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三章 人間という生き物の本質
86 解放条件
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「EXランク……だと?」
グレンが驚愕するようにそう口にする。
俺も同じように、男の発言には驚愕しか無かった。
男の言った通り、EXランクのスキルなんてのは世界中探しても一人いるかいないかという程に希少で特異なランクだ。まず俺とアリサのようなSSランクのスキル持ちですら数える程しかいなくて、リーナのようなSランクのスキルを持つ者もほんの一握り。
EXランクなんてのは昔の記録を遡っても歴史上数える程の人数しかいない筈だ。
そんな存在が今、自分のすぐ近くにいる。
その事に驚愕しない筈がない。
「頼りたくはないけれど、この力があればスキルというものが人間そのものの力でない事はよく理解できる。今戦っているあの子がどういう状況にあるのかも、キミ達の身に何が起こっているのかも、目の前にあるものや既に起きている事の答えを知る事ができる。本当に、知りたくない事まで何もかもね……っと、そろそろだ。状況が動くぞ」
男がそう言った瞬間だった。
結界魔術を駆使しながら接近戦を臨んでいたリーナに対して防戦一方となっていた敵が魔術を発動させる。
そして次の瞬間姿が消えたかと思うと、先にリーナの結界で昏倒させられていた仮面の男の元へ。そして彼を抱きかかえ、リーナが接近してくるギリギリのタイミングで再び姿を消した。
「……どうやら無事うまくいったようだ。僕ら的にもキミら的にも良い結末だったと言えるだろう……良かった良かった。正直な話ヒヤヒヤして見てたんだ」
安堵する男に対して言う。
「……アンタが介入すればもっと確実に終わったんじゃねえのかよ。不安だったならそうすりゃ良かったんじゃねえのか? どうせアレだ。アンタも強いんじゃねえのかよ」
「その場合多少なりとも手荒な真似をする事になったとは思うけど、まさかとは思うがそれをお望みかい?」
「……いや」
……それなら動かないでくれて助かったという訳か。
「……さて、彼らがあの二人が離脱したのだとすれば、キミ達と話ができる時間も終わりというわけだ」
そう言って男は構えを取る。
「次の標的は僕になるだろうからね」
次の瞬間、倒れる俺とグレンの間。男の正面から斜め方向に勢いよく結界が突き出してくる。
それと同時に正面に右手を突き出した男の正面から薄い結界が展開。リーナの結界と衝突し大きな衝撃音を響かせるが、現状そこにヒビは見えない。
そしてその間に接近してくるリーナを見ながら男は言う。
「さて、最後にこれからの話をしておこうか」
「これからの話?」
「僕らとしてもいくらなんでも何の縛りも無しにキミ達を解放する訳にはいかないんでね」
そして急接近して男の結界に蹴りを叩き込むリーナに対し、変わらずどこか冷静な様子のまま男は言う。
「僕らからの要求は一つだ……王都に限らずこの先どこかで今日キミ達が顔を見た僕らの仲間を見付けたとして、憲兵に突きだす様な真似はしない事。それだけだ」
「……それだけ、なのか?」
半ば半信半疑といった様子のグレンに男は言う。
「今の国内の情勢を考えるに、此処もいずれ憲兵団の調査員が来る。だとすれば少なくとも此処で人為的に何かが行われていた事は分かる訳で。その場合何者からが何かをやっていたというのは別に広まっても致し方がないんだ。後数時間後まで続く予定のプロジェクトに妨害さえ入らなければ、僕らからすればそれでいい。その後に露見しても問題なく僕らは次のステージに進んでいる」
だけど、と男は言う。
「だけど僕らの計画が進もうと進まなかろうと、今日キミらが顔を見た彼らには彼らの変わらない、変えたくない表の日常がある。それが壊れるという事は、それだけは絶対にあっちゃいけない事なんだ。何より優先して守らなければならない。本来ならばそれを隠蔽する事を最優先事項にしてキミ達を殺さなければならない程に……だから、見てみぬ振りをしてやってくれ。お願いだ」
そして攻撃を防ぐ男の足元に魔法陣が出現する。
「さて、最後になるが……キミのお仲間の女の子なんだけどね」
「そ、そうだ! 今アリサはどうなってやがる!?」
「……大丈夫、無事だ。魔術で眠らせてあるみたいだけどね。丁度キミ達が分断されたポイントで僕の仲間が観てくれている。動けるようになったら迎えにいってあげるといい。それまでは厄介な魔獣達が現れても守ってくれる筈だ」
「厄介なってお前らが出現させてるんじゃねえのかよ」
グレンの指摘に対し、男は言う。
「確かにそうだが、あんなものを好き好んで作りだす馬鹿はいないだろう。望まぬ副産物だよ……っとそうだ。後数時間で結果的に魔獣を出現させざるを得なかったプロジェクトの第一段階は終わる。故にキミ達がどうにかしに来たであろう魔獣の問題は終息するわけだ。残党も僕達で処理しておく。だからその点だけは安心してほしい」
と、そこまで言った所で、リーナの連続攻撃により男の結界にヒビが入った。
「そろそろ限界か」
そう言った男は一拍空けてから俺達に言う。
「では僕はこれで。とにかく無事に此処を出るんだよ……特にSSランクの幸運の少年。キミだけは絶対に死ぬなよ。キミのおかげで……ずっと暗い顔ばかりしていた僕の仲間が少しだけ笑う様になったんだ。僕らが世界を変えるまで、キミに死なれては困る」
