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三章 誇りに塗れた英雄譚
22 瞳に映れば皆同じ
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加工場を出た俺はそのまま、精霊達が捕まっている部屋へと向かう。
やがて辿り着いたのは頑丈そうなスライド式の扉。正面で警備に付いていた警備員と精霊ををなぎ倒してから、俺はエルを元に戻して扉に手を触れる。
「びくともしねえ……まあ流石に、鍵が掛ってるか」
「どうします?」
「……一応この警備員が持ってないか調べてみるか。悪いけど、誰か来ないか見ててくれ」
「わかりました」
俺はエルに見張りを頼んでから、警備員の衣服を片手で必死に調べると、胸の内ポケットに鍵束が入っているのを見つける。
「お、あった」
精霊達がこの扉の外に出る事が無い様に警備しているだろうこの警備員が、その扉を開ける鍵を持っているなんて事は無いんじゃないかと思ったが、無事に見つかってよかった。
無ければ扉を破壊しなければならない所だった。アルダリアスの地下の強度を考えるに、こういう物もそう簡単に壊れないようにできているだろうから、見つからなければ非常に骨の折れる作業になっていたかもしれない。中に精霊がいる以上、斬撃をぶっ放す様な真似は出来ない訳だからな。
とはいえ喜ぶのはまだ早い。あくまで鍵束が見つかっただけで、それがこの扉の物かどうかは分からない。もしかしたら全く関係のない鍵束という可能性もある。
「開いてくれるといいですね」
「開いてくれないと困る」
そんな事を言いながら、一本目の鍵を鍵穴へと差し込む。
「ん、これっぽいぞ」
どうも最初の一発で当たりを引けたらしい。
ガチャリという音を立てて、鍵が開かれる。
「やりましたね」
「ああ、あとは扉を開けるだけ」
そして中の精霊を連れ出すだけだ……なんて考えは、少々所か、とんでもなく楽観的な考えだったのだろう。
寧ろ考えようによっては、カイルや警備員達との対峙よりもここが一番の鬼門なのかもしれない。
だってそうだ。そう簡単にいく訳がない。
俺はゆっくりと扉を開く。
そうして薄暗い明りだけが付けられたその部屋の中には、二十人程の精霊が居た。
頭を抱えながら振るえる精霊が。泣き叫ぶ精霊が。此方に涙目で強い敵意を向ける精霊が。虚ろな目でぶつぶつと何かを呟く精霊が。ただただ無言で、こちらに怯えた視線を向けた精霊が。そんな精霊達が、両手足に枷を嵌められて、そこにいた。
泣き叫ぶ声が今まで外に聞こえてこなかったのは、きっともうそれだけの気力が残っていなかったからなのだろう。それでも扉が開いたから。きっとそれが彼女たちにとっての終わりを告げる扉開いたから、嫌でもそんな声が出てきてしまったのだろう。
……なんだって俺は一瞬でも、この精霊達を連れ出すことを楽に考えてしまったのだろうか。
きっと精霊達から見れば、俺も此処の警備員や加工担当の作業員や、彼女たちを捕えた人間と同じように映るなんてことは、少し考えれば分かったはずなのに。
そんな風に一瞬、半ば呆然と立ち尽くしてしまったからかもしれない。
正面から飛んできた小石を躱すことができなかった。
精霊の一人が、枷を嵌められながらも無我夢中に投げたソレは、勢いよく右の瞼に当たる。
怪我は無い。肉体強化を継続して使っていたし、そして使っていないものが無理な体勢で投げた勢いのない石なんかで怪我をしているようなら、きっと俺はこんな所まで辿り着けてはいない。
それでも、心は痛むけど。
「大丈夫。俺は敵じゃない。お前達を、助けに来た」
決して間違いではない言葉を精霊達に掛ける。だけどそんな言葉が簡単に届く事は無い事はエルの時で体験済みだ。だから本当に、一番の鬼門だ。
