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四章 精霊ノ王
4 天秤
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だけど果たして俺達に、悩めるだけの選択肢は用意されているのだろうか。
本当にその自問自答に、答えられるだけの立場にあるだろうか。
その答えは否で、きっと俺に好き勝手に進路を選択するだけの権利はない。自ら捨ててきてしまったと言ってもいいだろう。
「そうですね。確かに考えすぎだといいんですけど……辿り着かないと分からないし、辿り着いてからじゃ遅いんですよね」
「……ああ」
「……嫌な予感がします」
エルは本当に不安そうな表情で言葉を紡いでいく。
「別にこういうカンが当たるとか、そういう特技は私にはありません。だけど嫌な予感がするんです。不安なんです。本当に小さな可能性だとしても、何かが起きる気がして……不安なんです」
「エル……」
「だから言い出した私が言っていいのかは分かりませんけど、もし他に選択肢があるのなら、そっちを取った方が良いと思うんですよ」
……正直、俺もそれがベストだとは思う。他に取れる選択肢があるのならば、それを取った方がいいんだと思う。
だけどこれだけは分かる。
「でも他に取れる選択肢は……きっと、もっと酷いぞ」
絶界の楽園に向かう事によって生じるリスク。それはきっと数値にすれば凄く低い確率になるのだろう。仮説の上の仮説から弾き出される可能性なんてのはそんなものだ。
だけど他の選択肢。他の何かをした場合に生じるリスクは果たしてどうだろうか。
「エルもさ……気づいてんだろ? 今の状態が長く続かない事を」
俺の問いに、エルはゆっくりと頷いた。
「俺もエルもアイツらも、みんな人から追われる。そして多分、いずれ打開もできなくなる。明確に俺達を叩き潰せるだけの戦力をぶつけられれば、それで終わっちまう」
今まで戦闘を切り抜けられたのは、こちらの強さが相手に伝わっていなかったのが大きい。
故に巻き込まれても。巻き込まれにいっても。最終的にはなんとかなった。
だけど工場内で戦った憲兵達に関しては、明らかにこちらの強さをある程度想定して戦力を投入してきた。結果的にどうにかなったものの、その次がどうなるかなんてのは分からない。そしてあれ以上の戦力を投入されると、そこに待っているのは敗北の二文字だ。
俺達は今、そういう戦力をいつぶつけられてもおかしくない立場なんだ。
「だから、そんな状態で当てもなく彷徨うなんて事はできないだろ」
一瞬当てとしてハスカ達が向かった何処かが思いついたが、これも実質当てが無いのと変わらない。俺もエルもその場所を知らず、道中ヒルダ達に興味本位で聞いてはみたが、彼女達もその場所を知らなかった。その場所を探すという事はまさしく彷徨う事と同義だ。
もっとも絶界の楽園を目指すとしても、近くの湖が外れだったら別の湖目指して彷徨うことになるのだけれど、それでもぼんやり残っている地図の記憶と明確が目的があるという事だけでも、十分にマシで……それにだ。
「それに、高確率でうまくいくかもしれない道を捨てて、そういう道を選ぶ訳にもいかないだろ」
絶界の楽園に纏わりつくリスク。何度だって考えたが、その可能性は非常に少ないんだ。そうでない可能性の方が圧倒的に高い。
あくまで俺が実体験で襲われているから過敏になっているだけで……きっと本来ならば、他の選択肢と天秤に掛けるまでもなく選択する道なのかもしれない。
それだけ絶界の楽園は、行き場を失った俺達にとって唯一まともに縋れる場所で、それだけ他の選択肢が無謀そのものなんだ。
絶界の楽園を目指すという選択肢を選ぶ事は、唯一、俺がエル達を助けられる道なんだ。
「だから俺は……絶界の楽園に向かった方がいいんじゃないかって思ってる」
それが俺の選択。唯一見えた選択肢。
その選択に、エルも一応賛同してくれるようだった。
「そう……ですね。確かにその方がいいのかもしれません。単純なリスクの大きさでいったら、絶界の楽園に向かう事が一番低いと思いますから」
言いながらも不安そうな表情を浮かべている。
そして俺もまた、不安そうな表情を浮かべていたのかもしれない。