そう言って、仮面の男は姿を消して。
この場には俺達三人だけが残された。
グレンが驚愕するようにそう口にする。
俺も同じように、男の発言には驚愕しか無かった。
男の言った通り、EXランクのスキルなんてのは世界中探しても一人いるかいないかという程に希少で特異なランクだ。まず俺とアリサのようなSSランクのスキル持ちですら数える程しかいなくて、リーナのようなSランクのスキルを持つ者もほんの一握り。
EXランクなんてのは昔の記録を遡っても歴史上数える程の人数しかいない筈だ。
そんな存在が今、自分のすぐ近くにいる。
その事に驚愕しない筈がない。
「頼りたくはないけれど、この力があればスキルというものが人間そのものの力でない事はよく理解できる。今戦っているあの子がどういう状況にあるのかも、キミ達の身に何が起こっているのかも、目の前にあるものや既に起きている事の答えを知る事ができる。本当に、知りたくない事まで何もかもね……っと、そろそろだ。状況が動くぞ」
男がそう言った瞬間だった。
結界魔術を駆使しながら接近戦を臨んでいたリーナに対して防戦一方となっていた敵が魔術を発動させる。
そして次の瞬間姿が消えたかと思うと、先にリーナの結界で昏倒させられていた仮面の男の元へ。そして彼を抱きかかえ、リーナが接近してくるギリギリのタイミングで再び姿を消した。
「……どうやら無事うまくいったようだ。僕ら的にもキミら的にも良い結末だったと言えるだろう……良かった良かった。正直な話ヒヤヒヤして見てたんだ」
安堵する男に対して言う。
「……アンタが介入すればもっと確実に終わったんじゃねえのかよ。不安だったならそうすりゃ良かったんじゃねえのか? どうせアレだ。アンタも強いんじゃねえのかよ」
「その場合多少なりとも手荒な真似をする事になったとは思うけど、まさかとは思うがそれをお望みかい?」
「……いや」
……それなら動かないでくれて助かったという訳か。
「……さて、彼らがあの二人が離脱したのだとすれば、キミ達と話ができる時間も終わりというわけだ」
そう言って男は構えを取る。
「次の標的は僕になるだろうからね」
次の瞬間、倒れる俺とグレンの間。男の正面から斜め方向に勢いよく結界が突き出してくる。
それと同時に正面に右手を突き出した男の正面から薄い結界が展開。リーナの結界と衝突し大きな衝撃音を響かせるが、現状そこにヒビは見えない。
そしてその間に接近してくるリーナを見ながら男は言う。
「さて、最後にこれからの話をしておこうか」
「これからの話?」
「僕らとしてもいくらなんでも何の縛りも無しにキミ達を解放する訳にはいかないんでね」
そして急接近して男の結界に蹴りを叩き込むリーナに対し、変わらずどこか冷静な様子のまま男は言う。
「僕らからの要求は一つだ……王都に限らずこの先どこかで今日キミ達が顔を見た僕らの仲間を見付けたとして、憲兵に突きだす様な真似はしない事。それだけだ」
「……それだけ、なのか?」
半ば半信半疑といった様子のグレンに男は言う。
「今の国内の情勢を考えるに、此処もいずれ憲兵団の調査員が来る。だとすれば少なくとも此処で人為的に何かが行われていた事は分かる訳で。その場合何者からが何かをやっていたというのは別に広まっても致し方がないんだ。後数時間後まで続く予定のプロジェクトに妨害さえ入らなければ、僕らからすればそれでいい。その後に露見しても問題なく僕らは次のステージに進んでいる」
だけど、と男は言う。
「だけど僕らの計画が進もうと進まなかろうと、今日キミらが顔を見た彼らには彼らの変わらない、変えたくない表の日常がある。それが壊れるという事は、それだけは絶対にあっちゃいけない事なんだ。何より優先して守らなければならない。本来ならばそれを隠蔽する事を最優先事項にしてキミ達を殺さなければならない程に……だから、見てみぬ振りをしてやってくれ。お願いだ」
そして攻撃を防ぐ男の足元に魔法陣が出現する。
「さて、最後になるが……キミのお仲間の女の子なんだけどね」
「そ、そうだ! 今アリサはどうなってやがる!?」
「……大丈夫、無事だ。魔術で眠らせてあるみたいだけどね。丁度キミ達が分断されたポイントで僕の仲間が観てくれている。動けるようになったら迎えにいってあげるといい。それまでは厄介な魔獣達が現れても守ってくれる筈だ」
「厄介なってお前らが出現させてるんじゃねえのかよ」
グレンの指摘に対し、男は言う。
「確かにそうだが、あんなものを好き好んで作りだす馬鹿はいないだろう。望まぬ副産物だよ……っとそうだ。後数時間で結果的に魔獣を出現させざるを得なかったプロジェクトの第一段階は終わる。故にキミ達がどうにかしに来たであろう魔獣の問題は終息するわけだ。残党も僕達で処理しておく。だからその点だけは安心してほしい」
と、そこまで言った所で、リーナの連続攻撃により男の結界にヒビが入った。
「そろそろ限界か」
そう言った男は一拍空けてから俺達に言う。
「では僕はこれで。とにかく無事に此処を出るんだよ……特にSSランクの幸運の少年。キミだけは絶対に死ぬなよ。キミのおかげで……ずっと暗い顔ばかりしていた僕の仲間が少しだけ笑う様になったんだ。僕らが世界を変えるまで、キミに死なれては困る」
そう言って、仮面の男は姿を消して。
この場には俺達三人だけが残された。
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