157 / 228
三章 人間という生き物の本質
84 人の身に宿る不純物
しおりを挟む
気が付けば目の前が血の海で、それなのに全身に纏わりついている筈の激痛が殆ど感じられなかった。
そして体に纏わりつく黄緑色の粒子。本当に分からない事しかなくて、そんな中で自分の隣りでグレンと誰かが話し出したのが分かった。
その会話の内容は殆ど理解できない。
理解する為の材料が不足しているのか、頭を回転させるだけの血液が足りていないのか。それとも俺が
理解できるだけの知能を持ち合わせていないのか。それは分からないけれど、とにかく理解は及ばない。
だけど男の言葉の上辺だけを掬い取れば。俺の意識が戻った事を考えれば。今俺達が殺されていない現状を考えれば。
アリサが無事で。俺達の怪我も何故か再生していて。そして現れた男には俺達への殺意が無いのであろう事は察する事が出来た。
そしてもう一つ、状況が最悪なに向かっているという事も。
「……」
倒れ伏せながら、リーナの戦いを見た。
圧倒的だ。今この瞬間目に映った情報だけで判断すればもしかすると……いや、間違いなく、今のアリサよりも強い。
そんな力が敵の連中に振り注がれている。
加減なく。際限なく。多分完全に止まるまで。
脅威が完全に消え去るまで。
下手すれば相手が死ぬまで。
「……ッ」
寒気がした。
昨日アリサとはもし人間と戦う事になった場合の話をしたけれど、リーナとはそういう話はしていない。
だけどそれでも、それは希望的観測なのかもしれないけれど、リーナも同じような事を言ってくれるような気がして。アイツについて分からない事は一杯あっても、多分そういう人間なんだろうという事は分かっているつもりで。
……そして実際の答えがどうであろうと、多分本人の意思が無い。終わってから何も覚えていない。そんな状況でもし誰かを殺してしまえば、それはきっとリーナにとっての重い傷になる。
それが傷になる位にはまともで優しい奴だって事を知っているつもりだ。
……だから。
もしもこの戦いが、これ以上続けても不毛な物になるのだとすれば。
「……だったら。だったら……さっさとお前の仲間、撤退……させろ。このままじゃ……死ぬぞ、お前の仲間」
早急にリーナを止めなければならない。
ああ、そうだ、リーナの為だ。
「……この状況で、こちらの心配をするのかキミは」
「……んな訳ねえだろ。こっちは……お前の、仲間に……殺され、掛けてんだ。そんな連中の、生き死になんか……知るか……ッ」
お前らの事なんかどうでもいい。
「このままじゃ……リーナがアイツらを殺す。人間を……殺すんだ、本人の意識が無い……ところでだぞ。そんな下手、すりゃ一生消えなくなるような……トラウマになりかねねえ、事を……俺の仲間に、させてたまるか……ッ」
そんな事は絶対にさせない。して欲しくない。させたくない。
「大丈夫だ」
男は言う。
「キミ達を迎撃するのを中止する旨は彼らの所にも届いている。おそらく真っ向から戦っても僕の仲間じゃ勝てないだろうけど、それでもタイミングを見計らって逃亡する事なら十分にできる筈だ。そして……彼女は目の前の脅威から逃避する為に力を振るっている。それがうまく行けばひとまず終わるさ……Sランクの逃避スキルの暴走はそれで止まる」
Sランクの逃避スキルと、それによる意識を失ってでの暴走という明らかに俺達しか知らない様な情報にまで踏み込んだそんな言葉を。
「……お前、さっきから何なんだよ」
グレンが不信そうに問いかける。
「さっきから俺達の事を見透かしたように言いやがって……お前は一体何者なんだ。いや、というよりそもそもお前らはマジで何物なんだよ!」
グレンの言葉に対し、男は一拍空けてから言う。
「別に僕にそれを答えるメリットは無いんだが……さて、どうしたものか…………まあキミ達は結果的に危険な目に遭わせてはいけなかった相手だ。それにどうせ生かして返す時点でそれ相応のリスクは背負わなければならない。少し位語った所で大した支障は起きないか」
そう言って男は言う。
「僕らはアンチギフターズ。スキルという人間にとっての不純物でしかない力をこの世界から消し去る。その雲を掴むような考えに賛同した人間の集まりだよ」
