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三章 誇りに塗れた英雄譚
2 三つの願い
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何度も休憩を挟みつつ俺達は歩き続け、やがて夜が訪れ日は沈む。
月明かりが照らす空の下、大きな木が目立つその場所で、俺達はその日の行動を終える事にした。
「……こんなに歩いたの、初めてかもしれねえ」
俺は生い茂る草の上に寝転がりながら、そんな事を呟いた。
「そうですね。私もこんなに歩いたのは初めてだと思います」
隣に座るエルがそう言うが、あまりそういう風には見えない。
「……の割には元気そうだな」
「いや、私も十分疲れてますよ。一人で歩いてたらとっくにギブアップしている位には」
確かに……俺もエルがいたからこれだけ歩くことができたのかもしれない。
マラソンしかり、こういう運動しかり、一緒に誰かと行えば多少なりとも疲労が軽減するのではないかと思う。中学のマラソン大会で得た教訓だ。
「やっぱり二人っていいですね」
そう言ってエルはニコリと笑う。
「そうだな。その通りだ」
確かに俺としても、居心地がいいのは間違いなかった。
それでも真面目にそんな話を続けるのは流石に恥ずかしい訳で……俺は一拍空けてから話題を切りかえる事にした。
「……にしても、星が良く見えるな」
咄嗟に思い付いた言葉だったが、それでもその言葉に嘘偽りはない。
空に浮かぶ星は池袋から見える景色とはまるで違う。いや、まあ異世界だから星そのものが違うんだろうけれど……仮に同じ星があったとすれば、きっと此方から見た方が美しく輝く。
「綺麗ですよね。夜空を見上げるのって私、結構好きなんです」
「俺はこうしてじっくりと見る機会なんてあまり無かったからな……それにまあ、見たことの無い星しかねえし。すげえ新鮮な気分だ」
「気にいってくれたなら良かったです。あ、そういえば流れ星に願い事ってした事ありますか?」
エルが不意にそんな事を聞いてきた。
こっちの世界にもそういう風習があるんだな、なんて事を考えつつ俺は答える。
「あるよ、三回程」
「何をお願いしたんですか?」
「そうだな。確か一回目の時は金欠だったから臨時収入の事を願ったな。叶わなかったけど。んで、二回目はモテたいって願ったな」
「叶ったんですか?」
「結局彼女なんて生まれてこの方できたことがねえよ。だから迷信だって。流れ星に願い事を言えば叶うだとか」
「そのうち、叶うかもしれませんよ?」
そう、エルは微笑みながら答える。
……なんだよそれ。なんか変な期待抱いちまうじゃねえか。
「そ、そうだな。叶うと良いな」
「叶うといいですね」
エルは表情そのままにそう返して来て……そしてふと、何かに思い至った様に俺に問う。
「そういえば三つ目ってどんなお願いだったんですか?」
「三つ目?」
そう言えば三回程って言っちまったんだっけか。
俺はその問いに、素直に答える事にする。
「三つ目は……そうだな。自分の性格を改善できますようにって。そう願った」
「性格……ですか?」
「そう、性格。自分にメリットなんて何処にも無いのに。突っかかったって、どんな形であれ痛い目に会うのが分かってるのに、それでも自分の中の正しさを曲げられない。自分が正しいと思う事をしないといられない。そんな自分に嫌気がさして……俺は一度、そんな迷信にも縋る思いで星に願ったよ」
そういう願い事をする段階にまで、自分の性格を深刻に思っていたんだよな。
そう。あの時まではそう思っていた。
「だけど……それが叶わなくて本当によかったって、今なら言える」
だってそうだ。
「あの時。お前を助けようとしてあの森に戻ってきて……そんでお前に突っぱねられて。その後のエルドさん達への説得もどうにもならなくて。流石にあの時、折れそうになったんだよ。完全に諦めかかってた」
それで……考えたんだよな。
「その時考えたんだ……酷い性格だと思いつつも、それでもほんの少し位はいい所もあったって言える、俺の悪い癖を取っ払っちまったら……後は何が残るんだろうって。そしたら空っぽに近かった。ずっとその悪い癖に支えられていて、ずっとどこかでその性格を誇りに思っている自分に気付けた。もしあの時の願いが叶っていたら、俺は自分の一番大切な部分を捨てちまうところだったんだ」
それに、と俺はエルに言う。
「もしあの時その願いが叶っていたら、お前を助けられなかった。お前の為に立ち上がる事も出来なかったんだ。事が終わって改めて考えても、やっぱりこの性格は俺の誇りだよ」
「成程……そういう事でしたか」
エルが何だか腑に落ちた様な表情でそう言う。
「そういう事って?」
