのだから分からない。
だけど少なくとも、今俺の正面に飛び込んで来ている魔獣。
その魔獣が、俺達が今までの相手にしてきた奴よりも僅かに黒い。
本当によく気付けたと自画自賛しそうになる程些細な違い。だけどそれでも確かな異変。
そして。
「……ッ」
その魔獣を刀で切り伏せる感覚が、あまりにも露骨に違った。
それを具体的にどういう風にとは形容しがたいが、それでも明らかにおかしい事は理解できた。
「なんだ……?」
そして明確におかしい事を理解できれば、周囲へ向ける視野も広がる。
広がってそして気づく。
いる。今のやつ以外にも。色がおかしい奴が。
そして次の瞬間たった。
アリサが既に切り伏せた色のおかしい魔獣から……黒い靄の様な物が漂い出したのは。
「アリサ!」
「……ッ!?」
その黒い靄が人体の様な形状に変化し、アリサに襲いかかったのは。
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