そんな訳の分からない事を。
そして体に纏わりつく黄緑色の粒子。本当に分からない事しかなくて、そんな中で自分の隣りでグレンと誰かが話し出したのが分かった。
その会話の内容は殆ど理解できない。
理解する為の材料が不足しているのか、頭を回転させるだけの血液が足りていないのか。それとも俺が
理解できるだけの知能を持ち合わせていないのか。それは分からないけれど、とにかく理解は及ばない。
だけど男の言葉の上辺だけを掬い取れば。俺の意識が戻った事を考えれば。今俺達が殺されていない現状を考えれば。
アリサが無事で。俺達の怪我も何故か再生していて。そして現れた男には俺達への殺意が無いのであろう事は察する事が出来た。
そしてもう一つ、状況が最悪なに向かっているという事も。
「……」
倒れ伏せながら、リーナの戦いを見た。
圧倒的だ。今この瞬間目に映った情報だけで判断すればもしかすると……いや、間違いなく、今のアリサよりも強い。
そんな力が敵の連中に振り注がれている。
加減なく。際限なく。多分完全に止まるまで。
脅威が完全に消え去るまで。
下手すれば相手が死ぬまで。
「……ッ」
寒気がした。
昨日アリサとはもし人間と戦う事になった場合の話をしたけれど、リーナとはそういう話はしていない。
だけどそれでも、それは希望的観測なのかもしれないけれど、リーナも同じような事を言ってくれるような気がして。アイツについて分からない事は一杯あっても、多分そういう人間なんだろうという事は分かっているつもりで。
……そして実際の答えがどうであろうと、多分本人の意思が無い。終わってから何も覚えていない。そんな状況でもし誰かを殺してしまえば、それはきっとリーナにとっての重い傷になる。
それが傷になる位にはまともで優しい奴だって事を知っているつもりだ。
……だから。
もしもこの戦いが、これ以上続けても不毛な物になるのだとすれば。
「……だったら。だったら……さっさとお前の仲間、撤退……させろ。このままじゃ……死ぬぞ、お前の仲間」
早急にリーナを止めなければならない。
ああ、そうだ、リーナの為だ。
「……この状況で、こちらの心配をするのかキミは」
「……んな訳ねえだろ。こっちは……お前の、仲間に……殺され、掛けてんだ。そんな連中の、生き死になんか……知るか……ッ」
お前らの事なんかどうでもいい。
「このままじゃ……リーナがアイツらを殺す。人間を……殺すんだ、本人の意識が無い……ところでだぞ。そんな下手、すりゃ一生消えなくなるような……トラウマになりかねねえ、事を……俺の仲間に、させてたまるか……ッ」
そんな事は絶対にさせない。して欲しくない。させたくない。
「大丈夫だ」
男は言う。
「キミ達を迎撃するのを中止する旨は彼らの所にも届いている。おそらく真っ向から戦っても僕の仲間じゃ勝てないだろうけど、それでもタイミングを見計らって逃亡する事なら十分にできる筈だ。そして……彼女は目の前の脅威から逃避する為に力を振るっている。それがうまく行けばひとまず終わるさ……Sランクの逃避スキルの暴走はそれで止まる」
Sランクの逃避スキルと、それによる意識を失ってでの暴走という明らかに俺達しか知らない様な情報にまで踏み込んだそんな言葉を。
「……お前、さっきから何なんだよ」
グレンが不信そうに問いかける。
「さっきから俺達の事を見透かしたように言いやがって……お前は一体何者なんだ。いや、というよりそもそもお前らはマジで何物なんだよ!」
グレンの言葉に対し、男は一拍空けてから言う。
「別に僕にそれを答えるメリットは無いんだが……さて、どうしたものか…………まあキミ達は結果的に危険な目に遭わせてはいけなかった相手だ。それにどうせ生かして返す時点でそれ相応のリスクは背負わなければならない。少し位語った所で大した支障は起きないか」
そう言って男は言う。
「僕らはアンチギフターズ。スキルという人間にとっての不純物でしかない力をこの世界から消し去る。その雲を掴むような考えに賛同した人間の集まりだよ」
そんな訳の分からない事を。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる