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1-2 治癒魔術と旧医学
10 話せない事
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「ラグナさん」
叫んだわけではない。
だけど明確に普段の声音とは違う、アヤのどことなく圧の強い声でラグナの言葉を静止させる。
そのやり取りだけで、その事がアヤにとって触れられたくない事なのだという事はよく分かった。
「…………まあどうであれ教えた事が役に立ってるなら良かった」
ラグナも察したように無理矢理話の方向を転換する。
「そうっすね。おかげさまでうまくやれてるっす。ああ、こっちのアスカちゃんとレインさんの三人でパーティ組んでます。弓使いとして頑張ってるっすよ」
露骨に、元の話に戻らないように、たたみかけるようにそう話すアヤ。
そしてラグナもその一年半前の話をそれ以上広げるつもりはないらしい。
「そうか…………ってそうだ、冒険者になったならお前家には──」
「あの、ラグナさんちょっとこっち来るっすよ」
そう言って再び言葉を静止させ、ラグナの服を掴みこの場から離れようとする。
「あ、おい!」
「みんな、すぐ戻るんでちょっと待っててくださいっす」
「お、おう……」
そんなアヤに掛けられた言葉はそんな相槌くらいで、レインは離れていく二人を見送る事しかできない。
それからリカが困惑気味に言う。
「……アヤさん、一体何があったのかな?」
「わかりません。旧知に触れられたくない話が満載って事位しか……」
困惑する二人の声を聞きながら可能な限り今持っている情報を纏める。
触れられたくない話なのは分かるが、考えずに流す訳にはいかない。
新しい情報が入ってきているのなら尚更だ。
「今の感じを纏めると、ラグナさん的にはアヤが冒険者になったのが意外って感じだったな」
「そうみたいですね」
「……一年半前、ラグナさんが帰省した時点では他の何かになるつもりだった。そして冒険者になったからこそ家が云々……というよりその何かにならなかったから……みたいな話か?」
「……これだけじゃあまり分からないね。ただ流石にアヤさんが実家とあまりいい関係じゃない、みたいなのは察せるわけだから……その何かを目指していたから、もしくはならなかったから家とトラブルがあるって事かな」
「そういう事になるだろうな」
「……今ラグナさんが連れてかれたのって、ボク達への口止めって感じですかね」
「多分そうだと思う…………アイツ、本当に何隠してるんだ?」
結局そんな話を三人でしたわけだけれど、当然情報が足りなさすぎてなんの進展も無いまま。
「お待たせっす」
アヤがラグナと共に戻ってきた。
ただ……こちらが一応は安易に触れないようにしようというスタンスで居たとしても。
「…………えっと、なんかごめんっす」
何かが有ることに気付いていないフリを続ける事は流石に限界が有るわけで。
それが限界だという事が伝わる空気になるわけで。
そして問題がある事にレイン達が気付いているという事をアヤが把握したからだろうか。
このままというのが限界だという事に気付いたからだろうか?
どうするべきかと悩んでいるような表情を浮かべていたラグナが、言いにくそうに、だけどそれでも助言するようにアヤに言う。
「……全部話したらどうだ? 何かを隠している事がバレてる時点で色々と時間の問題だし……お前は俺以外の連中にも同じ様に口止めするのか? 全員お前の事情を知ってるのに」
「ちょ、ラグナさん……ッ!」
そしてアヤは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた後、その後深々とため息を吐いて、どこか不安そうな表情を浮かべてレイン達に言う。
「ごめんっす、なんか私の事で変な空気にしちゃって」
「いや、それは別に良いよ」
「……それで、今の話なんすけど」
アヤは呼吸を整えてから、似合わないオドオドした様子で言う。
「色々と決心が付いたら言うんで。絶対とは言えないっすけど言うつもりなんで……今は何かコイツ変な事抱えてるなとか、そんな事ぐらいで、うまいこと留めといて貰えないっすか……?」
そう言って深々と頭を下げる。
「……お願いします」
「……分かった」
決心が付いたら話す気でいる事も、抱えている事が自分達に本当に話したくない事だという事も。
よく分かった。
分かったから……それを言葉にして伝えてくれたから、ようやくこれくらいの事は言える。
言ってやれる。
「そういう事なら俺達も詮索したりはしねえ。アヤが話していいなって思ったら話す。それで良いし、結局話せなくても文句は言わねえ……それでいいけどさ。俺達で力になれる事なら力は貸すし、力になれねえ事でも愚痴の一つや二つ位は聞けると思うから。そのつもりでいるって事は覚えといてくれよ」
「……はい。ありがとっす」
アヤはレインの言葉に静かにそう言って頷く。
頷いてくれた。
だとすればこれでアヤの抱えている問題については一旦これまでだ。
アヤが話してくれた時に全力で手を貸す事を考えておけばいい。
きっとそれで良い。
叫んだわけではない。
だけど明確に普段の声音とは違う、アヤのどことなく圧の強い声でラグナの言葉を静止させる。
そのやり取りだけで、その事がアヤにとって触れられたくない事なのだという事はよく分かった。
「…………まあどうであれ教えた事が役に立ってるなら良かった」
ラグナも察したように無理矢理話の方向を転換する。
「そうっすね。おかげさまでうまくやれてるっす。ああ、こっちのアスカちゃんとレインさんの三人でパーティ組んでます。弓使いとして頑張ってるっすよ」
露骨に、元の話に戻らないように、たたみかけるようにそう話すアヤ。
そしてラグナもその一年半前の話をそれ以上広げるつもりはないらしい。
「そうか…………ってそうだ、冒険者になったならお前家には──」
「あの、ラグナさんちょっとこっち来るっすよ」
そう言って再び言葉を静止させ、ラグナの服を掴みこの場から離れようとする。
「あ、おい!」
「みんな、すぐ戻るんでちょっと待っててくださいっす」
「お、おう……」
そんなアヤに掛けられた言葉はそんな相槌くらいで、レインは離れていく二人を見送る事しかできない。
それからリカが困惑気味に言う。
「……アヤさん、一体何があったのかな?」
「わかりません。旧知に触れられたくない話が満載って事位しか……」
困惑する二人の声を聞きながら可能な限り今持っている情報を纏める。
触れられたくない話なのは分かるが、考えずに流す訳にはいかない。
新しい情報が入ってきているのなら尚更だ。
「今の感じを纏めると、ラグナさん的にはアヤが冒険者になったのが意外って感じだったな」
「そうみたいですね」
「……一年半前、ラグナさんが帰省した時点では他の何かになるつもりだった。そして冒険者になったからこそ家が云々……というよりその何かにならなかったから……みたいな話か?」
「……これだけじゃあまり分からないね。ただ流石にアヤさんが実家とあまりいい関係じゃない、みたいなのは察せるわけだから……その何かを目指していたから、もしくはならなかったから家とトラブルがあるって事かな」
「そういう事になるだろうな」
「……今ラグナさんが連れてかれたのって、ボク達への口止めって感じですかね」
「多分そうだと思う…………アイツ、本当に何隠してるんだ?」
結局そんな話を三人でしたわけだけれど、当然情報が足りなさすぎてなんの進展も無いまま。
「お待たせっす」
アヤがラグナと共に戻ってきた。
ただ……こちらが一応は安易に触れないようにしようというスタンスで居たとしても。
「…………えっと、なんかごめんっす」
何かが有ることに気付いていないフリを続ける事は流石に限界が有るわけで。
それが限界だという事が伝わる空気になるわけで。
そして問題がある事にレイン達が気付いているという事をアヤが把握したからだろうか。
このままというのが限界だという事に気付いたからだろうか?
どうするべきかと悩んでいるような表情を浮かべていたラグナが、言いにくそうに、だけどそれでも助言するようにアヤに言う。
「……全部話したらどうだ? 何かを隠している事がバレてる時点で色々と時間の問題だし……お前は俺以外の連中にも同じ様に口止めするのか? 全員お前の事情を知ってるのに」
「ちょ、ラグナさん……ッ!」
そしてアヤは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた後、その後深々とため息を吐いて、どこか不安そうな表情を浮かべてレイン達に言う。
「ごめんっす、なんか私の事で変な空気にしちゃって」
「いや、それは別に良いよ」
「……それで、今の話なんすけど」
アヤは呼吸を整えてから、似合わないオドオドした様子で言う。
「色々と決心が付いたら言うんで。絶対とは言えないっすけど言うつもりなんで……今は何かコイツ変な事抱えてるなとか、そんな事ぐらいで、うまいこと留めといて貰えないっすか……?」
そう言って深々と頭を下げる。
「……お願いします」
「……分かった」
決心が付いたら話す気でいる事も、抱えている事が自分達に本当に話したくない事だという事も。
よく分かった。
分かったから……それを言葉にして伝えてくれたから、ようやくこれくらいの事は言える。
言ってやれる。
「そういう事なら俺達も詮索したりはしねえ。アヤが話していいなって思ったら話す。それで良いし、結局話せなくても文句は言わねえ……それでいいけどさ。俺達で力になれる事なら力は貸すし、力になれねえ事でも愚痴の一つや二つ位は聞けると思うから。そのつもりでいるって事は覚えといてくれよ」
「……はい。ありがとっす」
アヤはレインの言葉に静かにそう言って頷く。
頷いてくれた。
だとすればこれでアヤの抱えている問題については一旦これまでだ。
アヤが話してくれた時に全力で手を貸す事を考えておけばいい。
きっとそれで良い。
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