「なんでエイジさんは私を助けてくれたんだろうって、少しモヤモヤしてたんですけど、これで理解できました。なんというか……他人事みたいになっちゃいますけど、大変だったんですね」
「ああ、大変だったんだぜ。この世界に来る直前だって、カツアゲされてる知らねえ奴助けるために不良六人に喧嘩売ってた。いやぁ、誠一……ああ、親友に助けられてなかったら本当にどうなってたか分かんねえよ」
まあエルドさん達と対峙したり、あの地下に潜入したりした一件と比べれば、どうなっていたか分からないと言ってもたかがしれてるけれど。
そんな俺の言葉に、エルは一拍空けてから言う。
「なんかエイジさんって……正義の味方みたいな人ですね」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
この世界に来る前の俺だったら、それは皮肉として受け取っていたかもしれないけれど、そういう事を言ってもらえるのが今は純粋に嬉しく感じる。
そしてそういう事を嬉しく感じられるんだと思える様になったのが、純粋に嬉しい。
……やっぱり俺の行動は。それをさせる性格は。俺にとっての誇りなんだって。改めて再認識した。
「さてと」
俺は体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
話のキリもいい。体も少し休まった。そろそろ動こう。
歩く訳じゃないけど。
「歩き疲れて胃に入るか分かんねえけど、明日の為にもなんか軽く食っとこうぜ」
「そうですね。あ、私アレ食べたいです。買い物初めてすぐに見付けた、なんかフルーツの絵入ってる奴」
「ああ、アレか」
所謂携帯食料。所謂カ○リーメイト的な奴だ。
栄養バランスが取れる上に、非常に満腹感が得られるという売り文句が出されていたのを覚えている。それなら旅をするのに買っておいた方が良いだろうと、いくつかの味を購入しておいた。エルが言っているのは、それのフルーツ味の事だろう。
「じゃあとりあえずそれ空けよう。エルはフルーツだな?」
そう言いながら俺はエルにフルーツ味を渡し、俺はチョコレート味を取り出す。
さて、どうもこの世界に来てから、こと食事に関しては非常にいい出会いをしていると言ってもいいだろう。
コイツもそれに続けるかどうか。
そんな期待を込めつつ俺は袋を空けてそれを口にした。
結論から言えば、元の世界に帰る時は絶対に何本か持って帰ろうと。そう心に決める様な、そんな味だった。
マジでこれ売りだしたら大ヒット間違いなしだぞ。言いたくはないけど、日本の奴より一段階上を行ってる。マジで凄い。
ただまあ……その晩使った寝袋に関しては日本製の方が圧倒的に良かったです。そう考えると俺達の世界も負けちゃいねえなと、そう思いながら俺は眠りについた。
月明かりが照らす空の下、大きな木が目立つその場所で、俺達はその日の行動を終える事にした。
「……こんなに歩いたの、初めてかもしれねえ」
俺は生い茂る草の上に寝転がりながら、そんな事を呟いた。
「そうですね。私もこんなに歩いたのは初めてだと思います」
隣に座るエルがそう言うが、あまりそういう風には見えない。
「……の割には元気そうだな」
「いや、私も十分疲れてますよ。一人で歩いてたらとっくにギブアップしている位には」
確かに……俺もエルがいたからこれだけ歩くことができたのかもしれない。
マラソンしかり、こういう運動しかり、一緒に誰かと行えば多少なりとも疲労が軽減するのではないかと思う。中学のマラソン大会で得た教訓だ。
「やっぱり二人っていいですね」
そう言ってエルはニコリと笑う。
「そうだな。その通りだ」
確かに俺としても、居心地がいいのは間違いなかった。
それでも真面目にそんな話を続けるのは流石に恥ずかしい訳で……俺は一拍空けてから話題を切りかえる事にした。
「……にしても、星が良く見えるな」
咄嗟に思い付いた言葉だったが、それでもその言葉に嘘偽りはない。
空に浮かぶ星は池袋から見える景色とはまるで違う。いや、まあ異世界だから星そのものが違うんだろうけれど……仮に同じ星があったとすれば、きっと此方から見た方が美しく輝く。
「綺麗ですよね。夜空を見上げるのって私、結構好きなんです」
「俺はこうしてじっくりと見る機会なんてあまり無かったからな……それにまあ、見たことの無い星しかねえし。すげえ新鮮な気分だ」
「気にいってくれたなら良かったです。あ、そういえば流れ星に願い事ってした事ありますか?」
エルが不意にそんな事を聞いてきた。
こっちの世界にもそういう風習があるんだな、なんて事を考えつつ俺は答える。
「あるよ、三回程」
「何をお願いしたんですか?」
「そうだな。確か一回目の時は金欠だったから臨時収入の事を願ったな。叶わなかったけど。んで、二回目はモテたいって願ったな」
「叶ったんですか?」
「結局彼女なんて生まれてこの方できたことがねえよ。だから迷信だって。流れ星に願い事を言えば叶うだとか」