そんな表情で。そんな声で。俺は実質的に消去法で先の進路を決める。
その先にエル達が笑っている未来がある事を信じて。
本当にその自問自答に、答えられるだけの立場にあるだろうか。
その答えは否で、きっと俺に好き勝手に進路を選択するだけの権利はない。自ら捨ててきてしまったと言ってもいいだろう。
「そうですね。確かに考えすぎだといいんですけど……辿り着かないと分からないし、辿り着いてからじゃ遅いんですよね」
「……ああ」
「……嫌な予感がします」
エルは本当に不安そうな表情で言葉を紡いでいく。
「別にこういうカンが当たるとか、そういう特技は私にはありません。だけど嫌な予感がするんです。不安なんです。本当に小さな可能性だとしても、何かが起きる気がして……不安なんです」
「エル……」
「だから言い出した私が言っていいのかは分かりませんけど、もし他に選択肢があるのなら、そっちを取った方が良いと思うんですよ」
……正直、俺もそれがベストだとは思う。他に取れる選択肢があるのならば、それを取った方がいいんだと思う。
だけどこれだけは分かる。
「でも他に取れる選択肢は……きっと、もっと酷いぞ」
絶界の楽園に向かう事によって生じるリスク。それはきっと数値にすれば凄く低い確率になるのだろう。仮説の上の仮説から弾き出される可能性なんてのはそんなものだ。
だけど他の選択肢。他の何かをした場合に生じるリスクは果たしてどうだろうか。
「エルもさ……気づいてんだろ? 今の状態が長く続かない事を」
俺の問いに、エルはゆっくりと頷いた。
「俺もエルもアイツらも、みんな人から追われる。そして多分、いずれ打開もできなくなる。明確に俺達を叩き潰せるだけの戦力をぶつけられれば、それで終わっちまう」
今まで戦闘を切り抜けられたのは、こちらの強さが相手に伝わっていなかったのが大きい。
故に巻き込まれても。巻き込まれにいっても。最終的にはなんとかなった。
だけど工場内で戦った憲兵達に関しては、明らかにこちらの強さをある程度想定して戦力を投入してきた。結果的にどうにかなったものの、その次がどうなるかなんてのは分からない。そしてあれ以上の戦力を投入されると、そこに待っているのは敗北の二文字だ。
俺達は今、そういう戦力をいつぶつけられてもおかしくない立場なんだ。
「だから、そんな状態で当てもなく彷徨うなんて事はできないだろ」
一瞬当てとしてハスカ達が向かった何処かが思いついたが、これも実質当てが無いのと変わらない。俺もエルもその場所を知らず、道中ヒルダ達に興味本位で聞いてはみたが、彼女達もその場所を知らなかった。その場所を探すという事はまさしく彷徨う事と同義だ。
もっとも絶界の楽園を目指すとしても、近くの湖が外れだったら別の湖目指して彷徨うことになるのだけれど、それでもぼんやり残っている地図の記憶と明確が目的があるという事だけでも、十分にマシで……それにだ。
「それに、高確率でうまくいくかもしれない道を捨てて、そういう道を選ぶ訳にもいかないだろ」
絶界の楽園に纏わりつくリスク。何度だって考えたが、その可能性は非常に少ないんだ。そうでない可能性の方が圧倒的に高い。
あくまで俺が実体験で襲われているから過敏になっているだけで……きっと本来ならば、他の選択肢と天秤に掛けるまでもなく選択する道なのかもしれない。
それだけ絶界の楽園は、行き場を失った俺達にとって唯一まともに縋れる場所で、それだけ他の選択肢が無謀そのものなんだ。
絶界の楽園を目指すという選択肢を選ぶ事は、唯一、俺がエル達を助けられる道なんだ。
「だから俺は……絶界の楽園に向かった方がいいんじゃないかって思ってる」
それが俺の選択。唯一見えた選択肢。
その選択に、エルも一応賛同してくれるようだった。
「そう……ですね。確かにその方がいいのかもしれません。単純なリスクの大きさでいったら、絶界の楽園に向かう事が一番低いと思いますから」
言いながらも不安そうな表情を浮かべている。
そして俺もまた、不安そうな表情を浮かべていたのかもしれない。
そんな表情で。そんな声で。俺は実質的に消去法で先の進路を決める。
その先にエル達が笑っている未来がある事を信じて。
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