何を言ってもきっと誰一人俺を信用してはくれない。そして、一か月の特訓であの時外せなかった枷を外せる位になったと自負できる俺の精霊術は、暴れて抵抗してくる精霊の枷を外せる程の精密さは待ち合わせていない。
本当にどうすればいいのか分からなくなってきた。
それでも何か声を出そうとした時。一つの違和感に気付いた。
確かに敵意はや怯えは向けられる。だけど精霊の半数程はそれに加えて動揺している様な素振りも見せてきた。
そしてそれは多分、俺の助けに来たとかそういう言葉によるものではない。そんな力は俺に無い。
もっと違う事。俺がエルを助けようとした時も。シオンが左腕を失ってまで枷を精霊に渡そうとした時も。そのどちらにも存在しなかった、この世界において異様な存在。
「……エル」
人間の隣にいるドール化されていない精霊。それがきっと彼女達が見せた動揺の原因だ。
そして……きっとこの状況を打開する為の糸口。
「だ、大丈夫です! エイジさんは……この人は人間ですけど……それでも、あなた達の敵じゃないんです!」
とにかく思い付いた言葉をぶつけるように、エルは精霊達にそんな声をかける。
その言葉を完全に信用することは難しいのかもしれない。だって多分精霊から見ても人間の隣に居る精霊は怪しく見えるだろう。
だけどそれでも、人間の俺が何か声をかけるよりはよっぽど説得力もあって、安心感もあるだろう。
「私達はあなた方を助けに来ました!」
俺は黙ってエルの邪魔にならないようにその説得を聞いていた。
やがて全員とは言わないけれど……それでも徐々に落ち着きだす精霊が出てきはじめる。
俺が声をかけていたら、下手すればもっと酷い事になっていたかもしれない。
……エルがいなければ完全に詰んでいた。
結局何がどうなろうと、俺一人ではどうにもならなかった訳だ。
そして今、今回に限っては、一人じゃないからどうにかなるかもしれない。
エルの言葉を聞きながら、安堵する様に小さく息を吐いた。
やがて辿り着いたのは頑丈そうなスライド式の扉。正面で警備に付いていた警備員と精霊ををなぎ倒してから、俺はエルを元に戻して扉に手を触れる。
「びくともしねえ……まあ流石に、鍵が掛ってるか」
「どうします?」
「……一応この警備員が持ってないか調べてみるか。悪いけど、誰か来ないか見ててくれ」
「わかりました」
俺はエルに見張りを頼んでから、警備員の衣服を片手で必死に調べると、胸の内ポケットに鍵束が入っているのを見つける。
「お、あった」
精霊達がこの扉の外に出る事が無い様に警備しているだろうこの警備員が、その扉を開ける鍵を持っているなんて事は無いんじゃないかと思ったが、無事に見つかってよかった。
無ければ扉を破壊しなければならない所だった。アルダリアスの地下の強度を考えるに、こういう物もそう簡単に壊れないようにできているだろうから、見つからなければ非常に骨の折れる作業になっていたかもしれない。中に精霊がいる以上、斬撃をぶっ放す様な真似は出来ない訳だからな。
とはいえ喜ぶのはまだ早い。あくまで鍵束が見つかっただけで、それがこの扉の物かどうかは分からない。もしかしたら全く関係のない鍵束という可能性もある。
「開いてくれるといいですね」
「開いてくれないと困る」
そんな事を言いながら、一本目の鍵を鍵穴へと差し込む。
「ん、これっぽいぞ」
どうも最初の一発で当たりを引けたらしい。
ガチャリという音を立てて、鍵が開かれる。
「やりましたね」
「ああ、あとは扉を開けるだけ」
そして中の精霊を連れ出すだけだ……なんて考えは、少々所か、とんでもなく楽観的な考えだったのだろう。
寧ろ考えようによっては、カイルや警備員達との対峙よりもここが一番の鬼門なのかもしれない。