「そのうち、叶うかもしれませんよ?」
そう、エルは微笑みながら答える。
……なんだよそれ。なんか変な期待抱いちまうじゃねえか。
「そ、そうだな。叶うと良いな」
「叶うといいですね」
エルは表情そのままにそう返して来て……そしてふと、何かに思い至った様に俺に問う。
「そういえば三つ目ってどんなお願いだったんですか?」
「三つ目?」
そう言えば三回程って言っちまったんだっけか。
俺はその問いに、素直に答える事にする。
「三つ目は……そうだな。自分の性格を改善できますようにって。そう願った」
「性格……ですか?」
「そう、性格。自分にメリットなんて何処にも無いのに。突っかかったって、どんな形であれ痛い目に会うのが分かってるのに、それでも自分の中の正しさを曲げられない。自分が正しいと思う事をしないといられない。そんな自分に嫌気がさして……俺は一度、そんな迷信にも縋る思いで星に願ったよ」
そういう願い事をする段階にまで、自分の性格を深刻に思っていたんだよな。
そう。あの時まではそう思っていた。
「だけど……それが叶わなくて本当によかったって、今なら言える」
だってそうだ。
「あの時。お前を助けようとしてあの森に戻ってきて……そんでお前に突っぱねられて。その後のエルドさん達への説得もどうにもならなくて。流石にあの時、折れそうになったんだよ。完全に諦めかかってた」
それで……考えたんだよな。
「その時考えたんだ……酷い性格だと思いつつも、それでもほんの少し位はいい所もあったって言える、俺の悪い癖を取っ払っちまったら……後は何が残るんだろうって。そしたら空っぽに近かった。ずっとその悪い癖に支えられていて、ずっとどこかでその性格を誇りに思っている自分に気付けた。もしあの時の願いが叶っていたら、俺は自分の一番大切な部分を捨てちまうところだったんだ」
それに、と俺はエルに言う。
「もしあの時その願いが叶っていたら、お前を助けられなかった。お前の為に立ち上がる事も出来なかったんだ。事が終わって改めて考えても、やっぱりこの性格は俺の誇りだよ」
「成程……そういう事でしたか」
エルが何だか腑に落ちた様な表情でそう言う。
「そういう事って?」
「なんでエイジさんは私を助けてくれたんだろうって、少しモヤモヤしてたんですけど、これで理解できました。なんというか……他人事みたいになっちゃいますけど、大変だったんですね」
「ああ、大変だったんだぜ。この世界に来る直前だって、カツアゲされてる知らねえ奴助けるために不良六人に喧嘩売ってた。いやぁ、誠一……ああ、親友に助けられてなかったら本当にどうなってたか分かんねえよ」
まあエルドさん達と対峙したり、あの地下に潜入したりした一件と比べれば、どうなっていたか分からないと言ってもたかがしれてるけれど。
そんな俺の言葉に、エルは一拍空けてから言う。
「なんかエイジさんって……正義の味方みたいな人ですね」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
この世界に来る前の俺だったら、それは皮肉として受け取っていたかもしれないけれど、そういう事を言ってもらえるのが今は純粋に嬉しく感じる。
そしてそういう事を嬉しく感じられるんだと思える様になったのが、純粋に嬉しい。
……やっぱり俺の行動は。それをさせる性格は。俺にとっての誇りなんだって。改めて再認識した。
「さてと」
俺は体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
話のキリもいい。体も少し休まった。そろそろ動こう。
歩く訳じゃないけど。
「歩き疲れて胃に入るか分かんねえけど、明日の為にもなんか軽く食っとこうぜ」
「そうですね。あ、私アレ食べたいです。買い物初めてすぐに見付けた、なんかフルーツの絵入ってる奴」
「ああ、アレか」
所謂携帯食料。所謂カ○リーメイト的な奴だ。
栄養バランスが取れる上に、非常に満腹感が得られるという売り文句が出されていたのを覚えている。それなら旅をするのに買っておいた方が良いだろうと、いくつかの味を購入しておいた。エルが言っているのは、それのフルーツ味の事だろう。
「じゃあとりあえずそれ空けよう。エルはフルーツだな?」
そう言いながら俺はエルにフルーツ味を渡し、俺はチョコレート味を取り出す。
さて、どうもこの世界に来てから、こと食事に関しては非常にいい出会いをしていると言ってもいいだろう。
コイツもそれに続けるかどうか。
そんな期待を込めつつ俺は袋を空けてそれを口にした。
結論から言えば、元の世界に帰る時は絶対に何本か持って帰ろうと。そう心に決める様な、そんな味だった。
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