だってそうだ。そう簡単にいく訳がない。
俺はゆっくりと扉を開く。
そうして薄暗い明りだけが付けられたその部屋の中には、二十人程の精霊が居た。
頭を抱えながら振るえる精霊が。泣き叫ぶ精霊が。此方に涙目で強い敵意を向ける精霊が。虚ろな目でぶつぶつと何かを呟く精霊が。ただただ無言で、こちらに怯えた視線を向けた精霊が。そんな精霊達が、両手足に枷を嵌められて、そこにいた。
泣き叫ぶ声が今まで外に聞こえてこなかったのは、きっともうそれだけの気力が残っていなかったからなのだろう。それでも扉が開いたから。きっとそれが彼女たちにとっての終わりを告げる扉開いたから、嫌でもそんな声が出てきてしまったのだろう。
……なんだって俺は一瞬でも、この精霊達を連れ出すことを楽に考えてしまったのだろうか。
きっと精霊達から見れば、俺も此処の警備員や加工担当の作業員や、彼女たちを捕えた人間と同じように映るなんてことは、少し考えれば分かったはずなのに。
そんな風に一瞬、半ば呆然と立ち尽くしてしまったからかもしれない。
正面から飛んできた小石を躱すことができなかった。
精霊の一人が、枷を嵌められながらも無我夢中に投げたソレは、勢いよく右の瞼に当たる。
怪我は無い。肉体強化を継続して使っていたし、そして使っていないものが無理な体勢で投げた勢いのない石なんかで怪我をしているようなら、きっと俺はこんな所まで辿り着けてはいない。
それでも、心は痛むけど。
「大丈夫。俺は敵じゃない。お前達を、助けに来た」
決して間違いではない言葉を精霊達に掛ける。だけどそんな言葉が簡単に届く事は無い事はエルの時で体験済みだ。だから本当に、一番の鬼門だ。
何を言ってもきっと誰一人俺を信用してはくれない。そして、一か月の特訓であの時外せなかった枷を外せる位になったと自負できる俺の精霊術は、暴れて抵抗してくる精霊の枷を外せる程の精密さは待ち合わせていない。
本当にどうすればいいのか分からなくなってきた。
それでも何か声を出そうとした時。一つの違和感に気付いた。
確かに敵意はや怯えは向けられる。だけど精霊の半数程はそれに加えて動揺している様な素振りも見せてきた。
そしてそれは多分、俺の助けに来たとかそういう言葉によるものではない。そんな力は俺に無い。
もっと違う事。俺がエルを助けようとした時も。シオンが左腕を失ってまで枷を精霊に渡そうとした時も。そのどちらにも存在しなかった、この世界において異様な存在。
「……エル」
人間の隣にいるドール化されていない精霊。それがきっと彼女達が見せた動揺の原因だ。
そして……きっとこの状況を打開する為の糸口。
「だ、大丈夫です! エイジさんは……この人は人間ですけど……それでも、あなた達の敵じゃないんです!」
とにかく思い付いた言葉をぶつけるように、エルは精霊達にそんな声をかける。
その言葉を完全に信用することは難しいのかもしれない。だって多分精霊から見ても人間の隣に居る精霊は怪しく見えるだろう。
だけどそれでも、人間の俺が何か声をかけるよりはよっぽど説得力もあって、安心感もあるだろう。
「私達はあなた方を助けに来ました!」
俺は黙ってエルの邪魔にならないようにその説得を聞いていた。
やがて全員とは言わないけれど……それでも徐々に落ち着きだす精霊が出てきはじめる。
俺が声をかけていたら、下手すればもっと酷い事になっていたかもしれない。
……エルがいなければ完全に詰んでいた。
結局何がどうなろうと、俺一人ではどうにもならなかった訳だ。
そして今、今回に限っては、一人じゃないからどうにかなるかもしれない。
エルの言葉を聞きながら、安堵する様に小さく息を吐いた。
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